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第89話『思いつきで人に迷惑をかけるのはどうかと思いますよ』

まぁまぁな時間を掛けてドワーフさん達を説得し、私たちは再びドラゴンの巣を目指して歩き始めた。


そして、洞窟を抜け、壁に背中を付けて警戒しながら、ドワーフさん達が外を伺っているのを、洞窟の中から見つつ、息を潜める。


ドキドキ、ワクワク。


何だか始めての経験に私は気持ちが昂ってゆくのを感じながら、ドワーフさん達の背中を見続けた。


「よし。囮チームも所定の位置に着いたようだ。大佐」


「……分かった。姫様? よろしいですか?」


「えぇ」


「承知いたしました。では作戦開始だ」


「ハッ。作戦開始」


「了解。作戦開始」


「作戦開始」


お姉ちゃんの言葉を合図として、まず大佐さんが頷き、すぐ横に居た人も頷きながら作戦開始と呟く。


そのまま小走りに洞窟の出口に居るドワーフさん達に近づき、作戦開始と告げていった。


別にお姉ちゃんの声は聞こえているだろうに。イチイチ一人ずつ伝言をしてゆく意味はあるのかと思わなくもないが、ドワーフさんは楽しそうなので、野暮なことは言わないでおく。


「大佐。囮チーム動き始めました」


「了解した。では情報は逐次報告頼む」


「了解!」


大佐さんと、すぐ横に居たドワーフさんの話し声が聞こえた瞬間、体が震えてしまう様な音が洞窟の向こう側から聞こえた。


私は思わずお姉ちゃんに抱き着いてしまうが、お姉ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれる。


「今のは?」


「おそらくドラゴンさんの叫び声ですね」


「……こんなに凄いの?」


「リリィは直接ドラゴンを見たことが無いのか?」


「は、はい。そうですね。リアムさんはありますか?」


「あぁ、ちょっと前にな。どっかのアホがドラゴンを連れてきたモンで、目の前で見る事になった。良い考えがある。なんて言ってな」


「それは災難でしたね」


「まったくだ。今度、ソイツを叱ってくれるか? リリィ」


「はい! お任せ下さい! 私がしっかり注意しますね! 思いつきで人に迷惑をかけるのはどうかと思いますよ。としっかり言います」


「そ、そんなに頑張らなくても良いんですよ? リリィ。誰にでも失敗はあるでしょう?」


「……確かにそうですね。お姉ちゃんの言う通りです」


私はお姉ちゃんの言葉に考え直し、とりあえず、リアムさん達を危険に晒した人が居るならば、駄目ですよと叱るだけにしようと心に誓うのだった。


「でも、ドラゴンがどの様な姿をしているのか、気にはなりますね」


「……呼ぶなよ。アメリア」


「呼びません!」


「なら良い」


お姉ちゃんとリアムさんの会話を聞き流し、私はドワーフさんの背中を見ながら、何とか見る方法は無いかと考えていた。


少しだけでも駄目だろうかと大佐さんへも視線を送る。


そして、そんな視線に気づいたのか。大佐さんが頷いてくれて、一人のドワーフさんを私の所へ向かわせてくれるのだった。


「リリィさん。ドラゴンを拝見したいと伺いました」


「はい! 気になってます!」


「承知いたしました。では自分に付いてきてください」


「はい」


酷く真面目そうなドワーフさんの背中に付いて、慎重に足音を消しながら歩く。


そして、洞窟の入り口近くへ来ると、その陰からこっそりと外を覗き見た。


「……っ!!!!?」


しかしすぐに顔を引っ込めて、胸を両手で抑える。


凄い。とてつもなく凄い存在が居た。


向こう側に凄く大きな翼の生えた子が居たのだ!


何だろう。凄くドキドキする。


そして、ワクワクする。


「リリィ。どうでしたか?」


「す、凄いね。アレがドラゴンなんだ」


「はい。そうですよ。ふふ。その様子なら、大丈夫そうですね。リリィも仲良く出来そうです」


私はお姉ちゃんの言葉に何度も頷きながら、もう一度洞窟の陰からこっそりとドラゴンさんを見るのだった。


しかし、二度目が悪かったのだろうか。


もしくは何かの偶然か。


ドラゴンさんの一体がこちらにジロリと視線を向けたのだ。


「わっ」


「マズイ! 総員撤退! 総員撤退!!」


私は近くに居たドワーフさんに腕を掴まれ、逃げようとする所だったが、それよりも早く、何かが洞窟のすぐ近くに落ちて、その衝撃で、洞窟の中に居た全員が吹き飛ばされる。


そして、それは私も例外では無かったのだが、何か柔らかい物がすぐ近くに現れ、それにぶつかり、地面に落ちた。


「いたっ」


『んー? なんだ。お前。人間?』


「え? 声が聞こえる?」


『オレだ。オレオレ。目の前に居るだろう?』


私は一応洞窟の中を見るが、入り口の所に立っているのはお姉ちゃんだけで、他の人は誰も居ない事を確認した。


お姉ちゃんはオレなんて言わない。


という事は洞窟の外かと視線を外に向けると……そこに居た。


巨大な顔を近づけて、私をジッと見ている二つの瞳が。


大きな大きなドラゴンが、そこに居たのだ。


「っ!」


『おー。なんだ。こうして見ると可愛いな。アメリア姫様に似てる』


「お姉ちゃんに? 本当ですか?」


人間以外から似ていると言われたのは初めてである。


私は何だか嬉しくなって、ドラゴンさんに飛びついてしまった。


『おー。そうだな。似てる似てる。そっくりだ』


「それは嬉しいです!」


『しかし。お前はオレが怖くないのか? オレはドラゴンだぜ?』


「えぇ。怖くはないですね。むしろ格好いいです。大きなレッドリザードくんみたいで」


『何ィ!? オレがレッドリザードみたいだと!? おいおい、お前。見る目が無いぜ! オレはあんなチビとは大違いだ! 見てくれ、この翼! 格好いいだろう!?』


「はい。黒いのに輝いていて、とても綺麗で、格好いいですね」


『んー! お前、やっぱりいい奴だな。あ、そうだ。人間。人間には名前があるんだろ? 聞かせてくれよ。特別に覚えておいてやる!』


「私はリリィと言います。えと。ドラゴンさんの名前は」


『俺に名前なんて無いぜ! 誇り高きブラックドラゴンの子供だ!』


「あ、そうなんですね。ではブラックドラゴンさんとお呼びすれば良いですか?」


『それは父ちゃんの事だろ』


「え。ではどの様にお呼びすれば」


『え? どの様に。って、どういう風に呼べば良いんだ? あ。姫様! 居たのか! 教えてくれ。こういう時はどうすれば良いんだ?』


「ふふ。そうですね」


私とブラックドラゴンさんの会話を黙って聞いていたお姉ちゃんは、柔らかい笑顔を浮かべると、そうですね。と言いながら、一つの提案をした。


「では、リリィが呼ぶ為の名を付けるというのは如何でしょうか」


「え!? 私が!?」


「はい」


「お姉ちゃんじゃなくて!?」


「はい。ブラックドラゴンさんの子供さんと仲良くなったのはリリィですから」


「えぇー。いや、そうだけど」


『んー! 分かった! じゃあリリィにお願いしようかな!!』


「えぇ!? ブラックドラゴンさんはそれで良いんですか!?」


『おいおい。さっきも言ったけど、それは父ちゃんの事だ。オレだけの名前をくれよ。リリィ』


「わ、分かりました」


責任重大だと思いながら、私は腕を組んでうーんと悩む。


そして、昔お姉ちゃんに教えて貰った本に出てきたドラゴンさんの名前を思い出す。


「メーラス」


『おぉ、その名は! 俺の爺ちゃんと同じ名前だな! 数百年前に空の向こうへ行っちまったけど、懐かしい』


「あ、ごめんなさい。違う名前の方が」


『最高だ! 最高の気分だ。よし。じゃあ爺ちゃんに報告しよう! リリィ!』


私はふわっと体が浮き上がると、そのままブラックドラゴン……改め、メーラスさんの背中に乗り、空へ行く。


そして、メーラスさんの雲を吹き飛ばす様な咆哮に耳を塞ぎながら、大空を自由に飛ぶメーラスさんに胸を高鳴らせるのだった。


『うぉぉおおお!! 爺ちゃん!! オレは爺ちゃんと同じ名を貰ったぞ!! しかも、姫様とそっくりな子にだ!!』


その声は酷く楽しそうで、嬉しそうで。


私も想わず笑みをこぼしてしまうのだった。

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