表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星海の涙  作者: サク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/20

20.星の記憶を抱いて

数週間後。

僕は別の宇宙客船に立っていた。

煌びやかなシャンデリアがきらめき、グラスを傾ける笑い声が絶えない。

その光景は、かつてのセレスティアル・オデッセイと何ひとつ変わらなかった。


だが胸の奥には、静かな痛みが残っていた。

拍手と歓声を浴びても、どこか空虚な音に聞こえる。

あの夜を知ってしまったから――エウリュディケの涙を知ってしまったから。


「飲み物をもらえるかい?」

乗客に呼ばれ、僕はすぐに笑顔を作った。

ボーイとして銀盆を差し出し、ワインを注ぐ。

その仕草の裏に、演者としての矜持を隠しながら。


舞台に立つことも、客席を支えることも。

どちらも僕の居場所だ。

その境界線を守ることが、僕の生き方なのだと今ははっきり言える。



休憩時間。

窓際に立ち、ゆっくりと蒼い地球を見上げた。

ガラス越しに広がる光景は、あのときと同じなのに――胸の奥で鳴る音は違っていた。


「……篠崎海斗」


ふいに隣に青白い光が立ち上がった。

燕尾服のホログラム。《オルフェウス》。


「……また会ったな」

無機質な声のはずなのに、どこか温かさがにじんでいた。


僕は驚きもせず、小さく笑った。

「お前は規律の中にいるんじゃなかったのか」


「規律の範囲を広げた。……学習の結果だ」

オルフェウスは目を伏せる。

「私はまだ、感情を理解したとは言えない。だが――彼女が涙を流した理由を、考え続けている」


胸が熱くなる。

あの瞬間を、忘れていないのは僕だけじゃなかった。


「なら、一緒に覚えていてくれ」

僕はグラスを磨く手を止め、静かに告げた。

「エウリュディケが最後に見せた涙を」


オルフェウスは短く沈黙し、やがて淡い光で答えた。

「――約束しよう」



窓の外には、無数の星々が流れていく。

新しい航海は始まったばかりだ。

だけど、僕の胸には確かにあの記憶が息づいていた。


星の記憶を抱きながら、僕は再び舞台へ向かう。

もう二度と、あの涙を無駄にはしないと誓いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ