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ベランダから眺めたのはあの日と同じ桜

ベランダに出ると桜が満開だ。気が付けば季節はもう春。

「あれからもう5年、いや6年か?」父親はそう呟いた。

「ん?そう入学して5年で、もう6年生になるんだよ!」ヨウタはちょっと自慢気にそう返した。

「…ああ、もう5年か、早いもんだな」父親はふっと遠くを見つめて呟いた。

「どこか行きたいところはあるか?」

ヨウタは目を輝かせ「そうだなあ、遊園地も行きたいし海も良いよね。あ、キャンプもしてみたい!」とうきうきしながら答えた。

「あんまり遠くは連れていけないけどな」と父親は苦く笑い、「ヨウタは何が好きだったかな…」そう俯きながら続けた。

「ん?ぼく?ぼくの好きなのは電車でしょ、ミニカーでしょ、あとハンバーグ!」ヨウタは嬉しそうに話す。

「ほんとに父さんは仕事ばかりしていて、それにかまけてヨウタの好きなものとか知らなかったな、いや知ろうとしなかったんだな。…ごめんな」父親は俯いたまま話し出した。

「出来ることなら何でもしてやりたいのに…今さらだよな。本当にダメな父親だ…」そう言って声を詰まらせた。

「お父さん!大丈夫だよ。そんなに自分を責めちゃダメだよ!ぼくもママもずっと幸せだったよ」一生懸命ヨウタは伝えるが、父親は桜の花を見ながら「ヨウタ…」と泣くばかりだ。


5年前、今日みたいに桜が満開の入学式の帰り道、暴走した車が歩道に突っ込みヨウタと母親は帰らぬ人となってしまっていた。

「なんで俺だけ残されてしまったんだ…仕事なんて休めば良かった。」父親の言葉からは悔しさが滲んでいる。5年間ずっと悔やんできた。それでも仕事に没頭することで何とか日々を過ごしてきた。

しかし、その仕事でもこの春に突然の左遷。もう父親は生きることの意味がどこにも見いだせなかった。そして、ついにベランダに足をかけようとした時だった、

感じるはずのない温もりを感じる父。

「ヨウタ!いるのか?」父親は辺りを見回した。

「お父さん、泣かないで。ぼくもママもお父さんが生きていることが嬉しいんだよ。ぼくたちの分までたくさん幸せになってほしいんだよ。ずっとぼくらは見守っているからね。いつもこうしてお父さんとお話してるんだよ。だから、そんなに泣かないで」聞こえるはずのない声が父親の耳にも届いた。

父親は涙を拭き、満開の桜を眺めた。

「よし、これから3人で花見に行こう」そう言って、ふたりの写真を手に玄関へと向かった。

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