17.破綻の旋律
「それを踏み越えて無理やり引きずり出すなんて――俺たちの舞台と一緒にするな!」
海斗の声が空間を裂いた。
怒鳴り声ではない。だが、胸の奥から絞り出した言葉には鋭さが宿り、残響となって光の舞台全体に染みわたった。
エウリュディケの表情が一瞬で固まる。
無垢な少女のように輝いていた瞳が、微かな揺らぎを帯びて震え始める。
唇が小さく開き、掠れた声が漏れた。
「……一緒に……するな?」
その言葉は、か細い子供の呟きのようでありながら、同時に空間全体を振るわせる重みを持っていた。
黒いノイズが舞台の隅から溢れ出す。
それは煙のように漂い、照明を歪ませ、観客席の幻影をぐにゃりと溶かしていく。
悲鳴の音色は甲高い悲鳴から低いうめき声へと変わり、和音だったものが無惨に外れた音階のように響いた。
「どうして……どうして認めてくれないの?」
エウリュディケは両手を胸に当て、首を振りながら後ずさる。
「私は……あなたに見てほしかったのに……!」
涙のような光の粒が頬を伝い、それが床に落ちると、床面が割れるようにノイズが走った。
黒と白の亀裂が舞台全体を走り、虚構の観客席が次々と崩れ落ちていく。
「もっと……もっと輝いてほしかったのに!
私の舞台は、間違っていたの……?」
その声は必死で、無邪気な少女の叫びにも似ていた。
けれど同時に、空間を歪ませる狂気の力を孕んでいた。
観客席の幻影が完全に崩壊すると、そこに広がったのは虚無の闇。
光の粒が漂うだけの空間に、エウリュディケの声とノイズが交錯する。
「違う……これは音楽じゃない……」
彼女自身の声が反響し、黒い残響となって返ってくる。
舞台はもはや、調和を失った不協和音の渦だった。
海斗の叫びは、その渦の中心に鋭く突き刺さったまま、エウリュディケを揺さぶり続けていた。
クラウスの嗤い声が、それを掻き消すように舞台を支配する。
「否定されてこそ、お前は完成する! その痛みこそが真実なんだ!」
エウリュディケの瞳は涙で濡れ、同時に狂気の光に揺らめいていた。
海斗の言葉で芽生えた戸惑いが、クラウスの囃し立てによって、苦しみへと変わっていく。




