第二章 第13話 現実世界の静けさ/遼という存在への手がかり
影が消え、
昭和・平成・江戸の三つの時代が溶け合っていた部屋は、
ゆっくりと“現在”の姿へ戻っていった。
歪んでいた壁紙は白に戻り、
浮かび上がっていた学校机も床へ落ち着き、
部屋の温度も、本来の“ただの住宅”のものに戻る。
葵はその変化を見ながら、
胸に手を当てて深く息を吸った。
「……もう……大丈夫、なんですね……?」
玲「ええ。
異空間化を促していた“影の核”は消えました」
カスミ「葵さんの心も、落ち着いてるよ。
さっきまでの影の揺れ……もう感じない」
クロベエ> 「まぁ、もう“変な時代の匂い”は残ってねぇな」
静けさ――
それは、久しぶりに戻ってきた“日常”だった。
「……私……ずっと……
弟や甥のことが、私のせいだって……
そう思い込んでました」
葵は涙を拭き、
玲とカスミ、そしてクロベエを見る。
「でも、違ったんですね。
誰かを守れなかった苦しさ……
私だけじゃなかった……
浅間さんも……同じだったんですね……」
玲「ええ。
遼は自分の弱さを、誰よりも責めていた。
その影が、“あなたの影”と混ざってしまったんです」
葵「……私……今日、気づけました。
“全部私のせいだ”なんて……
本当は誰も思ってなかった」
カスミ「うん……!
誰も責めてない。
誰も悪くないんだよ」
葵は静かにうなずいた。
「……ありがとうございました。
本当に……救われました」
玲は、床に残った“術式の残滓”へ視線を落とした。
(この線……
まるで“未完成の模様”のような癖が残っている……)
カスミが近づく。
「玲くん、その術式……変なの?」
「はい。
一般的な呪符や術ではありません。
“祈り”の形に似ている」
カスミ「祈り……?」
玲「ええ。
呪いではなく“救済の形”に近い。
遼は……誰かを呪うためではなく、
誰かを救うために術を学んでいます」
クロベエ> 「つまり“悪意の術者じゃない”ってことか」
玲「そうですね。
ただし……そのやり方は歪んでいますが」
クロベエは、床の黒い残滓を嗅ぐようにして言った。
> 「若造。
この遼って人間……
ただの“能力持ち”じゃねぇな」
玲「どういう意味です?」
> 「念の匂いが“未熟”なんだよ。
普通の術者ならもっと濁るはずだが……
こいつの残滓は妙に純度が高い」
玲「純度……」
> 「悪い術者じゃねぇ。
そういう匂いだ」
葵「じゃあ……遼さんは……?」
玲「ええ。
彼は――“誰かを救いたかった人間”です」
そのとき、カスミがぴくりと肩を震わせた。
「っ……!」
玲「未来ですか?」
「う、うん……
さっきの影の未来じゃない……
もっと新しい揺らぎ……!」
葵「未来……? 何が見えたんですか……?」
カスミは少し震えながら答えた。
「浅間遼さん……
“どこかで息をしてる”未来……。
そして……
玲くんと、遼さんが“向き合う未来”も……
少しだけ……」
玲「……やはり、遼は生きていますか」
カスミ「うん……!
ただ……その未来……
“揺れてる”……!」
玲「揺れているということは、
遼が“未来を選ぶ途中”ということです」
クロベエ> 「つまり……まだ何かしら動きがあるってことだな」
葵が深く頭を下げ、
玲たちは玄関へ向かう。
だがその途中――
玲はふと足を止めた。
(……何だ……?
妙な違和感……)
視界の端に、
一瞬だけ“黒い影の線”が揺れた気がした。
玲(……気のせいか……?
いや、この残滓は……)
クロベエがじっと玲を見る。
> 「若造。
その顔……気づいたんだな」
「……ええ。
遼の術には“ある癖”があります。
それは――」
しかし、その言葉の続きは言わなかった。
カスミが葵に手を振り、
家の扉が静かに閉じる。
外に出た瞬間、
夜風がひんやりと頬を撫でた。
カスミ「ふぅ……終わったね……!」
玲「ええ。
ただし――まだ“始まったばかり”です」
クロベエ> 「遼の残滓……あれは“終わり”じゃなく“予告”だな」
玲「おそらく、遼本人が――
近いうちに“こちらへ来る”でしょう」
カスミ「え……!」
玲「それも、“事件を連れて”」
玲の蒼い瞳が、静かに夜の街を見つめた。
(浅間遼……
あなたは一体、どこで……
何を見ているんですか……?)
いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、第二章 第14話 葵の新しい一歩
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