第10章 球体の封印
「お前たち、ここまで来たのか。よくやった」
アクシスは言った。その声には千年の疲労と少年の嘲りが混ざっていた。
「次はどこだ? まだ遠いのか?」グレブはテッサの柄を握りながら尋ねた。
アクシスは疲れたようにため息をつき、見えない埃を払うように顔を手で拭き、指を鳴らした。彼の背後にエレベーターが現れる。鍛造された装飾と彫刻が施され、床はガラス張りで、その下には果てしない深淵が口を開けていた。
彼は先に乗り、手招きした。
「ついてこい」
エレベーターが震え、上昇を始めた。
そのときソフィラの頭に声が響いた――静かで、しかし執拗な声。
「リッサ……リッサが待っている……助けられる……再会できる……抱きしめられる……もう痛みも恐怖もない……」
声は囁き、歌い、約束する。瞬く間にその願いは強まり、彼女のすべてを満たしていく。
「球体に触れ……封印を壊せば……すべて元に戻る……」
一方グレブの頭には、家族の光景が浮かんでいた。笑う父、微笑む母、手を伸ばすアニ。「家族……家……人生……取り戻せる……」
エレベーターが止まる。
扉が開き、彼らは古びたゴシック様式の天文台へと足を踏み入れた。
ステンドグラス越しに血のような月光が差し込み、大理石の床を赤く染めている。
中央にある黒い石の台座。その上に、脈動する球体があった。刻まれた紋様が明滅し、星のように瞬いている。
ソフィラはその前で立ち止まった。
声がさらに強くなる。
「触れ……触れ……リッサが生き返る……」
彼女は拳を握りしめる。
「私は……何度も死んだ……戦った……すべては……」
— お前たちは、生きたいという執念に導かれてここに来た。
アクシスの声が響いた。
— さあ、世界を救え。均衡を取り戻せ。封印を壊せ。
「そうだ! 壊せ!」と声が頭の中で叫ぶ。
ソフィラは球体へと走り出した。
その瞬間――
グレブは躊躇なくテッサを彼女の背に突き刺した。
「家族を……渡せない」
刃は肉ではなく、影のようなものを貫いた。
ソフィラの動きが止まる。
時間が凍る。
彼女はゆっくり振り返った。
その目にあったのは――怒りではなく、理解とわずかな感謝。
— どうして……?
そして崩れ落ちた。
球体が震えた。
世界そのものが揺らぎ始める。
アクシスはただ静かに見ていた。
— さあ、触れろ。
グレブは一歩踏み出し、球体に手を置いた。




