宇宙へ
ライラ・バズは、非常に興味をそそられていた。
XX-0X-3 空牙
型式番号の『X』は、恐らく極秘に開発される際に使われるコードだろう。開発コードを隠す際に、よく使用される。末尾の『3』は、3号機を表している。つまり、探せば1号機と2号機も存在しているだろう。
もしかすると、後継機もあるかも知れない。
「空牙には、今までに無いありとあらゆるシステムが盛り込まれています。例えば…」
タイラー・ミッシェン技術中尉は、脇に抱えていたタッチパネル式タブレットをライラへ見せる。
スクリーンには空牙のデータが表示されており、ミッシェン技術中尉は、“frame”という表示をタッチペンで触れる。
すると、いくつかのデータと共に、今は装備されていない武装が表示された。
「FWCS:From Weapon Change Systemと言うんですが、実際はフレームを変えるのではなく、フレームに装備するブースターやアーマー等を変更するシステムなんです。
まだ試験段階なのですが、上手く行けば、新たに局地対応型SPAまたはSPCを生産せずとも、換装するのみであらゆる局面に対応できるような機体の開発に至るはずです」
「なるほど、開発コストの削減と、戦後の軍縮対策というやつか」
「えぇ、政治家にはそう見えるでしょうが、我々のようなエンジニアリングにとっては、新たな可能性への挑戦でもあります」
ミッシェン技術中尉の言葉には、力強く生き生きとしたものが感じられた。
それほど、この空牙へおける期待は大きいのだろう。
「他にも、こんなものがあります」
そう言って、次に『AI』という表示をタップする。
「この機体には、自己教育型人工知能が登載されています。我々は“AYA”と呼んでいます。開発者の娘さんが、アヤという名前らしくて」
「親バカか?」
「そのようです。こちらもまだ試験段階であり、色々と教育させなければなりません。一応、基礎的な動きはプログラミングしているのですが、どうにも…」
「体で覚えさせろ、か。人間と同じだな」
ライラは皮肉にも似た笑みを浮かべた。
「教育型人工知能はそんなものです。上手く行けば、パイロット無しで機体を動かすことが可能になるはずです」
「無人機動兵器か…。こいつの完成は、冷酷な大量虐殺兵器の完成って事になるな」
これまた皮肉を込めた言葉が口をついた。
確かに、無人機動兵器が完成すれば、戦地へ人間を送らなくとも良くなる。しかし、感情の持たない兵器が戦場に立てば、十中八九、大量虐殺が行われるだろう。
感情があるからこそある程度の抑制が効くが、感情が無ければ無駄な死者が増えるだけかも知れない。
「映画みたく、反乱したりして」
「おっしゃる通り、そのような事が今でも争点になっております。なので、表向きではあくまでパイロットのサポートAIの作成と言うことになっています。それにまだ、このAYAにはそこまでの知能はありませんよ」
「ま、反乱しようものなら叩き潰すがな」
これは本音である。ライラなら、敵と見なしたモノを徹底的に駆逐する。今までがそうだったように、これからも変わらないであろう。
しかし、単に駆逐すると言っても、無慈悲にでは無い。敵が単なる殺人ロボットなら、情け容赦なく破壊するが、生きた人間なら別の方法も考える。
甘く見られがちだが、それが彼のやり方だ。
「しかし、良いのか?部外者のオレにペラペラ喋って」
「部外者?何を仰っているのです?大尉は、この空牙のパイロットですよ?」
「は?」
まさに寝耳に水とは、この事であった。
空牙のパイロットに任命されていたとは、全く知らなかった。転属通知には、単に月面勤務とだけ書いてあっただけであったし、誰からも何も言われなかった。
ライラは、バカみたいに口をポカンと開け、ミッシェン技術中尉の顔を見る。
「あまり情報が伝わっていないようですね」
「そのようだ。ま、慣れっこさ」
「そうですか。おっと、時間のようです。そろそろシートに着きましょう」
「あぁ。あ、ミッシェン技術中尉」
「はい?」
「これからよろしく頼む」
「えぇ、こちらこそ」
ライラはタイラーに連れられ、格納庫を後にした。
これから、戦いの舞台は宇宙だ。どこだろうと、何があろうと、必ず仲間を守ってみせる。




