【前編】第2話 パーティー? オープンワールドの洋ゲーでも組んだ事ねえよ
「ほら、旨いか。好きなだけ食べろ」
俺は街を探索しながら集めた素材を売って、黒い野良猫と一緒に硬いパンをかじって路肩に座っていた。
「実績解除って言っても何処から手を付けようか」
独り言を気にしていないのか、黒猫は視線だけ投げて再びパンに戻る。
「この基本実績タブは分かる。普通に冒険して手に入るやつだけど、こっちの『ルート』タブは何なんだ」
ルートっていうくらいだから道って意味なんだろうけど、もし異世界に分岐があっても、選ばなかった未来の選択肢はどうやって取得すればいいのか分からない。
「ゲーマーとしてトロコン(トロフィーコンプリートの略)をすると決めたのに、どうしたら良いか分からんってダサすぎる……」
頭を抱える俺の腕を黒猫が舐めるので、余っているパンも黒猫に渡すと加えてまた食べ始めた。
「いずれにしても戦闘は避けられないよな、初期ポイントで生活スキル多数と護身用に拳法1を取得したが、心もとないのは確かだ……となると、初めはお約束の場所で仲間を探すべきか」
にゃあと柔らかく鳴く黒猫に手を振って、散策中に見かけた例の場所へと足を運ぶ。
「中世ファンタジーおなじみの『国営冒険者ギルド』だ」
豪華な石作りに立派な看板、出入りする剣士や魔法使い、付与術師のような者もいれば、治癒士の姿も見かける。
「生で見るとやっぱ実感するよなあ、リアルな装備は痛みもあるからコスプレ感もなくてやっぱカッコいいわ」
そう思うとスーツ姿のまま冒険者ギルドに足を踏み入れるのは目立ちすぎではなかろうか。
前もって装備を買ってくれば良かったかと後悔しながら、冒険者ギルドに足を踏み入れる。
中は思ったより明るく、ギルドカウンターとクエストボード、そして数多くの冒険者が語り合うテーブルが多数並んでいた。
「あの、パーティーを探してるんですが」
金髪の受付嬢に言葉に詰まりながら話しかけると、にっこりしながら丁寧に手順を教えてくれた。
「つまり初めは魔導本を通して冒険者登録をおこない、受付の方が職業やレベルに応じてパーティーを見つくろってくれる。クエストを終えたら継続するかは各々に任せる、か」
「ではこの魔導書に手を置いてください」
「は、はい……」
すると本は弱い光を放ち、受付嬢に対してステータス画面が開かれる。
「あー……」
明らかに言葉に詰まっていた。心なしか先ほどの優しい笑みも消え、口元が引きつっている。
「た、大変申し訳ございませんが、レベル1で低ステータス無職の三〇代の方にご紹介できるパーティーは、当ギルドにはございません」
心に刺さるような俺のステータス概要を早口に語り、俺の心へとダイレクトアタックを決めていく受付嬢。むしろ目を痛めさせるような数値を見せてしまってごめんなさいと心の中で謝る。
「すみません、これには訳があって、では、もし可能なら一人でも腕を磨けるような低レベルのダンジョンとか、そういうのも難しいですか」
「うーん、低レベルですか……すみません、今は最も低いダンジョンがちょっと閉鎖されていて……それに、お客様のステータスでは、あまりにも危険すぎて冒険者登録もできません」
「そうですか……」
これ以上、無理にお願いすると受付嬢さんを困らせてしまう。受付嬢さんから見たら、赤ちゃんよりも貧弱なおっさんが訪ねてきたわけだから、大変申し訳ない。
それに分かったことも一つある。
どうやら、ステータス画面を見られても「ナイトブレードライダー4099」へのメニュー切り替えボタンは他の人に見えないようだ。
「さて、どうするかな、パーティーを組めないとなると……」
「あ、あの人、さっきの放り出された人じゃない?」
可愛らしいアニメ声に目を向けると、そこには剣士、弓師、治癒師、魔法使いの装備に身を包んだ高校生たちが俺に手を振っていた。
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