第6話
混濁していく意識の中で、ひどく奇妙な光景を見た。
視界を塗りつぶしていた黒い影——俺を食らおうとしていた蜘蛛が、唐突に吹き飛んだ。
何者かが、この地獄に乱入してきたのだ。
「ほう……。体術のみでこれほどの戦果を。加えて、このスキルは……」
低く、穏やかな男の声が鼓膜を震わせる。
直後、周囲から「シャッシャッ」と、群れが最大級の警戒を露わにする音が響いた。
「ふむ。まずはこの虫どもを一掃するとしようか。——『爆裂鳳仙花』」
男が朗々とその名を紡いだ瞬間、世界が震えた。
ドォォォォォンッ! という重低音と共に、大地を揺らす衝撃波が伝わってくる。あれほど濃密に充満していた死の気配が、一瞬にして霧散していくのが分かった。
男は、事切れる寸前の俺を軽々と抱きかかえる。そして、有無を言わさぬ手つきで、俺の口に「何か」を無理やり押し込んできた。
「少年よ。その不屈の心意気、実にブリリアントなり。……もっとも、君の腸内環境の方は、ノット・ブリリアントなようですがね。
助けて差し上げましょう。一か八か、ワタクシの『腸内細菌』を食らうがいい」
刹那。
俺の口内で、凄まじい大爆発が起きた。
それは火薬の熱でも、魔力の衝撃でもない。生物としての本能が全力で拒絶反応を示すような、あまりにも凄絶な異臭の暴力だ。
「が、は…………ッ!?」
あまりの強烈さに、辛うじて繋ぎ止めていた意識の糸が、無残にぶち切られる。
俺は最後に残った理性すら、その臭いの奔流に押し流され、深い深い澱の底へと落ちていった。
次回、勧誘。2000字くらい。




