第12話 心核での決戦/マコトの未来を取り戻せ
塔の内部は、外観以上に冷たかった。
壁は黒い水晶のように光を反射し、
歩くたびに水面のような音が足元をくぐる。
中心には――
ひとつの“光球”が、黒鎖に縛られて浮いていた。
「玲くん……あれ……!」
「はい。あれがマコトさんの“心核”です」
光球は弱々しく脈打ち、
まるで自分の存在を訴えているかのようだった。
『……もう……いい……疲れた……
私は……消えたい……』
光から、かすかな声が漏れた。
マコトの声。
「マコト……!」
カスミが駆け寄ろうとするが――
闇が足元から吹き上がった。
「危ない! 下がって!」
玲がカスミを抱くように引き寄せた瞬間、
地面から黒霧が噴き出し、巨大な影が姿を現した。
“先生の影”。
その本性に近い、濃密な闇体だった。
「ここが終着点だ、灯台の子。
お前の審眼であの心核を壊してみろ。
その瞬間、マコトは二度と目覚めない」
「壊しませんよ」
「だが、お前には救えない。
お前の心が先に折れる」
影が伸び、塔全体が揺れる。
「玲くん……! 何か方法は……!」
「あります。ただし――」
玲は影を見据えながら呟く。
「僕自身が“マコトさんの絶望”を受け入れなくてはなりません」
「え……?」
「この影は、先生だけの形じゃない。
マコトさんの恐怖、罪悪感、悲しみ……全部が混じっている」
「じゃあ……玲くんが全部受けたら……!」
「僕が壊れます。
心が耐えられなければ、帰ってこれません」
カスミの霊体が震える。
「……そんなの……だめ……!」
しかし玲は静かに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。僕は独りじゃありませんから」
カスミは息を呑んだ。
(玲くん……)
玲は心核へ近づき、
片手を光球にそっと添えた。
その瞬間――
世界が反転した。
冷たい部屋。
窓の外。
雨。
マコトが机に向かい、震える手でスマホを握りしめている。
『……お姉ちゃんの遺品……返して……
全部返して……!』
通話口の向こうから
“仲間”の穏やかな声が聞こえる。
『返さなくていいよ。だって常盤カスミさんはね……
まだ“そこ”にいるから。
きみを苦しめないためにね』
『……本当に……?』
『もちろん。
ただ、あなたの心が弱いから視えないだけ。
強くなれば視えるよ』
嘘だった。
未来を固定するために、罪悪感と愛情を利用しただけだ。
(……ひどいな……)
「それ以上進むな、灯台の子!」
影が襲い掛かる。
マコトの絶望そのものが牙を剥き、
玲の精神を食いちぎろうとする。
「玲くん!!」
カスミが飛び出す――が、玲の声が響く。
「来ないで!
これは……僕しか……!」
精神が焼けるように痛む。
(……苦しい……
マコトさん……こんな……
一人でこんな想いを……)
階段の下の未来――
“自分が死ぬことで報われる”と信じ込まされた未来。
(耐えられないほどの……無力感……)
玲の膝が折れる。
「玲くん!!」
その瞬間。
カスミの霊体が、強烈な光を放った。
「マコト!!
玲くんに……全部背負わせないで!!」
叫びが、心核に届く。
光球が震える。
『……お姉ちゃん……?』
「そうだよ……!
マコト……私はここにいる……!!」
光球に巻かれた鎖が、一気に緩む。
玲の胸の苦しみも、不意に軽くなった。
(カスミさん……
あなたが……
“霊路”を繋いだんだ……)
※霊路……霊と人、心と心を繋ぐパス。
強い想いを持つ幽霊だけが、一時的に開ける。
影が絶叫する。
「やめろぉぉ!!
お前たちは未来を揺らす!!
未来は一つでなければ!!」
「違う!!」
カスミが叫ぶ。
「未来は……選べるものだよ!!
マコトも……私も……玲くんも……!」
「だからあなたの未来も、奪わせない!!」
玲も立ち上がり、審眼を最大まで開いた。
蒼い光が世界を満たす。
「未来固定を――解除します!!」
玲は影へ掌を向け、
マコトの心に絡む“未来の鎖”を切り裂いた。
影が弾け、霧散する。
黒い鎖が全て解け――
光球がまぶしいほどに輝いた。
『……お姉……ちゃん……?』
「うん……マコト……」
『こわかった……
ずっと……
どこに向かえばいいのかわからなくて……』
「大丈夫。
もう未来は一つじゃないよ。
選んでいい未来があるんだよ」
玲は光球に優しく語りかけた。
「帰りましょう、マコトさん。
あなたの未来へ」
光が二人を包んだ。
精神世界の塔が崩れ落ちる。
影の残滓が薄れていく。
(カスミさん……
ありがとう……)
(玲くん……戻ろう……!)
そして二人は――
現実世界へゆっくりと意識を戻していった。
いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、第13話 現実世界の再会
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