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幽霊助手のいる霊能探偵事務所  作者: スガヒロ


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第二章 第9話 影の中心

 薄暗い子供部屋は、

 確かに葵が幼いころに使っていた“あの部屋”だった。


 だが、同時に――

 別の時代の家具や生活痕が混じっている。


(……三つの時代の記憶が融合しつつある……)


 玲は微かな耳鳴りを感じながら、

 部屋の奥をじっと見つめた。


コツ、コツ……(子供の足)


ドスッ、ドスッ……(大人の足)


ザ……ザ……(すり足)


 異なる“住人たちの記憶”が、

 一カ所へ吸い寄せられているのがわかった。


カスミ「れ、玲くん……何か近づいてるよ……!」


葵「いや……いや……やだ……!」


 葵は涙を浮かべ、玲の後ろへ隠れる。


 クロベエが、毛を逆立てた。


> 「若造……

  来るぞ。“影の主”が……!」






 部屋の奥の暗がりから、

 黒い靄がゆっくりとにじみ出てきた。


 靄は寄り集まり、

 人の形へと変わっていく。


 腕。

 足。

 肩。

 だが——


 顔だけが、三つに割れていた。


 一つは子供の輪郭。

 一つは大人の怒鳴り声をあげる男の輪郭。

 一つは、すり足で歩く老人の輪郭。


カスミ「これ……全部……混ざってる……!」


玲「ええ。“影の中心”です」


葵「……っ……!」


 泣き出しそうになった葵の腕を、

 玲がそっと支える。


「大丈夫です。落ち着いて」


「で、でも……あれ……“お父さんの影”も……

 “昔の弟”の影も……!」


クロベエが低く唸る。


> 「葵。

  あれはお前の家族そのものじゃねぇ」




葵「え……?」


> 「ただの“家の記憶”だ。

  お前の心が混ざって、形になっただけだ」




 黒い影は、三つの顔を同時に震わせながら

 ゆっくりと手を伸ばしてくる。


『……どうして……守らない……』


『……なんで泣いてるんだ……』


『……さみしい……』


 三つの声が重なる。


 


 玲は影の“中心”に視線を向けながら、

 淡く蒼い光の宿った目で分析した。


(……これは“罪悪感の集積体”……

 しかし、誰かが外から念を注ぎ込み、

 “ひとつの人格”にしようとしている……)


「葵さん」


「っ……は……はい……!」


「あなたがこれまで抱えた罪悪感が、

 浅間遼の術によって“具現化”されつつあります」


「私の……罪……?」


「ひとつではありません」


 玲は影を見据えた。


「あなたが――弟さんを守れなかったという後悔」


「…………!」


「そして、甥御さんを守れなかったという罪悪感」


「っ……!」


「それらが、“影の餌”になっています」


 葵の唇が震える。


カスミが強く言う。


「葵さん、違うよ……!

 謝る必要なんてない……!

 どんな人だって、全部の未来なんて守れないよ!」




 その言葉を聞いた瞬間。


 影の姿が、ぐにゃりと歪んだ。


『……守れた……はず……』


『……お前が……!』


『……お前のせいで……!』


 怒りの声が、部屋いっぱいに反響する。


葵「や、やめて……やめて……!!」


玲「落ち着いてください。影はあなたを責めていません」


葵「でも、声が……!」


「影が叫んでいるのはあなたの記憶ではありません」


「え……?」


玲「“浅間遼が注ぎ込んだ念”です」


 クロベエの尾が逆立つ。


> 「若造、見えてるな?」




「ええ。影の奥に、

 “遺された念の回路”がある」




 玲は影に近づき、静かに語る。


「あなたの影を動かしているのは……

 浅間遼の“怒り”です」


カスミ「え……遼の……怒り……!?」


「ええ。“彼自身の怒り”です。

 おそらく……何かを失った過去があるのでしょうね」


 影の奥から、微かに別の声が漏れた。


『……守れなかった……』


『……届かなかった……』


『……どうして……』


葵「……この声……私じゃ……ない……」


玲「そう。

 これは遼の“自分自身への怒り”です」


カスミ「なんでそんなの……葵さんに……!」


玲「心が弱っている人は、

 “他人の影”を受け取りやすいんです」


葵「っ……!!」


 


「玲くん!!」


 カスミが突然、頭を押さえた。


「未来……未来がまた揺れてる……!!!

 家全部が……“過去そのもの”に飲まれる未来……!」


 クロベエが唸る。


> 「若造……影の中心が膨らんでやがる。

  このままじゃ、時代ごとひっくり返るぞ」




玲「わかっています」


 そして玲は、影の中心を指差した。


「ここが――“遼の術式の核心”です」


カスミ「え……!」


玲「この影を壊さなければ、

 家は完全に“過去に沈む”」


葵は震えながら言う。


「そんな……そんなの……!」


玲は振り返り、柔らく葵に伝えた。


「大丈夫です」


「……っ!」


「あなたの“影”は、あなた自身が消すんです。

 私たちは、その手助けをするだけです」


 影が不気味に揺れ、

 部屋の奥で何かが動き始める。


 


いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、第二章 第10話 影との対決・葵の心の核心へ


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