第二章 第12話 影の決着/遼の残響の解放
玲の指先が“白い核”をつかんだ瞬間――
ドクン――!!
影の全身が震え、
周囲の時代が一斉に歪んだ。
江戸の押し入れがゆがみ、
昭和の棚が裂け、
平成の机が揺らぎながら宙へ浮かぶ。
クロベエ> 「若造!
長く触るな! 記憶に呑まれるぞ!」
カスミ「玲くん、気をつけて!!」
玲「大丈夫……!
これは“遼の記憶”……!」
白い光が、玲の脳裏に流れ込む。
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――病院の白い廊下。
少年(遼)『どうして……どうして……!
僕が手を離したから……!』
大人の声『お前のせいじゃない!
でも……なんで見てなかった!!』
少年(遼)『ごめんなさい……ごめんなさい……!!』
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――葬儀の黒。
少年(遼)『もし僕が……もっと早く……
もし……僕が大人だったら……!』
大人の声『お前が悪いんじゃない!
けど……!』
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――一人で泣く影。
少年(遼)『結局……僕は誰も守れない……
僕は……無力だ……!』
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玲(……これは……“怒り”じゃない……
遼はただ……自分を責め続けていたんだ……)
影『やめろ……やめろ……!
その記憶を……引きずり出すな……!
“俺は弱かった”なんて……!!
もう思い出したくない……!!』
玲「遼……あなたは弱くなんてありません。
だからこそ、傷つき続けてきたんです」
影『だまれ……だまれ……!!
俺は……守れなかった……
だから……誰かを救いたかった……
だけど……!!』
葵「……遼さん……」
影がわずかに動きを止める。
葵「あなたの“怒り”は……全部、あなた自身に向いてる……
私の罪悪感と混ざったのは……
あなたが苦しんでいるから……!」
影『……っ……』
葵は涙を流しながら続けた。
葵「私だって……弟のことも……甥のことも……
ずっと後悔してきた……!
“あの時こうしていれば”って……ずっと……
遼さんと同じなんです……」
影『…………』
葵「だから……あなたを責めたりなんかしない……
だって……私だって……あなたと同じ……
“過去に縛られて動けなかった”だけ……!」
影が揺れた。
三つの顔がゆっくりとほどけていく。
玲「遼……あなたの影はもう必要ありません。
“葵さんの影”とも違う。
あなた自身の痛みは――
もう外に出るべきです」
影『…………出たら……
俺は……どうなる……?』
玲「消えるのではありません。
“本来のあなた”に戻ります」
影『…………』
玲「あなたは、まだ“どこかに生きています”。
あなた自身が戻る場所は、まだあります」
影『…………俺は…………』
玲は影の核を、強く引き抜いた。
――パァアアアアァッ……!!
白い光が部屋いっぱいに広がり、
影の姿がほどけていく。
光の中から、
柔らかい少年の声が聞こえた。
『……ありがとう……』
『……ごめん……なさい……』
『……生きて……みる……よ……』
黒い影は完全に崩れ、
白い風のように消えていく。
江戸の壁は消え、
昭和の棚は溶け、
平成の机も静かに床へ戻った。
家は、ようやく“現在”へと戻ってきた。
葵はその場に崩れ落ち、
カスミがそっと寄り添う。
クロベエ> 「ふぅ……やれやれ。
これでやっと“異空間”は終わりか」
玲は深く息を吐き、
影の消えた空間を見つめた。
(遼……あなたは今どこで……
何を思っているんでしょうね……)
最後に、白い光がすっと玲の指をすり抜け、
風のように消えていった。
玲「……“遼の残響”は、解放されました」
葵は泣きながら玲に頭を下げた。
「ありがとう……
本当に……ありがとう……玲さん……!」
玲「礼はいいですよ。
あなたが自分を赦したからです」
カスミ「葵さん……ほんとに良かった……!」
クロベエ> 「さて若造。
これで終わりじゃねぇぞ。
まだ“術の主本人”がいる」
玲「……ええ。
浅間遼本人は――まだ“どこかにいる”。
そして次に動くでしょう」
いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、第二章 第13話 現実世界の静けさ/遼という存在への手がかり
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