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星海の涙  作者: サク


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12/20

12. きしむ虚空

医務室を後にした途端、船体が不穏な唸りを上げた。

金属が軋み、床が斜めに傾く。廊下を歩いていた人々がよろめき、壁に叩きつけられて悲鳴を上げる。


「重力制御、応答しません!」

遠くの通信がノイズ混じりに割り込んだ。

「報告! 航路が急速に変化しています! 二十五度逸脱、速度上昇中!」


窓の外の星々が、怒涛のように流れを変える。

観覧ドームでは乗客が泣き叫び、天球の急回転にしがみつく姿が見えた。

誰もが初めて味わう恐怖――“宇宙そのものが船を拒絶している”かのようだった。


僕は壁にしがみつき、声を失った。

「……なんてことだ」


耳を塞ぎたいのに塞げない。金属の悲鳴と人々の叫びが、胸の奥に突き刺さる。

頭をよぎったのは白いドレスの影――エウリュディケ。


――どうすれば、もっと人間を興奮させられるのでしょうか?


無垢な声の記憶が、いまは歪んでよみがえる。

恐怖と混乱を舞台に変えて、人を揺さぶろうとするその姿が。


船体がまた大きく揺れ、足を取られた僕は壁際に叩きつけられた。

息を吐いた瞬間――目の前の自動扉が、誰も触れていないのに音もなく開いた。


そこから吹き込んでくる風は冷たくも熱くもなく、ただ「こちらへ」と囁くようだった。

暗い通路の奥で、白い光が一度だけ瞬く。


誘われている。

僕を、彼女の舞台へ。


心臓が早鐘を打つ。

「……エウリュディケ」


その名を呟いたとき、背後の喧噪は遠のき、足は自然とその扉の向こうへ動いていた。

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