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第88話『そうそう。そうですよ。ついでに失敗した事も忘れちゃいましょう』

ドワーフさん達と共に、私とお姉ちゃん。そしてリアムさんやフィンさん、カーネリアン君とキャロンさんは洞窟の中を慎重に進んでいた。


暗い洞窟の中でも、ドワーフさんが持っている魔導具のお陰で足元が見えるくらい明るく、私たちは何とか進んで行ける。


「おっと。罠があるな。少し待ちな」


「……随分と多いな」


「まぁ、この辺りは暗黒時代に人間と生活していた場所でもあるからな。普段使わない道には罠が多いんだ」


「なるほどね」


フィンさんとドワーフさんの会話を聞きながら、私は何となく洞窟の壁や天井などを見る。


それらはつるつると綺麗な見た目をしており、触り心地も良さそうだった。


「どうだ? 姫様の妹……あー」


「リリィです」


「おぉ。そうだったな。リリィ。で? どうだ? 綺麗だろう」


「……はい。とても」


「この辺りはな。俺たちと人間たちが協力して掘り進めた道なのさ」


「そうなんですか? 人間とドワーフさん達が……」


「あぁ。昔にな。とは言ってもお嬢ちゃん達が生まれるずっと前さ。暗黒時代って言われている頃だな」


「まだ光が無かった頃、ですよね?」


「うーん。光が無かったというと語弊があるな。無かった訳じゃ無いんだ。ただ、酷く薄くて、僅かなものしか無かった時代という奴だ」


「その辺りは私が詳しく説明しましょうか?」


「あー。頼む。姫様」


私とドワーフさんの会話に、ニコニコと入ってきたお姉ちゃんは、懐かしい事でも思い出す様に口を開いた。


「いわゆる暗黒時代というのは、知らない人からすると、本当に真っ暗闇で何も見えない時代。みたいに思われるかもしれないんですが、そこまで真っ暗というワケでは無かったんですよ。勿論今より暗かったのは事実ですが」


「確か、厚い雲が常に空を覆っていて、日の光を遮っていたんだろう?」


「はい。そうですね。リアムさんの言う通りです。ですが、雲は雲なので、昼間は僅かですが明るくなりますし、たまに雲の切れ間から光が差す事もありました。人々はそんな雲の切れ間を神の降臨と言って喜ぶ事もありましたね」


「だから、こうやって灯りを造る技術で光を手に入れたり、飛行機なんかで空の上に行こうとしたってワケか。よくやるもんだね。昔の人間も」


「はい。そうですね。だから、技術面で言うなら、現代より過去の方が凄い発明がいっぱいあったりします」


「あー。確かに。草原のオークの所にあった飛行機とかな。正直、今の人間にアレが作れるかって言われると微妙だもんな」


「そうですよね。私も何となくは理解しましたけど、作れって言われたら無理だと思います。カーネリアン君なら、大丈夫かもしれないですけど」


「いやいや内燃機関回りは俺もサッパリだよ。これから勉強だ」


「あ、そうなんですね。頑張って下さい」


「ほう。飛行機か。話には聞いた事あるな。確か、空を飛ぶ鉱石の塊だったか?」


飛行機の話にドワーフさんが何人か興味津々に近づいてきて、話を聞きたがっていた。


何故か私に。


「そ、そうですね。大きな風を受けて、それを飛行機の中で前に進むエネルギーに変換していると言っていました! はい!」


「おぉ、リリィちゃん。よく覚えてるな」


「お姉ちゃんが言った事は全部覚えてます!」


「ふふ。流石はリリィですね」


「てへへ」


「そうか。風の魔力を推進力に変えてんのか」


「いや、でもそれなら火の魔力でも良いんじゃねぇか?」


「安定しねぇだろ。マグマでも積むつもりか」


「燃やせば良いじゃねぇか。燃料積んでよ?」


「どんだけ燃料積むつもりだよ。それならオーク共みたいにデカい風受けて進む方が効率的だぜ」


「バカ言うな。風頼りじゃ風が止んだ瞬間に終わりだろうが」


「なら得たエネルギーを溜めておけば良いんじゃねぇか? それなら、先にエネルギーを確保してからそれを使って飛べば良いだろ」


「エネルギーを溜めておくって言ってもな。どんだけ溜めるつもりだ。結局その分水晶玉なり、別の鉱石なりを積む事になるんだぞ。重量の無駄だ」


「ならやっぱり燃やし続けるのが正解だろ。燃料を積んでも、使えば使う程飛行機の重量は減るんだからよ? 着陸だって安定する筈だぜ」


「しかし、安全面はどうだ? 燃料をどこに保管する? 火が付いたら空中で大爆発だぞ」


「そりゃそうだ」


「それなら風の精霊と契約した奴らを連れて行く方がよっぽど効率も良いぞ」


「いやいや。風の精霊と契約した奴を連れて行って飛ぶんなら飛行機なんて要らないだろ。そいつら自身が飛べば良いんだからよ」


「待て待て。話が暴走している。こういう話をする時は、まず目標だ。目標を決めないと話が出来ん」


「おう。そうだな。ちょっと待ってろ。板を用意する」


気が付いたら、ドラゴンへ行く話などどこかへ飛んでしまったのか。


ドワーフさん達はその場に座り込んで、どこかから拾ってきた板に色々と書き始めた。


そして、カーネリアン君もそれに参加しており、意見をぶつけ合っている。


「ねぇ。どうする? リアム。フィン。アメリア」


「どうもこうも」


「熱中しちゃってるしねぇ。しょうがないんじゃない? どの道、俺らだけじゃ先へは進めないしさ」


「そうですねぇ」


「まぁ、そうよね」


四人はうんうんと頷いて、その場に座り休む事にしたようだ。


私は何となく面白くなってドワーフさん達の話を聞こうと近くへ行く。


「つまりだ。一番重要なのは動力源って訳だ」


「いやいや。どんな内燃機関で回すかって方が重要だろ。効率化がそのままイコール継続時間、航続距離の延長に繋がる」


「でも結局それじゃいつか頭打ちになるぞ。限界のある開発ほどつまらないものはない。やはりエネルギー問題に目を向ける方が良いと思う。最初のコストで最大のエネルギーを生み出せる物質があれば、それで全て解決出来るハズだ」


「そういう発想が汚染を呼ぶんだぞ」


「そうだそうだ。川の一部が使えなくなったのを忘れたか! 鉱石の毒をそのまま垂れ流しやがって!」


「技術の発展の為には必要な犠牲だ。それに永久に使えないって訳じゃない。浄化すれば使えるはずだ」


「横暴な発言は止めろ! エルフの連中やドライアードともそれで戦争になったんだろうが! あれで森の一部が奪われたんだぞ! 木材は希少だってんのに!」


「うぐ」


「環境への配慮ってのは大事だ。それは間違いない。俺たちだって汚染は嫌だし、それを他の奴の場所で行えば戦争になる。それは今までの歴史で学んできた事だ。しかし、それならば、汚染を気にせず実験を行える場所があれば問題ないだろう」


「その考えで見つけたのが、エルフのドライアードの共同保護領域だっただろ。結局何も居ない場所なんて存在しないのだから、無茶な発明は駄目だ。あくまでドワーフの実験室だけで行える量にするべきだ」


「しかしなぁ。大規模開発は夢だろう?」


「夢で戦争が生まれちゃ意味がねぇよ」


「やはり、そう考えると……魔力を増やす方向で考える方が……って、あ」


「どうした? あ」


ドワーフさん達は熱中して話をしていたようだが、私の顔を見て、口を開いたまま固まった。


そしてそれに続いて、周りのドワーフさん達も私を見て固まる。


「す、すまんかったー!!! すっかり盛り上がってしまい。本来の目的を忘れていた!! 詫びになんでもする!!」


「まぁまぁ。それだけ熱中できるのは良い事ですよ。どの道、急いでいる話では無かったですしね。少しの時間では何も変わりませんよ」


「そうそう。そうですよ。ついでに失敗した事も忘れちゃいましょう」


私とお姉ちゃんは頭を下げるドワーフさん達に言葉を尽くして、何とか納得して貰うのだった。

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