第二章 15話 見えてしまった理由
佐倉葵の家を後にして、
夜道を歩いているときだった。
「……ねえ、玲くん」
カスミが、少しだけ真面目な声で言った。
「葵さん……
私のことも、クロベエのことも……
普通に見えてたよね?」
「ええ」
玲は足を止め、夜空を見上げた。
「本来なら、あれは“起きないこと”です」
クロベエ> 「ああ。
生きてる人間が、
オレらをあそこまでハッキリ認識するなんざ、
普通はありえねぇ」
カスミ「だよね……」
少しだけ、不安そうな表情。
玲はゆっくりと言葉を選んだ。
「葵さんは……
あの家の中で、“三つの条件”を満たしてしまったんです」
「三つ……?」
「はい」
玲は指を折りながら説明する。
一つ目。
「強い感情の揺れに、長期間さらされていたこと」
「……罪悪感?」
「ええ。
罪悪感、後悔、恐怖。
それらは霊的感受性を一時的に高めます」
クロベエ> 「心の膜が薄くなった、ってやつだな」
二つ目。
「家そのものが“異空間化”していたこと」
「家が……過去と混ざってたもんね……」
「はい。
あの時点で、あの家は
“現世と霊の境界がほぼ消えかけていた”」
クロベエ> 「言っちまえば、
向こう側とこっち側が同じ部屋だった」
三つ目。
「そして――」
玲は少し間を置いた。
「あなたたちが、
“はっきりと彼女に関わったこと”です」
カスミ「……私たちが?」
「ええ。
霊は基本的に“見せない存在”ですが……
強く関与すれば、存在は輪郭を持ちます」
「カスミさんは、葵さんに寄り添い続けました」
「……うん」
「彼女の心に触れ、声をかけ、
未来を一緒に見ようとした」
「それって……」
「はい。
“守護に近い行為”です」
カスミは驚いたように目を瞬かせた。
「私……そんなつもりじゃ……」
「意図は関係ありません。
結果として、あなたは葵さんの“心のそば”にいた」
クロベエがふん、と鼻を鳴らす。
「オレはただ、
家の記憶が暴走しねぇよう見張ってただけだがな」
「それも同じです」
玲は言った。
「300年この世に留まり、
“場所を守る”という役割を持ち続けた存在」
クロベエ> 「……なるほどな。
そりゃ見えちまうか」
「葵さんにとって、
あなたは“家そのものの意思”に近かった」
カスミ「……じゃあさ」
少し怖そうに、カスミが聞く。
「今も……
葵さんには、私たちが見えてるの?」
玲は首を横に振った。
「いいえ。
もう見えていません」
カスミ「……そっか」
少しだけ、寂しそうな笑顔。
クロベエ> 「境界はもう閉じた。
あれは“あの時間だけ”だ」
玲は静かにまとめた。
「葵さんが幽霊を認識できたのは、
才能でも体質でもありません」
「……うん」
「強い感情と、歪んだ空間と、
あなたたちの関与が重なった――
“一度きりの例外”です」
クロベエ> 「だから心配すんな。
あの女が霊感体質になることもねぇ」
カスミ「……よかった」
しばらく沈黙が流れたあと、
カスミがぽつりと言った。
「でもさ……
ちゃんと“ありがとう”って言ってくれたよね」
「ええ」
玲は微笑んだ。
「それで十分です」
クロベエ> 「霊冥利に尽きるってやつだな」
夜風が吹き、
街灯の光が三人を照らす。
見えないはずの存在と、
一度だけ交差した“生者の世界”。
それはもう閉じたが――
確かに、何かは残った。
玲は足を止め、前を見据えた。
「さて……
ここから先は、
“遼”という存在が本格的に動き始めます」
カスミ「……うん」
クロベエ> 「また厄介な夜になりそうだな」
そう言って、
三人はそれぞれの影を引き連れ、
静かに歩き出した。
いつもありがとうございます。また近いうちに更新します。
気に入っていただけたら
⭐評価&ブクマして応援して下さい!




