図書館の天体室で
雨の日は湿る。
そんな当たり前のことが当たり前ではなくなった地球。
僕は図書館で梅雨という季節があったことを初めて知った。
四季の存在は既に知っていたけれど、
春と夏の間に一月も雨が降り続く季節があったなんて知らなかった。
その当時の人々はカラフルなレインコートに長靴を履いて、水溜まりの中を優雅に散歩していたらしい。
外には色とりどりのあじさいが咲いて、
山には霞がかかった趣き深い風景が広がる。
それは水の滴る美しい季節。
なんて晴らしい季節なんだろう。
僕は望み薄な期待を胸に図書館の天体室に向かった。
中に入ると巨大な天体望遠鏡が出迎えてくれる。
僕はタッチパネルを操作して座標を合わせた。
この図書館だけが実際に天体望遠鏡のレンズを覗くことができる。
モニターの映像ではなく、実際に見ることに意味を感じている。
小さく息を吸い、息を止めてレンズを覗いた。
そこには輝く丸が一つ。
しかしそれは、カラカラに枯れ果てた黄色い地球。
梅雨の様子はない。
レンズの倍率を上げても水滴すら見当たらない。
僕は大きくため息をついた。
雲のない月面で過ごす梅雨の季節。
僕は目を閉じて想像を膨らませた。
雨粒の弾ける音を感じながら。




