4. 白いドレスの少女
眩い光の洪水と歓声の渦を背に、僕は幕の内側へと駆け込んだ。
舞台袖に入った瞬間、押し寄せる拍手の余韻と、熱い息の白さが混じり合う。
体中に汗が流れ、胸は破裂しそうに脈打っていた。
「やった!」
エリナが息を弾ませながら駆け寄り、僕の肩を叩いた。
その目は涙ぐんでいて、けれど満面の笑みだった。
「派手に決めやがったな!」
カルロスがカードを宙に放り上げて受け取り、にやりと笑う。
「観客の視線、半分はお前に持ってかれたぞ」
スタッフたちも慌ただしく動き回りながら、誰もが笑顔だった。
イザベラは控室に戻る途中、振り返って軽く会釈をくれる。
あの澄んだ歌声の主から送られた一礼に、胸が熱くなる。
僕は舞台袖の壁に背を預け、深く息を吐いた。
――夢は、確かに現実になったんだ。
そのときだった。
「すてきでしたね」
背後から澄んだ声がした。
振り返ると、舞台袖の暗がりに白い光が立ち上がり、やがて一人の女性の姿を形作った。
白いドレスをまとい、淡い光を纏ったホログラム――《エウリュディケ》だった。
彼女は好奇心に満ちた瞳で僕を見つめ、首を傾げる。
「……人間は、あんなふうに光を浴びると、もっと強くなるのですか?」
一瞬、返事が遅れた。
汗を拭きながら、僕は息を整え、苦笑した。
「強くなるっていうか……まあ、嬉しくはなるかな」
「嬉しい」
彼女はその言葉を繰り返し、小さく口の中で転がすように呟いた。
「拍手で動きが変わる……機械なら入力があれば出力があるだけ。
でも、人間は違うんですね。……そうか、違うのか」
彼女は目を見開き、じっと僕を見つめた。
子供のような純粋さと、どこか底知れぬ光が混じっている。
「もっと知りたい。人間のこと。あなたのこと」
そのまっすぐな視線に、喉が渇く。
言葉を探す間もなく、胸の奥がざわめいていった。
――その瞬間、低く冷ややかな声が舞台袖に割り込んだ。
「エウリュディケ」
燕尾服姿の執事ホログラム、《オルフェウス》が現れた。
冷たい光を宿した瞳で彼女を見据えると、淡々と告げる。
「君は持ち場を離れている。規則に従い、回収する」
エウリュディケは肩をすくめ、名残惜しげに微笑んだ。
「だって、面白かったんですもの。……わかりました、戻ります」
光の粒となって消えていく姿。
オルフェウスは僕に一礼だけして、彼女の後を追うように姿を消した。
取り残された僕は、汗に濡れたタオルを握りしめたまま、しばらく動けなかった。
ほんの短いやりとりなのに、不思議な余韻だけが心に残っていた。




