エピローグ あたしはとても恐かった
あたしは携帯電話を壊した。八谷の持っていたダミーではない、本物のオロチの携帯電話を。
オロチはあたしだ。
考案したのも身元のつかない携帯電話を持ってきたのも八谷だけどその「秘密」の大半はあたしが集めたものだ。人の信用を勝ち取るためには嘘が必須になる。クラス内で無理をしてニコニコしている甲斐があるというものだ。
それともう一つ。あたしは八谷竜平に殺意を持っていた。長瀬直人が八谷の口調と仕草で五十音の教室に現れたとき心臓を串刺しにされた思いだった。最上速人と三条智美も似たような感覚を味わっただろう。
「ねえ、田島くん」
田島灯哉は目だけをあたしのほうに動かした。
「あたしは八谷を殺したの。飯島美月を使ってね」
直ぐに彼は眼を伏せる。余談だけど彼は言葉を話さない。別に障害があるわけでもなんでもなくただ話したくないからだ。ここまでコミュニケーション能力に欠如していてよく生きていけるものだなと感心する。だからこそ秘密の話を打ち明けるには絶好の人間だったりする。彼は誰にも話さないんじゃなくて、誰とも話さないから。
「方法はね、飯島の性同一性障害をクラス中に公表すること。それを八谷の仕業だと思わせたら飯島は八谷を殺すんじゃないかなって思ったの。八谷は五十音の前でいかにも自分がオロチです、って振る舞いをしてたし、実際サブの携帯はあいつも持っててあいつもオロチみたいなものだったから思わせること自体は難しくないと思ってた。あとで一言オロチは八谷よ、って教えてあげたらいいもの。最上くんたちがあそこまで飯島に協力するのは予想外だった」
話していると少しづつ心が軽くなっていく気がする。
「八谷を殺そうと思った理由はね、彼があたしの嘘を見破れるのがとても恐くなったから。あたしにとって嘘は鎧なの。自分で手をくださなかったのは隠し通す自信がなかったから。警察に、じゃなくて自分自身の罪悪感からね。完全犯罪自体は最上くんを巻き込めば難しくないと思う。最上くんはともかく三条さんはそのうち破綻するかもね」
田島くんは膝に顔を埋めた。心底興味がないらしい。
「恐かったの。どんな嘘をついても彼にだけは本心を見破られてしまう。あたし、嘘ばっかりついてきたからすごく恐かったの……」