第87話『うん。分かった。どんな危険な場所でも、お姉ちゃんと一緒なら、大丈夫。私、お姉ちゃんに付いて行くよ!』
ドワーフさん達が何とか元気になったので、私たちはドワーフさん達に村の人たちの事を何か知らないかと聞いていた。
「あぁ、あの連中か。知ってるぞ」
「本当ですか!?」
「あぁ。どれくらい前だったかな。ドラゴンの奴が妙に騒いでいてな。何かと思って俺たちは警戒していたんだが、どうやら人間と戦っている様だった」
「人間と、という事は村の方々と?」
「いや、そいつらじゃない。知らん連中だ。ドラゴンに乗ってたのは小さな娘二人でな。その二人も人間と戦っていたが、結局ドラゴンと一緒に何処かへ飛んで行ってしまったな」
「……いったい何があったんでしょうか」
ドワーフさんとお姉ちゃんの会話を聞きながら、私はうーんと考えていた。
今の話を聞く限り、ドワーフさん達はその戦いを見ていただけだ。それに始まりもよく分からないだろう。
なら……。
「ドラゴンに聞くしか無いですかね?」
「な、何を言うんだ。この娘っ子は!」
「ドラゴンと話をするだって!!?」
私の独り言に反応したドワーフさん達が大騒ぎするのを見て、私は動揺してしまった。
いや、だって、村の事を知っているのはドラゴンしか居ないのだから、ドラゴンに聞くのが正解だろう。
「リリィ。お前は知らんかもしれんが、ドラゴンってのは神話に出てくるくらいの化け物なんだよ。ドラゴンに襲われれば、いや、ドラゴンがただ近くを通ったというだけで壊滅した村の話なんていくらでも転がってる。それくらいヤバイ奴なんだ」
「……そ、それは、確かに危険ですね」
「あぁ。そうだ。危険だ」
リアムさんの言葉に私が頷いて、そして周囲の人たち……お姉ちゃん以外のみんなが頷いて、ドワーフさん達も頷いていた。
しかし、不意にドワーフさん達はスクッと立ち上がると、ギラギラとした目を私に向けながら笑い始めた。
な、なに……?
「危険だからこそ、チャンスだな!」
「……え?」
「遂に来たか! 俺にも活躍の機会が!!」
「火の精霊が見せた映画の様に。俺たちもスーパーアクションをこなし! 伝説を作る事が出来るっ!!」
「うぉおぉおおお!! やるぞぉぉぉおおお!!」
急に激しく叫び始めたドワーフさん達にビックリして、私はお姉ちゃんの近くまで駆け寄った。
そして、腕にしがみ付きながら、興奮するドワーフさん達から距離を取る。
しかし、お姉ちゃんはそんな私を見て、柔らかい安心する様な笑みを浮かべ、そしてドワーフさん達に向かって口を開いた。
「皆さん」
「おい! 静かにしろ! 姫様のお言葉だ!!」
「突撃前の演説か!! 来たな!!」
「待ってました!!」
「大統領が演説するぞ!! 全員黙れ!! それが流儀だ」
「じゃあ、私は何か良い感じに盛り上がる音楽を奏でようか」
「誰かー!! 姫様に拡声器を持ってこい!! 例の魔導具だ! この時の為に用意してた奴があっただろ!!」
「試作品だが、あるぜ!!」
あれよあれよという間に、お姉ちゃんは私にしがみ付かれたまま、ちょっと高い台の上に立ち、何やら手に小さな棒の様なモノを握って苦笑していた。
『えー。あー。聞こえますか?』
全員が大きく頷く。
『ありがとうございます。では、ドワーフさん達好みに話しましょうか。んんっ! あー。よし』
お姉ちゃんはいつものぽややんとした笑顔ではなく、キリっとした格好いい顔になると、真剣な眼差しでドワーフさん達を見た。
『おはよう諸君。ここは洞窟の中で、世界を照らす日の光は見えないが、良い朝だな』
『何故なら、私の前には日の光よりも強く輝く戦士たちがいるからだ』
『この光は山の向こうに昇る日の光にも匹敵するだろう』
『さて。そんな強い輝きを放つ諸君に、一つ残念な知らせがある』
『それは君たちの平穏な時間が終わってしまったという知らせだ』
『家族と共に、日々の喜びを分かち合い。幸せを感じる時間は今終わりを告げたのだ』
『諸君!』
『幾多の戦場を、私と共に駆け抜けた諸君!』
『戦いの時間が来てしまった。命が容易く奪われる、戦いの時間だ』
『諸君の様な屈強な兵であっても、命の保証が出来ない戦いだ』
『この戦いが終わったとて、諸君の手に残る物は少ない。戦いを勝ち抜いた栄光と、家族の笑顔くらいの物だ』
『しかし!! 私はそれでも、諸君にあえて問おう!! 私と共に死地へ向かう覚悟はあるか!?』
『ただ、家族の笑顔を護るという使命の為だけに!! 二度と子供の手を取れぬ、愛する者と語り合えぬそんな世界へ行く覚悟はあるか!!?』
「「「「うぉぉぉおおお!!!!」」」」
『よろしい。流石は私の最も信頼する友人たちだ。君たちの勇気に私は最大限の感謝を伝えよう』
『では、作戦の概要を伝える』
『大佐! 説明を頼む』
お姉ちゃんは大佐さんというドワーフさんを呼ぶと、その人に手に持っていた声の大きくなる魔導具を渡した。
『あー。私だ。大佐だ。話は先ほど姫様より聞いての通りだ。我が部隊にそんな臆病者は居ないと思うが、一応作戦に参加できぬ者は言ってくれ。私から姫様に話を通しておこう』
『うむ。居ないようだな? よし。では作戦の話を始めよう』
『今回の作戦だが、我らが目撃したドラゴン……ブラックドラゴンだな。コイツに接触するのが最終目標だ』
『その為には、まず周囲の取り巻きのドラゴンたちをどかさないと話が始まらない』
『何故ならドラゴンは巣に近づくものを攻撃する習性があるからだ』
『その為、我らは部隊を四つに分ける。一つは正面からなるべく多くのドラゴンを引き付けて逃げる囮役だ』
『この役は非常に危険だ。勇気ある者でなければ任務を全うする事は難しいだろう』
「大佐!! その役目! 俺たちが引き受けた!!」
『おぉ。マーティン。それにシェパードたちもか。流石は大蛇と戦い続けるドワーフの中でも最も勇気ある者。流石だな。では頼む』
『次に、斥候部隊だな。洞窟内を進む本隊の道の安全と、障害の排除が主な目的となるが……まぁ、これは決まっているか。インディアナ、アバーナシー。お前たちに頼めるか?』
「あぁ。任せくれ」
「問題ないわ!」
『助かる。では次に、潜入部隊だ。ドラゴンの巣へ潜入し、最適な道を見つけ出し、いざという時にはドラゴンの相手もする。この部隊には臨機応変に対応できる対応力が必要となる。と、まぁ。こんな事を言えば、出来る者など限られているか』
「あぁ。この俺を置いて、他には居ないだろう!!」
『頼めるか。イーサン』
「あぁ。当然だな。俺に不可能な作戦なんて無いぜ! 任せてもらおうか!」
『よし。では残った本隊は俺が担当する。特殊部隊出身の実力を見せてやろう!! 今、名前を呼ばれなかったドワーフたちは、各々が最も己が輝けると思った部隊へ行って欲しい! 英雄となるチャンスだぞ。逃すなよ! 百年は語り継ごうじゃないか!!』
「「「「うぉぉぉぉぉおおおおお!!!」」」」
気合を入れて叫ぶドワーフさん達に圧倒されつつ、私はお姉ちゃんの手を強く握った。
そして、お姉ちゃんはそんな私の手を握り返しながら、笑う。
「じゃあ、リリィはお姉ちゃんと一緒に行きましょうか」
「うん。分かった。どんな危険な場所でも、お姉ちゃんと一緒なら、大丈夫。私、お姉ちゃんに付いて行くよ!」
私もまたお姉ちゃんと手を握り合いながら、気合を入れるのだった。




