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幽霊助手のいる霊能探偵事務所  作者: スガヒロ


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第三章 第3話  外れる予言

 放課後の教室は、静まり返っていた。

 生徒たちは皆、帰宅の準備をしながらも、

 どこか落ち着かない様子で、ひそひそと囁き合っている。

「……今日の予言、なに書いたの?」

「“誰もケガしない”って……書いてある?」

 その視線の先で、

 真帆は机に座ったまま、ノートを閉じていた。

 玲は、教室の後方からその様子を静かに観察している。

(……不安が、連鎖している)

 未来を信じるというより、

 未来を“確認しないと動けない”状態。

 それ自体が、

 すでに異常だった。

 


「真帆さん」

 玲が声をかけると、

 教室の空気が一瞬、凍りついた。

 生徒たちの視線が、

 一斉に二人に集まる。

「今日は、

 ひとつだけ書いてもらいます」

「……ひとつだけ?」

「はい」

 玲は穏やかな声で続けた。

「“必ず起きる”と、

 みんなが思い込んでいる未来を」

 真帆は、息をのむ。

「……外れたら……」

「そのとき初めて、

 “未来は固定されていない”と、

 全員が理解します」

 

 しばらくの沈黙のあと、

 真帆は、震える手でペンを取った。

 ノートの一番上に、

 短い一文を書く。

 

『今日の下校時、

三年B組の佐藤が転ぶ』

 

 教室が、ざわりと揺れた。

「……え」

「佐藤……?」

「いつもドジだし……」

 佐藤と呼ばれた生徒の顔が、

 みるみる青ざめる。

「ちょ、ちょっと……

 それ、マジで……?」

 その空気を、

 玲が静かに断ち切った。

「大丈夫です」

 はっきりとした声だった。

「この未来は、

 外れます」

 


 下校時刻。

 校門へ向かう生徒たちは、

 不自然なほど佐藤から距離を取っていた。

「転ぶって書いてあったし……」

「巻き込まれたら嫌じゃん……」

 佐藤自身も、

 一歩一歩を慎重に踏みしめている。

 カスミが、玲のそばで小さく言った。

「……あれじゃ、

 転ばないように、

 全力で行動してるね」

「ええ」

 玲はうなずく。

「それが、狙いです」

 


 校門の前には、

 普段から少しだけ段差のある場所があった。

 これまでなら、

 佐藤は気にせず歩き、

 つまずいていたかもしれない。

 だが――

 今日は違った。

 佐藤は足元を見つめ、

 ゆっくりと段差を越える。

 ――転ばない。

 その瞬間。

「……え?」

「……転ばなかった……?」

 ざわめきが、

 はっきりと驚きに変わった。

 


 真帆の手から、

 ペンが落ちる。

「……外れた……」

 佐藤は立ち止まり、

 振り返った。

「……外れた、よな?」

 誰も、答えられなかった。

 その空気の中で、

 玲が静かに口を開く。

「今、起きたことを説明します」

 


「予言が当たったのではありません」

 生徒たちの視線が集まる。

「予言を信じたことで、

 行動が変わった」

「……だから……?」

「だから、

 書かれた未来は“外れた”」

 真帆の目に、

 涙がにじむ。

「……私……

 ずっと……」

「あなたは、

 未来を当てていたわけではありません」

 玲は、はっきりと言った。

「人の不安を、

 未来に見せかけていただけです」

 


 真帆は、

 ノートを胸に抱きしめた。

「……じゃあ……

 私が書かなくても……」

「ええ」

 玲はうなずく。

「未来は、

 ちゃんと分岐します」

 カスミが、

 真帆のそばで小さく微笑んだ。

「ね。

 書かれてない未来、

 ちゃんとあったでしょ」

 真帆には聞こえない。

 だが、

 その表情は、

 確かに少しだけ柔らいだ。

 


 だが――

 玲の視線は、

 校門の外へ向けられていた。

(……まだだ)

 この事件は、

 “仕組み”を壊しただけ。

 誰が、最初に“未来は当たる”と教えたのか

 その答えは、

 まだ出ていない。

 クロベエが、

 低く唸る。

「若造……

さっきから、

嫌な匂いがしてる」

「……ええ」

 玲は、校門の外を見つめたまま答えた。

「“未来を信じさせる者”は、

 まだ近くにいます」

 

 夕暮れの中、

 真帆は初めて――

 ノートを閉じたまま、

 家路についた。

いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、第三章 第4話  午後の来客

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