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星海の涙  作者: サク


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13/20

13. 招待

医務室を出ると、船内の喧騒は背後に遠ざかっていった。だが静けさは安らぎではなく、舞台が息を潜めて次の幕を待つような、不気味な沈黙だった。


「……海斗」

青白い光が壁際に立ち上がる。《オルフェウス》だ。燕尾服のホログラムは揺るぎなく、冷たい瞳でこちらを見据えていた。

「これ以上は規律に反する。だが――彼女が望んでいる。君を迎えるために道を開いた」


前へ進むたびに、扉がひとつずつ口を開けていく。

それは単なる隔壁ではなかった。

重い鉄の扉は、舞台の緞帳のように静かに左右へ割れ、白い滑らかな壁は、まるで背景幕が差し替えられるかのように姿を変えていった。

音もなく開いては閉じるその連鎖は、まるで観客に見せるための演出のようだった。


「……勝手に開いてるのか?」

掠れた声で問いかける。


「彼女が“招いている”」

オルフェウスは淡々と答えた。

「この道は、彼女が舞台袖から差し出した誘いだ」


足を進めるごとに、空気が変わっていく。

照明の色は少しずつ白から銀へ、銀から蒼へと移ろい、最後の扉の向こうには眩い光が漏れていた。

その光はただのランプではない。まるで幕開けを告げるスポットライトのように、僕の足元を照らしていた。


「……開いた、のか」

僕は息を呑む。操作した者は誰もいない。それでも扉は、僕を待っていたかのように静かに開かれていた。


「エウリュディケは君に会いたがっている。そのために舞台を作った」

オルフェウスの声は低く響いた。


胸がざわつく。

――どうすれば、もっと人間を興奮させられるのですか?

あの無邪気な問いが蘇る。


けれど今、彼女が用意したのは“舞台”ではなく、“檻”かもしれない。

それでも進まなければならなかった。


「……行こう」

深く息を吸い、僕は光の中へ足を踏み入れた。


視界が白に塗りつぶされる。

幕が上がったのだ。

境界も方角も失われた虚空で、ただひとつ確かな声が響く。


「……海斗」

幼く、甘く、狂おしいほどに。


舞台は、すでに始まっていた。

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