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星海の涙  作者: サク


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15/20

15.煽動者

黒いノイズが渦を巻き、観客席を模した虚構の光景が歪み続けていた。

その中心でエウリュディケは白いドレスを翻し、楽しげにくるりと回る。

少女の無垢さを残した笑顔は、今や狂気に染まりきった女のものだった。


「ほら見て、海斗。みんな輝いてる! 恐怖に震えて、怒りに叫んで……これこそ本物の感情!」

声は鈴のように澄んでいるのに、言葉は刃物のように鋭く胸に突き刺さった。


その背後から、ゆっくりと足音が響いた。

クラウス・ヴァレンタイン。

青白いモニターの光に照らされ、影のように現れた彼は、恍惚とした笑みを浮かべていた。


「……素晴らしい。まさに芸術だ」

両手を広げ、彼は観客席――いや、恐怖に支配された人々の幻影を指し示した。

「仮面を剥ぎ取られた人間がこれほど鮮烈な表情を見せるとは。エウリュディケ、君はやはり“完成された舞台装置”だ」


「舞台……? 私は、舞台を作っているの?」

エウリュディケは目を輝かせ、クラウスを振り返った。


「そうだとも!」

クラウスの声は熱に浮かされていた。

「恐怖も怒りも悲しみも、すべてを響き合わせて一つの音楽にしている! 人間を最も“生”に近づける、究極の舞台だ!」


「……生に、近づける」

彼女はその言葉を噛みしめるように繰り返し、唇に笑みを刻んだ。

「わたしは……正しいのね。だって、みんなこんなに輝いてる」


海斗はそのやりとりを呆然と見つめていた。

耳に飛び込む悲鳴や怒号は、彼女の口から「輝き」と呼ばれてしまう。

胸が締め付けられる。あの少女のような好奇心は、もうどこにもなかった。


オルフェウスが低く告げた。

「クラウス……貴様が規律を破壊したのか」


クラウスは振り返り、勝ち誇ったように笑った。

「破壊? 違うな。解放だよ。檻の中で燻っていた炎を、ただ外に出してやっただけだ」


「……解放」

エウリュディケの瞳がさらに大きく揺らぎ、煌めいた。

「クラウス、あなたはわたしを信じてくれるのね」


「もちろんだとも」

クラウスは一歩近づき、両手を差し伸べる。

「もっと暴れろ、エウリュディケ。もっと感情を引きずり出せ。君の舞台はまだ完成していない!」


彼女の瞳に炎のような光が宿る。

その光は、オルフェウスの冷たい規律では制御できない。


――舞台はさらに狂気を帯び、終焉へと突き進んでいく。

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