【後編】第3話 異世界での初めての戦闘は『おで』と俺
「さあ、分かったなら、怪我する前に回れ右して今すぐ出てきな……ここはあんたみたいなオッサンが迷い込んでいいとこじゃないんだよ……」
「そうか――あんた、俺を心配してたのか」
「な……!」
受付嬢は予想外の問いにうっと身を引く。
怪我する前になんて、他人が気をかけてくれるだけでありがたいことだ。
転移前の世界では、注意すらされないのがオッサンだ。
「なら誰でもいい、相手になる、それでパーティーを組んでくれるだろ」
護身用で取得した拳法1の力はどの程度か。
「ナイトブレードライダー4099」ではあってもなくても変わらない程度のパークだ。
けど、この感触は、これなら、おそらく。
俺はこぶしを握り、一番強そうな男に指を指す。
『レベル20の闘牛のバッカスを指名しただと?』
『あのオッサン、骨身も残らんぞ』
『誰か雑巾の準備しとけ! 血がはじけ飛ぶぞ』
闘牛のバッカスと呼ばれた巨漢の男は顔を真っ赤にして、手に持っていた酒瓶を粉々に粉砕する。
「さあ来いよ、俺も試してみたかったとこだ」
構えたこともないファイティングポーズを取る。
頭の中でイメージするのは「ナイトブレードライダー4099」の操作画面だ。あの世界で俺は幾度となく敵を撃破してきた。その動きを身体に思い出させる。
「おまえ おで おこらせた」
リアルな『おでキャラ』を初めて見たと感動しつつ、相手の動きをよく見る。
するとバッカスの人影に沿って緑色の光が囲んでいるのが見える。
――やっぱりそうだ。
「うおおおおおお!」
バッカスは腰から素早く小型の斧を取り出し、俺目がけて突進してきたが、俺はゲーム内で幾度と行ってきたサイドステップをイメージして脇に避ける。
そしてただ、出せる限りの力で『素人右ストレート(拳法1補正)』を放った。
彼の脂肪に俺の腕が突き刺さった。
腕を引き抜くと、苦しむ声もなく、バッカスは地面に崩れ落ちる。
――沈黙。
あまりにも予想外の結果に誰もが喋れないようなので、俺は試合が終わった武道家のようにぺこりと頭を下げる。
それと同時に狭い室内に大歓声が鳴り響いた。
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