第9章 ドラゴン
彼らがようやく息を整える間もなく、城の上の空はさらに暗くなった。空気は重くなり、その振動で足元の石が震えた。
城の牙のような塔の間から、黒いドラゴン――深淵の牙が姿を現した。帆のように広い翼が月光を覆い隠す。鱗は黒いが、その奥には深紅の炎が脈打ち、まるで溶岩が流れているかのようだった。瞳は冷たく、古い知性に満ちていた。
ドラゴンは城門の前に降り立ち、尾で地面を打ちつけると石畳がひび割れた。口から放たれた咆哮は単なる音ではなく、純粋な力の波だった。壁が震え、人々の耳は鳴り、視界が暗くなる。
グレブとソフィラは耐えきれず膝をついた。グレブは拳を握るが、頭を上げられない。ドラゴンの意思が彼を地に押し付け、呼吸すら奪う。ソフィラは堪えきれず泣き崩れた。痛みではなく、無力さから。涙が頬を伝い、埃と血に混ざる。
「私たちは……勝てない……」彼女はかすれる声で言った。「何度も戦った……死んで……蘇って……でも……一度も勝てなかった……」
グレンは損傷を抱えながらも前へ進んだ。センサーはかすかな緑に点滅し、サーボは軋みを上げる。それでも恐れも迷いもなく、ドラゴンへ向かう。
そして突然――彼はその怪物の隣に座った。
ドラゴンは頭を傾け、ロボットを観察する。言葉ではなく、より深い何か――波や信号、古いコードのようなもので対話しているかのようだった。
やがてドラゴンは人間たちに視線を戻す。その声は耳ではなく、直接意識に響いた。
「お前」ドラゴンはグレブを指す。「ただの戦士ではない。封印を破壊し得る何かを持っている。私はそれを見ている。感じる」
ソフィラは震え、悔しさと嫉妬で目を見開いた。
「でも……私は……何度も試して……何度も死んで……」
「努力しすぎだ」ドラゴンは遮った。「私は努力が嫌いだ。怠け、未完成、忘れられた鍵――そういうものが好きだ。だからお前は敗れた」
ソフィラは瞬きをした。
「つまり……何もしなければ勝てるの?」
「その通り!」ドラゴンはあくびをし、煙を吐いた。「だが考えすぎだ。結局お前は負ける。ただし今すぐ眠れば、可能性はある」
グレブは黙っていた。混乱していたが、ドラゴンが嘘をついていないことだけは分かる。
グレンは回転しながらドラゴンの周囲を動き、センサーを瞬かせる。
「嗚呼、私のコードを理解する者がいるとは!」ドラゴンは喉を鳴らした。「実は昔、私は会計士だった。ある日、申告を間違えて……宇宙が私を混沌の象徴にした」
そしてグレブを見る。
「通れ」深淵の牙は言った。「だが忘れるな。封印は力では破れない。選択で壊すものだ」
翼を広げ、上昇し、塔の向こうへ消えた。
ソフィラはゆっくり立ち上がった。涙は残っていたが、瞳は強くなっていた。
「次はあなたよ。……失敗しないで」
グレブは頷いた。
彼らは城へ入る。
その瞬間――重圧は消えた。
内部の空気は冷たく澄み、石と古さの匂いがした。
巨大な広間。黒と白の床。中央へ螺旋を描く模様。壁には戦いと崩壊のレリーフ。しかし多くは欠けていた。
奥に立つ石像。
黄金の鎧の戦士。双角の兜。巨大な斧を突き立てている。
グレブは歩み寄る。
その輪郭に、どこか見覚えがあった。
その瞬間――像の目が一瞬だけ琥珀色に光った。
「見たか?」グレブは振り返る。
「何を?」
「こっちを見た」
だがグレンのセンサーが警告音を発した。
静寂。
グレブは再び像を見た。
動かない。だが――確かに、見られた気がした。
やがて彼らは床に座った。疲労と血の匂いの中で。
そしてソフィラは静かに夢を見た。
それは失われた未来の姿。
誰も苦しまない世界。
彼女は静かに願った。
「この世界に……それを」
グレブは彼女を見る。
「初めて笑ったな」
ソフィラは微笑んだ。
静寂の中、何かが確かに変わり始めていた。
そして――空間にアクシスが現れた。




