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第86話『うーん。それは複雑な気持ちですね。信じたくないというか。考えたくないというか』

それなりに長い時間をオークさん達と共に草原で過ごし、オークさん達のレースを地上から見守って、私たちは次なる場所を目指す旅に出た。


「しかし、もうこれ以上旅を続ける必要は無いんじゃないか? アメリアちゃんも帰ってきたんだし」


「いえ。あの。出来ればなんですが、オリヴィアちゃんの様子を確認しに行きたいのですが」


「あ」


「フィン。お前は黙ってろ」


「だー! 悪い! アメリアちゃん!」


「いえいえ! これは私の我儘ですから。無理には」


「無理なんか無いぞ! それ! 急いで行こう!!」


フィンさんはお姉ちゃんを抱き上げると、すごい勢いで走っていってしまった。


残された私たちは呆然としたままお姉ちゃんを抱きかかえたフィンさんを見送る。


「えと、私たちはどうしましょうか」


「どうもこうも。村の場所は分かってるし。ゆっくり行きましょ」


「そうだな。アホには付きあってられん」


なんて呆れたような声を出すキャロンさんとリアムさんに笑いながら、私は少し疲れた体で先を目指す。


「……なぁ、リリィ」


そんな中、すぐ後ろからカーネリアン君がやけに小さな声で囁く様に声をかけてきた。


なんだろうか。


秘密の話だろうか。と前を歩くキャロンさんとリアムさんに聞こえていない事を確認しながらカーネリアン君へ振り返る。


「どうしました?」


「いや、何か、リリィ。おかしくないか?」


「私ですか? いえ。おかしな事は無いと思いますが」


「そっか。なら気のせいか」


「あー。もしかしたらオークさん達とずっと一緒にいて、少し疲れてしまったのかもしれないですね」


「そっか。まぁ、みんな元気だったもんな」


「えぇ。本当に。素敵な方々でした」


「……リリィはさ」


「はい?」


「リリィはこの旅が終わったら、どうするんだ?」


「んー。そうですねぇ。多分お姉ちゃんと一緒に旅を続けると思いますよ。まだ行きたいところが色々とありますから」


「そうなんだ」


「カーネリアン君は、また草原に行って、オークさん達と過ごしますか?」


「っ! なんで、そう思ったんだ?」


「何となく、ですね。カーネリアン君が酷く楽しそうでしたから。飛行機を整備するのも、乗るのも」


「……うん。そうだな」


「なら。また私たちも草原に行きますよ。カーネリアン君に会いに」


「リリィ……!」


「だから、これで終わりじゃ無いです。また未来にいくらでも会えますよ」


「そうか。そうだな。うん! なら、今度は俺が造った飛行機でレースに出ようぜ! 二人が来るまでに作っておくからさ!」


「それは楽しみですね!」


私はカーネリアン君と笑い合いながら、道を歩き、そして大きな山の近くの村にたどり着いた。


ここが噂の村なのだろう。


礼のお姉ちゃんが癒したというオリヴィアという少女と、お姉ちゃんの事が好きになったエルフのレーニという女の子が居るという村。


その子たちに会って、私はどうするべきか。


「うーん。それは複雑な気持ちですね。信じたくないというか。考えたくないというか」


「ん? どうしたんだ? リリィ」


「いえ。お姉ちゃんに恋する方が二名も居るとなっては私はどういう立場で居れば良いかと」


「別に妹は妹だろう。何か変わるのか?」


「変わりますよ。そりゃあ。やっぱりお姉ちゃんとしても妹より恋人を優先するでしょうし。私の扱いが雑になりそうで」


「別にならんだろ。アメリアだぞ」


確かにと言おうとして、私はリアムさんを見たのだが、不意にその顔が凍り付いた。


何だろうかと視線を送れば、村の様子がおかしい。


木製の壁が破壊され、入り口も大きく地面が削られている。


遠くに見える建物も崩れているのだ。


私は無意識の内に走り出していた。


そして村の中を走り回るが、どうやら倒れている人は居ないらしい。


というよりもどこにも人が居ないのだ。


「これは……?」


「恐らくだが、何かに襲われて逃げ出したという所だろう。タイミングが悪かったな」


「では、この周辺を探せば?」


「居るかもしれんが、居ないかもしれん。とりあえずは手分けして探すぞ」


「はい!」


私はリアムさん達と別れ、村の中を歩き回った。


しかし、どこにも人の姿は見つからず、先に来ていたフィンさんやお姉ちゃんとも合流して、どうするか話し合う事になった。


それから、村の外れで野宿の準備を終え、私たちは火を囲みながら話をする。


「あれから近くを探してみたが、やはり何も無かったな」


「しかし、全員が全員襲撃者にやられたとも思えん。痕跡は一切無いわけだしな。となれば逃げたと考えるのが普通だ」


「逃げたか。うーむ。しかし草原からここに来るまで誰ともすれ違っていないし。逃げたのは山の方って事か?」


「いや、草原に行った可能性もあるはあるだろう。まぁ、その場合は多分もう見つからんがな」


「なら、山の方へ行ったと私は考えたいです」


「まぁそうだろうな。村の連中にしたって、遠い草原に行くよりは近くにある山のドワーフに助けを求めるだろうさ。アイツらは危機的状況を救うというごっこ遊びにハマってるしな。おあつらえ向きの状況だ」


「言われてみりゃ確かにそうだな。前回もそんな話をしてたっけか」


「あぁ。どの道、明日になったら山へ行って、ドワーフたちに話を聞いてみよう」




そして、翌日。


私たちは朝早くに村の近くを出て、山を登り始めた。


一歩、一歩と進んでゆく内に、斜面は急になっていくが、何とか足に力を入れて上を目指す。


「リリィ。大丈夫ですか?」


「……うん。大丈夫」


「無理はしないで下さい」


「大丈夫。大丈夫だから。少しだけ手を繋いでても、良いかな?」


「分かりました」


私はお姉ちゃんと手を繋ぎながら、山を登り、危険な道を進んで、洞窟の中にあるドワーフさんの集落へとたどり着くのだった。


「あのー! 誰か居ますかー!? あのー!!」


そして黒い鉱石で出来た扉を、お姉ちゃんが土の魔術で手を造り、激しく叩く。


それを何度か繰り返していると、怒りに震えた人が中から扉を開き、出てくるのだった。


「んだ! 朝っぱらからガンガンガンガン! うるせぇな!! また戦争でも始まったか!?」


「ごめんなさい。ドワーフさん。それに、お久しぶりです」


「お? おぉ。アメリア姫! アメリア姫じゃないか。そうか。無事だったんだな。火の精霊の奴が、お前が死んだなんて言うからよ。んなワケねぇと思ってたんだが。そうか。やっぱり精霊の勘違いだったんだな」


「えぇ。そうですね」


「おし。ちょっと待ってろ。他の連中も呼んでくるからな。大佐なんかあれからずっと酒浸りの生活でな。アメリア姫が生きてたと知ったら喜ぶぞ! じゃあその辺に座っててくれ!」


ドワーフさんがドタバタと中に向かって走っていくのを見送ってから、私たちはその辺と指さされた場所を見て、誰とはなしにその場の掃除を始めた。


酒瓶やら皿やらが転がっており、汚れているなんてモノじゃ無かったからだ。


そして、片づけ始めてすぐに来たドワーフさんに水場の場所を聞いて、食器を洗いに行くのだった。


結局私たちがその場所を片付け終わるまでドワーフさん達が集まる事はなく。


やってきたドワーフさん達もお姉ちゃんに抱き着いて感動した後は、頭が痛いと言ってテーブルに顔を伏せて頭を抑えているのだった。


そんなドワーフさん達を見て、私とお姉ちゃんは手分けして順番に二日酔いを癒していくのだった。

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