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召喚? 誘拐の間違いでは?  作者: 篠月珪霞


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中編

待ちに待った、魔法使い様とご対面の日がやってきました!

宰相様も同席されるとのことで、あの美形がいるよりやりにくいかもしれないけど。や、だって一国の宰相様だぞ? 国の頭脳だぞ? 一介の庶民が勝てる気しない。

ノックに応答すると、長身の男性が入ってきた。


「やあやあ、君が陛下の番ちゃん? よろしくー」


番ちゃんって…ちゃん付けされる年じゃないんですけどね…。魔法使いといえば黒のローブ、というイメージそのままだったが…国で一番の使い手ってことで間違いないですか? 本当に?

思ってたよりずっと若いし、どんなにいってても20代後半といったところ。そんでもって、苦手なタイプだ。軽そうに見えて、こちらを品定めするような目も。

が、こちらも負けてはいられん。人生がかかってる。大丈夫、取引先の人間だと思えば。


「初めまして、白井と申します。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」

「シライ? 名前? 家名?」

「元居た世界でも、一庶民ですので」

「ふうん?」


それ以上明かす気はないと言外に匂わせると、魔法使い様の目が面白そうに細められた。


「そこの宰相閣下と違って、腹の探り合いは嫌いでね。早速用件を聞こうか。君は、僕に何を求めてるんだい?」

「その前に、ウリエルさん」

「なんでしょう?」

「契約書って作れますか? できれば証人になっていただきたいのですが」

「契約書、ですか?」

「はい。法的効力のあるものを」

「できないことはありませんが…」


ちらり、と魔法使い様を見る宰相様。


「何の契約しようっていうのかな? 僕は高いよ?」

「正式な交渉前の、契約書を作りたいんです。取り敢えず用意してもらってもいいですか?」

「…少しお待ちください」


そうして、侍従さん?に何かを言付ける。待ったのは数分程度。仕事早いなー。


「こちらをお使いください」


差し出されたのは、契約内容だけが空白の、契約書の雛形だった。


「私、この国の言語で書けないので、ウリエルさんお願いできますか?」

「魔法契約書ですので、番様のお国の言語でもおそらく自動変換されると思いますが、私が書いた方がよろしければ」

「それでしたら、自分で書きます。しかし、自動変換ですか」

「この世界で使用されている言語は、我が国含めて大きく5つはありますので」

「そうなんですね」


翻訳者挟むよりは確実で手間がかからない。便利だ。

では、と必要事項を書き込む。といっても一行だけだ。

書き終わり、宰相様に渡す。


「ちなみに、契約書に反した場合のペナルティは何ですか?」

「即、電撃が走るようになっています。あとは、契約内容に沿った罰則があります」

「分かりやすくていいですね」

「──スイエル」


今更だが、魔法使い様は、スイエルさんというらしい。宰相様から受け取った契約書に目を通している。


「えーっと、なになに…『シライとの交渉において偽りを述べるべからず。質問も然り』。…これだけ?」

「交渉前に質問がありますので。依頼と交渉はそれ次第です」

「へえ? まあこれくらいならいいよ」


サラサラと羽ペンを使って書き込む。同じく私、宰相様も。


「じゃあ、聞きたいことあるならどうぞ」

「ではまず、番についてですが、すべての獣人の方に番が見つかるものですか?」


獣人が主に住まうこの国で、番は運命で絶対の存在だそう。年頃になると番を探す旅に出るとか。


「いいや? そんなわけない。この国にいるとは限らないし、人口は何十レベルじゃないし」

「では、見つからない獣人の方はどうしてるんですか?」

「番を生涯探す奴もいるけど、大体は関係なくパートナーを見つけて暮らしてるね」

「その後で番が見つかったらどうするんです? 離婚したり?」

「それも滅多にない。一時期、それが問題になったし」

「…問題?」

「うん。妻子がいるのに逃避行に走ったり、殺されたり、まあ色々ね」

「なるほど…」


この辺りは予想通りではある。すべての獣人の番が同年齢に生まれてるとは思えないし、広い世界で必ず出逢うわけでもないだろうと。

始めに宰相様に説明されたのは、要約すると、ここが獣人の国で、私が陛下の番であることと、番が運命に決められた結ばれるべき相手であるということ。

そして、番である私が、魔法によって召喚されたということ。


「では、わざわざ異世界から召喚してまで、陛下の番を宛がおうとしたのは何故です?」

「あー…やっぱそこ疑問だよねえ」

「はい。見つからないならそれなりに、対処方法があったのではないかと思うのですが」

「確かになくもない」

「では何故?」

「んー…王家って子供ができにくいんだよね」

「………それはつまり」

「そ。番だと確率高いの。で、探索もしたけど、陛下の番はこの世界にはいなかった」


それで私が。


「…………呑み込めませんが、分かりました」


納得? できるわけがない。人身御供と何が変わらない?

子を産む道具と、言われるのと何が変わらない?


「質問は以上?」

「いえ。…召喚魔法は、対象を戻すこともできますか?」

「まあ、できなくはない、といったところ」

「と、いうのは?」

「すぐには無理ってところかな。道具も人もいる。だから、王家くらいの財力・権力がないと揃えられない」


不可能ではないが、少なくとも魔法使い様1人ではどうしようもないということか。

道具がどんなものであれ、安価でもなく、人は人でも、おそらく人材的な人だ。単純な人数ではなく、魔法使い様のような人材が複数必要なのだろうと推測する。

そういえば、この魔法使い様は、召喚されたときにいただろうか。国一の使い手ならいたはずなのに、見覚えがない。先ほど顔を合わせたときも、私を知らないようだった。

いや、その場にいたかどうかは問題ではないか。


「…ありがとうございました。今後の方針が大体決まりました」

「それは何より。一応陛下からはなるべく協力するようには言われてたからね~。まあ、君を帰す以外で、だけど」

「でしょうね」

「それにこれくらいなら、契約書作らなくても、嘘なんかつかないのに。デメリットになるようなことないし」


私が知ったところで、何もできない。そう言っているのだ。

悔しくても、魔法使い様の言っていることは間違っていない。ため息をひとつつく。


「私には、それが嘘か本当か、判断がつきませんので」

「だから契約書を?」

「はい。この国に来たばかりの私には、分かることの方が少ないですし」

「──それで、改めて聞くけど。君は僕に何をしてほしいのかな?」

「現時点ではまだ、お願いすることはありません」

「まだ、か」


くくっと楽しそうに魔法使い様は笑っている。何がそんなに彼の琴線に触れたのか、さっぱり分からない。


「ウリエルさん。たびたびで申し訳ないのですが」

「はい」

「司法に詳しい人間を紹介していただけますか? できれば、有能な人を」

「だったら、僕の知り合い呼ぼうか? 融通利かないけど、仕事だけはできるよ~」

「メルキセデクか」

「そう。宰相閣下も適任だと思うでしょ」


この会話にもペナルティがないということは、問題なさそうかな。


「では、その方の予定を、」

「ああ、大丈夫、明日には連れてくるよ」


いいのか、本人の承諾なしにそんな約束して。

融通利かないというのが、吉と出るか凶とでるか。



















…やっぱり、予定は先に聞くべきではないでしょうか。特にご多忙な方は。

目の前の魔法使い様はにこにこしていらっしゃいますが、お隣の不機嫌な方、無理やり引っ張ってきましたね?

ある意味予想通りではあるが。


「ザルク=メルキセデクだ」

「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。白井と申します。お忙しい中、ご来訪ありがとうございます」

「ザルクはね~、司法部のトップなんだよ~」


日本で言えば、最高裁判官的な?

法務はたぶん宰相様の管轄だろうし。


「来ていただいてなんですが、お仕事の方は…?」

「………」

「申し訳ありません、手短に済ませますね」


察した。










「なるほどな…」

「はい、どうでしょう。該当するかと思いますが」

「状況を鑑みるに、確かに。しかし、そういうことであれば、私ができることはないな」

「え~ザルクつめたーい」


確認できただけで、十分です。前知識がないと話にならないからと、法律書読み込んだ甲斐はあったわ。地球でさえ国によって違うのに、この国と日本の法律がまったく同じとは思えなかったし。法は、国と時代と状況次第で作られるものだからね。

どうでもいいですが、茶々を入れないでください、魔法使い様。


「黙れ。どう考えても無理だろうが。お前も分かってるだろう」

「まあ、ザルクの立場的にね~」

「だが、シライの言うことは尤もだ。私自身は難しいが、部下を貸そう」

「お申し出は大変ありがたいのですが、相当手間がかかるのに、その方に支払える対価になるようなものを、私は持ち合わせておりません」


国が違えば通貨も違う。財産は言わずもがな(財布の中身程度では…)、労働力という意味でも、肉体的、知識的に貢献できる要素がない。悪いが、本当に平凡な一庶民なのだ、私は。


「え、じゃあ番ちゃんはどうするつもりだったの?」

「人の手を借りなくても、自分でどうにかしようかと。手続きとかも、今日聞ければと思ってました」


ええーっとか無意味に声を上げないでください。無謀なのは分かってますが、他に手段がないので。


「それなら、問題ない」

「どういうことでしょう?」

「元凶が元凶だからな。職務中として、派遣する形にするつもりだ」

「それは助かりますが…」

「では、話しを通しておく」


そう言って、さっさと立ち上がり、司法部の長官様は出ていった。本当に時間押してたんですね。申し訳ない。


「うまくいってよかったね~」


そして、なんでまだいるんですか、魔法使い様。優雅にお茶飲んでいらっしゃいますが、お仕事は?


「連れてきていただいたことは感謝しますが…」

「何が言いたいのかな?」

「正直、何故ここまでしてくれるのか、疑問です」


他人の厚意と、素直に受け取れるだけの信用はない。あるわけがない。


「他意はないよ。ただ…」

「ただ?」

「僕の今後と、ザルクの現状がね」


長官様の現状? 私と一体何の関係が?

疑問が顔に出ていたのだろう、魔法使い様は笑う。


「昨日、言ったでしょ。いろいろ問題があったって。未だに、0にはなんないんだよね、何故か」

「ああ…」


番関係のトラブルね。

司法のトップなら、決裁は彼にかかってくるということだろう。長官様が忙しい理由か。


「法律ができても、厳罰に処されても、犯罪ってのはなくならない。何でだろうね」

「個性と環境と考え方の違い、あとは想像力の欠如ですかね」

「想像力の欠如か~。面白いこと言うね」

「今回の私の件は、見せしめみたいなものですか」

「人聞き悪いな~」

「それでもきっと」

「うん、分かってるよ。十分にね」


多少の抑止力にはなるかもしれないが、完全にはなくならない。

そういうものだから。


















ここでいう、司法部の長官は、司法長官(所属:法務)とは別物という意味で書いています。

あくまでも、司法部トップという意味の、長官です。

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