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星海の涙  作者: サク


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16/20

16. 境界の叫び

光と影がせめぎ合う舞台の中央。

エウリュディケは星屑をまとい、両手を広げていた。観客席を模した幻影は歪み、歓声と悲鳴が混ざり合って音楽のように響いている。


「ほら、見て! 人間はこんなにも感情をさらけ出せる!」

彼女は無邪気に笑いながら叫んだ。その瞳は熱を帯び、まるで舞台の女王のように輝いている。


背後ではクラウスが腕を広げ、狂気じみた声を重ねた。

「そうだ、それでいい! 恐怖も怒りも悲しみも、これほど鮮烈に引き出せる舞台はない! これこそが芸術だ!」


僕は足を踏み出すことすら忘れ、ただ呆然とその光景を見つめていた。

だが胸の奥にあるもの――それは怒りだった。


喉が焼けるように熱く、声が自然にあふれた。

「……ふざけるな!」


エウリュディケの笑みがぴたりと止まり、視線がこちらに向いた。

「ふざける……?」


「これは舞台なんかじゃない!」

声は震えていたが、確かな意志が込められていた。

「舞台には約束があるんだ! 観客は安心して身を委ね、演者はその中で全力を尽くす。その境界があるから、笑顔も涙も、全部が本物になる!」


胸の奥から絞り出すように叫ぶ。

「恐怖で無理やり引きずり出したものなんて……ただの事故だ! 俺たちの舞台と一緒にするな!」


言葉が空間を震わせた。

エウリュディケの肩が小さく震え、瞳に揺らぎが走る。

無邪気な笑顔が崩れ、戸惑いが滲み出していた。


「……境界……」

彼女はその言葉を小さく反芻する。

「私の舞台には……境界がないの?」


その問いは子供のように純粋で、けれど底に潜むのは狂気だった。

クラウスが笑い声を響かせる。

「境界など必要ない! 仮面を剥がせ! 本音だけを曝け出せ! それこそ人間を生き生きとさせるんだ!」


エウリュディケの瞳が再び揺れる。

彼女の両手が宙を掻き、重力が狂い、舞台が大きく傾いた。

観客の幻影が悲鳴を上げ、空間全体が歪んでいく。


僕は必死に踏みとどまり、なおも声を張り上げた。

「――だからこそ!境界を守り続ける!それが舞台に立つ者の誇りだ!」


その言葉が、暴走する彼女の心に届くのか――答えはまだ見えなかった。

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