【後編】第4話 黒の魔女
「適当にクエストは見つくろうね」
クロバナさんは俺の返答を待たずにクエストボードから一枚のクエストを手に取った。
喋り方や行動、見た目に特に変なところはない。
何故、屈強な奴らがこんなにも恐れているのか、俺には理解できない。
だが、何か引っかかるといえば何か引っかかる気がしなくもない。
「魔女……か」
「何か言った?」
「いや、ぜひ、宜しくお願いするよ、クロバナさん」
クロバナはニッと笑って、受付嬢にクエストを発行してもらう。
俺は流れに身を任せるまま、クロバナさんの後を着いていくのであった。
クロバナさんが見つくろったクエストに向かう途中、さっきの酒場がどんな場所かおおよそ説明を受けた。
本来のギルドは国が運営と管理を行い、レベルでしっかりと管理された安全なギルド。
さっきの酒場はその逆で、何らかの理由により国家運営ギルドに登録できない者達が集まる『裏ギルド』と呼称される場所で、レベル制限によるクエスト紹介やパーティー紹介もなく全て自己責任の危険極まりないギルドらしい。
しかも表では受けられないような仕事も斡旋されているので、結果的にヤバいやつらの巣窟となった。
「ネコさんが案内してきたってことは、何か困ってたんでしょ?」
「恥ずかしい話だけど、ステータスが低すぎてギルドに登録できなかったので途方に暮れてまして……」
「なるほどなるほど」
ふむふむとクロバナさんは俺を見つめると、にやにやと笑った。
「このステータスとレベルだとね。でも異様に低い。私でもここまで低いステータスの生き物見たこともない、逆にどうやって生きてきたの?」
「普通に働いて生きてきたよ、転移前は」
「転移前……おにーさんは召喚英雄ってことか、だから見たこともない格好なんだ」
「職業無職だから、召喚されてすぐに追い出されたけどね」
「それで冒険者でどうにか生きていこうと思ったの?」
「せっかくの見ず知らずの異世界だから、まずは己の力で生き抜いてみようかと」
「意気込みは好きだけど、無謀と勇気は別物なのは有名な話だよ」
クロバナさんが立ち止まったそこは、森の中にある大きな洞窟だった。
「着いたよ、王都セブンスの初心者向けダンジョン《鉱山》へ、ようこそお」
「おお、これがダンジョン……思いの他、まがまがしい」
初心者ダンジョンという割には入り口から漏れる真っ黒な瘴気が入るものを拒んでいる。
「今回は初心者ダンジョンが、何故レベル五〇仕様になったかの調査・解決のクエストでーす♪」
「♪を付けても全然、楽しそうじゃないから! なんでそんなになっちゃったんだよ!」
ああ、そうかだから国家運営ギルドで初心者ダンジョンの紹介を断られたのね!
「それを調べるのが『私』のお仕事でーす」
クロバナは入り口を通せんぼする様に俺に振り返る。
「ネコさんへのお礼はここまで。思ったより瘴気が深いから、冒険者ごっこツアーは終了でーす」
「いや俺もいくよ、これで食べていく算段をつけなきゃ出し」
「ダメだよ、レベル1の人を入れて死んじゃったら後味悪いし、誰もそこまで望んじゃいないよ」
クロバナさんは《鉱山》の入り口まで歩いて軽く手を振ると、洞窟と外の境界線に薄いシールドのようなものを貼る。おそらく、他者が入れない魔法か何かだろう。
「ここから先は通行止め、じゃあねえ、おにーさん」
手をぶんぶんと振りながら、クロバナさんはダンジョンの奥へと消えて行ってしまった。
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