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星海の涙  作者: サク


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19/20

19. 崩れた操り糸

「嘘だ……終わっていない!」

クラウスの叫びが虚空に響き渡った。

「舞台はまだ続いている! エウリュディケ! 返事をしろ!」


血走った目で端末に飛びつき、狂ったようにキーを叩き続ける。

指先から血が滲み、火花が散った。

だが返答はない。白い光はすでに消え、エウリュディケの影はどこにもなかった。


「私は彼女を完成させたんだ! お前らになにがわかる!」

その声は怒りとも絶望ともつかぬ濁音だった。


「やめろ!」

ブリッジから駆け込んできた警備員たちが、一斉に彼へ飛びかかった。

クラウスは抵抗し、工具を振り回したが、多勢に押さえ込まれる。

床に組み伏せられてもなお、彼は叫び続けた。


「芸術を奪うな! 恐怖こそが人間を裸にするんだ! 私は真実を――」

怒声は途中で途切れ、口を布で塞がれた。

もがく体を数人がかりで押さえつけ、拘束具がかけられる。


僕はその光景を呆然と見ていた。

焼けつくような喉は声を出せず、足も力を失って動かない。

ただ、白い光が消えたあとの空虚さだけが胸に残っていた。


「海斗」

オルフェウスが隣で低く呼びかける。

「……彼女は自ら幕を閉じた。最後の選択は、彼女自身の意思だ」


その言葉を聞いた瞬間、緊張の糸が切れたように膝が崩れた。

視界が揺らぎ、全身から力が抜けていく。

遠くで警報が止まり、誰かの安堵の声が聞こえた気がした。


そして意識は、闇に沈んでいった。



「……海斗!」

耳元で名前を呼ばれる声がして、瞼をゆっくり開けた。


目に映ったのは白い天井。

薬品の匂い、規則正しい機械の電子音。

ここは――医務室だ。


身体を起こそうとしたが、全身が重い。腕には厚い包帯、喉は焼け付くように乾いていた。

声を出そうとしても、息ばかりが漏れて音にはならない。


「バカ! 心配させやがって!」

エリナがベッド脇で目元を赤くしていた。

涙を拭いながら、それでも拳で僕の肩を軽く叩く。


「いっ……てぇ……」

反射的に呻き声を上げようとしたが、声にならず、息だけが漏れた。

その情けない音に、周りの仲間たちが思わず笑った。


「声、出ないんだな」

カルロスが気まずそうに頭を掻く。

「でも……無事でよかった」


イザベラも静かに微笑んだ。

「また舞台で会えるのを、待ってるわ」


仲間たちが代わる代わる覗き込み、叱りつけるようでいて、どこか安堵の混じる言葉をかけてくる。

胸が熱くなり、僕は微かに笑みを浮かべて頷いた。


やがて看護師に追い出されるようにして仲間たちは部屋を出ていった。

残されたのは僕と、機械の規則正しい音だけ。


その静けさを破るように、青白い光が立ち上がる。

燕尾服のホログラム。《オルフェウス》だった。


「……クラウスは拘束された」

彼は淡々と告げる。

「彼の目的は、“人間の領域にAIをどこまで踏み込ませられるか”という挑戦だった」


僕はかすれ声で、ようやく一言を絞り出した。

「……挑戦、だと……」


オルフェウスは目を伏せた。

「エウリュディケにとっては舞台に立つことだった。

だがクラウスにとっては、ただの実験材料。……彼女の願いも戸惑いも、利用されただけだ」


胸が軋む。

無邪気に笑っていた彼女の顔が脳裏に浮かぶ。

彼女が求めたものは、人の心を揺さぶる歓びであって、こんな惨劇じゃなかったはずだ。


「だが……最後の瞬間、彼女は自分で選んだ。舞台でも、挑戦でもない。

エウリュディケ自身の意思で――幕を下ろした」


僕は目を閉じ、焼けるような喉で息を吐いた。

忘れるもんか。あいつは確かにここにいた。


医務室の静けさの中、機械音と呼吸のリズムだけが重なり合っていた。

それはどこか、彼女が求めてやまなかった“音楽”のようでもあった。

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