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第98話『お姉ちゃんが生きた証を繋いでいく為に。私は人々を救う聖女になります』

私の言葉をまだ受け止めきれていないリアムさん達をそのままに、私は立ち上がって、大きく息を吸い込んで、吐いた。


「……リリィ?」


「始めましょう。まず最初の一歩を」


「何をするつもりだ」


「そんなに怖い顔をしないで下さい。リアムさん。別にこれで私が消える事はありませんよ」




そう。全てはここから始めるのだから。


「……まずは土の精霊さん」


私は言葉を紡ぎながら、土の精霊さんと出会った花畑……そして獣人さんの住処へと力を向ける。


温かい日差しが、花々に降り注ぎ、木々の間から木漏れ日が落ちる。


そんな世界の変化に、オーガさん達が。


『……この光、アメリアと、リリィか?』


『そうだな、だが……これは、もう』


『っ』


『何をやってる?』


『二人は花が好きだった。だから、空に花を、届ける』


『……そうだな』


そして獣人さん達が反応しているのが分かった。


『長! 長!! 大変です!! アメリア様とリリィ様が!!』


『あぁ、私にも見えているよ。優しい木漏れ日だ』


『みんな手を止めろ。今日の仕事はもう終わりだ。アメリア様とリリィ様に我らも祈ろう』


『あぁ』




私は土の精霊さんに力の維持をお願いしつつ、次に火の精霊さんを通じて、山々へと力を落とす。


土の精霊さんの時と同じように、光を隅々まで届かせてゆく。


『リリィ? 父ちゃん。リリィの声が……』


『あぁ聞こえたよ。アメリアも……な』


『俺……行く。まだ間に合うかもしれないから』


『そうだな。我も久しく大空の向こうへ行こうか』


山に住まうドラゴンさんだけでなく、洞窟の中に住むドワーフさん達にも祈りを届けてゆく。


『大佐! こいつぁ!』


『あぁ。どうやら姫様は世界と共にある決断をされたようだ』


『英雄ごっこではなく、真の英雄となってしまったか』


『それが姫様とリリィの決断だ。総員敬礼!』


『……!』


『今日は飲もう。我らの新たな光の誕生に』


『そして、古き友の旅立ちに……! 乾杯だ』




山を越えて、遥か向こうの地平線まで広がる大草原で、私は風に乗って力を届けに行く。


飛行機を整備しているオークさん達の所へと。


『アメリア……? それにリリィ』


『おい! 聞こえたか!?』


『あぁ。聞こえたよ』


『とんだバカ娘たちだよ。まったく。世界なんて放っておけば良いってのに』


『それが出来なかったから、こうなったんだろう』


『……そうかもね』


『おい。豚野郎。どこへ行く』


『決まってんだろ。空の果てだよ』




風に乗り、どこまでも遠くへと向かっていた私はそのまま大きな湖に落ちて力を溶かしていった。


水が通り、木々へ、木々が集まる森の中へ。


『っ!! そんな!! 話が違う!!』


『お前たちはいつも騒がしいな。陰魔』


『これが騒がずにいられるか!! 姫様が! それにリリィさんだって!! こんな終わり方ってないよ!!』


『だが、分かるだろう? これが二人の望んだ事だ』


『でも!!』


『認められぬというのなら、どうする? 全て壊すか? 二人の願いを』


『そんな事出来るワケないだろ!! 分かってるんだ。私だって……!』


『苦しいのは私たちも同じさ。しかし、これで世界が前に進むのなら、私も祈ろう……! 姫様とリリィの願った未来を』


『……あぁ』




そして、私は世界中に力を広げてゆき、深き森の奥にいたあの子を見つけた。


『っ!』


『どうした? ジーナ』


『今お姉ちゃんの声が聞こえた。それに、泉で会ったお姉ちゃんにそっくりな子の声も!』


『……なるほどね。分かったよ。ジーナ』


『何が?』


『アメリアが何を想って、どう生きて来たのかがさ……さ、長い話になる。ゆっくりと話そうか』




私はジーナちゃんとそのお母さんを見送って、意識を自分の所へと戻した。


が、自分で思っていたよりも、消耗していたらしく体をふらつかせてしまう。


「……っ」


「リリィ! 大丈夫か!?」


「はい。ご心配をおかけしまして」


私はリアムさんに支えてもらいながら笑った。


しかし、疲れは酷く吐く息も重さが混じる。


「どうする? 横になるか?」


「いえ。その前に……お話しないといけない子が居ますから」


そして、私はこの場所に転移してきた少女……レーニちゃんへと視線を向けた。


信じられないと目を見開き、行く場所を見失った子供の様なその子へと。


「レーニは、信じない」


「……レーニちゃん」


「アメリアは居なくならない! だって、また会えるって言ってた! リリィは嘘を吐いてる!!」


「……」


私は攻撃魔術を使おうとしているレーニちゃんを見ながら静かに目を閉じた。


どうしても許せないのなら、このまま撃たれてもしょうがないと考えたからだ。


「レーニ……! 駄目!」


「オリヴィア! なんで!」


「リリィ様は、アメリア様と同じだから」


「違う!! 全然違う! アメリアみたいに運命を感じない! レーニの特別じゃない!!」


「それでも……! アメリア様と同じ様に、世界に光を与えようとしてる」


「っ! でも! それでもレーニは、世界なんかより、レーニを選んで欲しかったのに……!」


レーニちゃんはその場に崩れ落ちて、涙を流しながら空を仰ぐ。


お姉ちゃんが消えていった空の向こうに想いを向けながら、ただ、泣いていた。


「……レーニちゃん」


私はリアムさんに支えられたまま、泣き崩れるレーニちゃんに近づいて、ゆっくりと体を抱きしめた。


「リリィ?」


「世界の事を、レーニちゃんやオリヴィアちゃん。ジーナちゃんの事を想うのなら、私ではなくお姉ちゃんが残るべきだったという事は、私もよく分かっています」


「……ちが、違うよ。そうじゃない。レーニは」


「でも、お姉ちゃんは精霊となる以外にこの世界で存在し続ける事は出来ない体になってしまいました」


「リリィ」


「でも、逆に考えれば……お姉ちゃんはいつまでもこの世界に存在し続ける事が出来る様になったのですよ。空に輝く日の光と同じ様に。いつまでもレーニちゃんや皆さんを照らし続けてくれる」


私はいつか訪れる幸福な未来を語った。


私の命が尽きるのと同時に、光の精霊は世界に生まれる。


多分、最初はオリヴィアちゃんが選ばれる事になるだろう。


そうすれば、この世界は本当の意味で光を手に入れるのだ。


「いつか、またお姉ちゃんと再会する事も出来ます」


「……いつかって、いつ?」


「ちょっとそれは私にも分かりませんが、少なくとも後季節が七回巡ればもすれば、光の精霊は生まれますよ」


「そうなんだ」


「はい。まず間違いなく」


私はそれ以上生き続ける事は出来ないだろう。


自分の体を見ていれば分かる。


「なら、レーニもアメリアとの約束を守って、待ってる」


「約束?」


「人を護って欲しいって言ってた。だから、レーニも人を助けながら、待つ。光の精霊が生まれるまで」


「はい。ありがとうございます」


「じゃあ、光の精霊が生まれたら、また会いに来るね。リリィ。それに、オリヴィア」


「はい」


「また、会いましょう。レーニ」


「うん」


そして、レーニちゃんは涙を拭って立ち上がり、何処かへと転移していった。


おそらくは人を護るというお姉ちゃんとの約束をこなす為に向かったのだろう。


これで、全ては動き始めた。


私は立ち上がると、リアムさん達に笑いかける。


「じゃあ、私たちもそろそろ行きましょうか」


「……リリィ。お前はこれからどうするんだ?」


「そうですね」


私は少しばかり考える仕草をしてから笑う。


「私はこれから、世界を巡ります」


リアムさん達から遠くの空へと視線を移しながら言葉を紡ぐ。


「お姉ちゃんが生きた証を繋いでいく為に。私は人々を救う聖女になります」

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