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 9 ボガト商会

 早速テイト・ラオはボガト商会へ行ってみることにしたのだが、その時もやはり「物言い」がついた。


「せんせ、そういう場所ほとんど行かないでしょ? 行っても不審者扱いされるかも知れないから、ほら、これ」


 と、ミユーサは1枚のメモを差し出した。


 そこにはこまこまとした日常生活で使う雑貨品と、最後に「練り香水・ピンクの一番小さい瓶の」と書いてあって、


「ボガト商会は高級輸入品から生活用品まで色々扱ってるんですよ、ついでに色々見て社会勉強でもしてきてください」


 との一言を添えて渡される。


「これは助かるなあ、やっぱり君はとっても優秀な受付兼処方箋窓口係うけつけけんしょほうせんまどぐちがかりだよ」

「だからあ、その呼び方なんとかなりませんか? どこで働いてるのかって聞かれた時、すごく面倒なんですよ。あまりにめんどくさいので最近は『ラオ先生の助手』って言ってるんですから」


 と、勝手に職名を短縮されてしまったが、確かに助手の方がミユーサのやってくれていることにぴったりな気はする。だがテイト・ラオは今の受付兼処方箋窓口係うけつけけんしょほうせんまどぐちがかりという呼び方を気にいっているのでそれを変更する気はなく、正式名称はあくまでこれでいこうと思っている。


「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい。夕方の診療時間までには帰るんですよ」


 最後の最後まで手間のかかる子どもあつかいして送り出された。


 ボガト商会はマツカの町の中央辺り、一番人通りの多い一角にあった。


「へえ、大きいな。何回も前を通ってるはずなのに知らなかったなあ」


 これはミユーサにもその母のライサにも、お説教されてもしょうがないレベルだったなと自分でそう思う。そのぐらい大きな店だ。


 そもそも自分はあまりあれが欲しい、これが欲しいという物欲がない方だと思う。なので、生活必需品はいつも決まった雑貨屋で買っているし、身に付ける物その他、大抵の物はそういう感じで行きつけの店にしか足を向けない。新しい店を開拓することもほとんどないし、高級輸入品なんてものにはほぼ縁がなかったので、知らなくてもしょうがないよと自分を慰めてみる。


「入ってみるか」

 

 テイト・ラオは一つゴクリと唾を飲み込むと、思い切って正面の大きなガラス扉を手で押して中に入ってみた。


「いらっしゃいませ」


 入った途端に上品な女性がそう言って迎えてくれた。きれいに髪をまとめ、きちっとしてはいるが堅苦しくない服装をしている。顔には薄く化粧をしているが、なんとも自然。よく見るとそんな女性が3人いて、全員が自分の方を見てニコニコしてくれているのだから、テイト・ラオは思わずちょっとばかり後退(あとじさ)ってしまった。


「えっと……」


 次はどう動くのがいいんだろう。そう思っていたら、


「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか」


 と、今度は心地よく響く男性の声がした。


「あ、えっと、ちょっとお使いを頼まれました」

 

 テイト・ライは同じ男性の声にちょっとホッとして、ミユーサから預かった紙を見せながら、声の持ち主を振り向いた。


 そこにはすらっと背が高く、整った顔立ちの男性が、やはりきちっとした服を自然に着こなし、自分を見て笑顔を浮かべていた。なんとなくこの人がクラシブさんという人なんじゃないかなと思う。


「お使いですか、よろしければ拝見しても?」

「あ、はい、お願いします」


 クラシブさんらしき人は近寄ってきてメモを受け取ると、


「分かりました、こちらです」


 と、売り場を案内してくれる。その動作もスマートで丁寧。なるほど、これは憧れる女性が多くても仕方がないなと思える人だ。


 順番に売り場をまわり、必要なものを買い物用のカゴに入れていく。最後の練り香水のところに来たが、なんとも晴れやかだ。


「へえ、こんな物があるんですね、知らなかった」


 メモにあるピンクのだけではなく、青、黄色、緑、白、色んな色の瓶がある。


「これ、どう違うんです?」

「香りが違うんですよ。お試しになられますか?」


 男性はお試し用らしき瓶を持ってきて香りをかがせてくれた。なるほど、ちょっとずつ香りが違う。


「どれもいい香りですね。じゃあ、えっとこのピンクの一番小さいのと、それからこっちの白いのも一緒にお願いします」

「ありがとうございます」


 揃った商品を持って男性は会計へ行き、丁寧に袋に入れてくれた。料金を支払って荷物を受け取ると、


「ラオ先生でいらっしゃいますよね」


 と、声をかけられてびっくり。


「え、僕のことをご存知なんですか?」

「もちろんです。呪医のテイト・ラオ先生を知らない人間は、このマツカにはいませんよ」


 満面の笑みでそう言われて、なんだかとても恥ずかしくなってきてしまった。


「あ、そうなんですか、あの、ありがとうございます」


 マツカの町に出入りする人間なら知らない人はないと言われる有名人にそう言われてしまい、どう返事をしていいものかと思っていると、


「私はクラシブ・ボガトと申します」


 と男性は自己紹介をしてくれた。思った通りこの人が例の男性だ。


「あの、この後少しお時間ございませんか? 少し先生に相談をしたいことがありまして」


 クラシブは整った顔を少し曇らせて、テイト・ラオにそう言った。

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