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第82話『……さよならをしましょう。ここで、お別れです。これ以上一緒に居ても、辛くなるだけだから』

地面に寝転がり、目を閉じて世界を感じていた私を見てか、後から追い付いてきたお姉ちゃん達が駆け寄って、心配そうに私の名を呼んだ。


私は起き上がって、ただ寝ころんでいただけだよと笑うと何故か怒られてしまった。


なんで……!


理不尽だ!


と思いつつ、多分何か心配させてしまったのだと私は反省した。


そして、お姉ちゃんたちと一緒に草原を走って、空を飛ぶオークさんがいるという場所へ向かう事にした。


オークさんと言えば、美食家で料理好きなのだとお姉ちゃんが言っていたのを私はよく覚えている。


そんなオークさんが空を飛ぶとは。


鳥を捕まえるためだろうか?


「という事は今日のお夕飯は鳥のお肉料理でしょうか」


と、私は何となくイメージをして誰に言うでもなく呟いた。


しかし、その言葉を聞いていたリアムさんが意地悪く笑いながら、私に言葉を返す。


「馬肉かもな。ユニコーンは美味だって聞くぜ」


「っ!!?」


「もう! リアムさん! ユニコーンさんを虐めないで下さい!」


「虐めちゃいねぇよ。ただ、な。少しばかり思う所があるだけさ。なぁ? お前はよく分かってるんだろ? ユニコーン」


「……っ」


「あぁ! また! もー。なんでリアムさんはすぐにユニコーンさんに意地悪するんですか? 大丈夫ですよ。怖くないですからね」


ユニコーンさんはビクビクと震えながら、リアムさんを怖がっている様だった。


何となく一緒に走っている時も、一番遠い位置で走ろうとしている所がある。


可哀想に。


「大丈夫。怖くないですからね。私がユニコーンさんを護りますからね」


「……っ!!」


私はユニコーンさんの体を撫でながらそう言うと、落ち着いたのか震えも少し収まった様だった。


怖がりなのだ。


あまり虐めたら可哀想だと思うのだけれど、リアムさんは元より、キャロンさんもフィンさんもたまにユニコーンさんに意地悪しているのを見た事がある。


それを見つけた時に、駄目ですよと言ったのだけれど、二人とも誤魔化していた。


なんだろう。


なんでそんなにユニコーンさんを目の敵にするのだろうか。


謎だ。


もしかしたら前の旅でユニコーンさんと何かあったのだろうか。


いや、でもそれはそれだし。この子は関係ないし。


うーん。やっぱりどれだけ考えても分からない。


そして分からないままにうーん。うーんと唸っていた私は不意にユニコーンさんが止まった事で振り落とされない様に強くしがみ付いた。


「な、なんでしょう? 何かありましたか?」


「っ」


「何か、ここにあるんですか?」


先を行くお姉ちゃんたちが異変を感じたのか戻ってきてくれて。


私は戻ってきたお姉ちゃんたちに異変を伝えた。


『なんでしょうか……この辺りには何もありませんが……』


「いや、姫様。向こう側は何かがおかしい。風景が歪んでいる」


「風景が歪む?」


ユニコーンさんが立ち止まった所から、進行方向に対して左手側を指さして、アシナーガヒコさんはスッと目を細めた。


何かがおかしいと言われ、私も目を細めてみるが、そのおかしさは何も分からない。


歪んでいると言われても、どこからどう見ても普通の景色にしか見えないのだ。


「いったい何が」


「あっ! そうだ! オークの家だよ! オークの家! ほら、外から見たら分からない様になってたじゃんか!」


「オークさんの家?」


私は言葉をただ繰り返しながらお姉ちゃんを見た。


そんな私の目線に気づき、お姉ちゃんは柔らかく笑ってから、何か懐かしいモノを思い出す様に目を閉じて語る。


『はい。オークさんの家です。彼らはこの草原で、空の果てを目指し、飛行機という魔導具を作っています。かつて空へ向かった人達の魂を受け継いで』


「そうなんだ」


空の果てを目指しているという言葉を聞いて、私はワクワクとした気持ちでオークさんの家があると思われる場所を見た。


そこには草原しかない様に見えるけど、実際にはオークさんの家があるという。


行ってみたい。


「じゃあ、行ってみようよ! お姉ちゃん!!」


『えぇ。そうですね。ただ、その場合は、アシナーガヒコさん達ともここでお別れしないと』


「え……そうなの?」


『はい。オークさんの家があるという事は、あの場所に強い突風が吹くという事になります。そうなれば、アシナーガヒコさん達が大きな怪我をしてしまう可能性がある。それは避けなくては』


「姫様……」


『申し訳ございません。アシナーガヒコさん。ここまでの旅はとても楽しかったのですが、もうそろそろお別れの様です』


「いえ。初めから分かっていた事ですから。お気になさらず。我らも再び姫様と共に歩めた事。生涯忘れませぬ」


『ありがとうございます。アシナーガヒコさん』


私はもうお別れの挨拶をしている二人を見て、動揺しながらユニコーンさんを見た。


ユニコーンさんも同様している様で、お姉ちゃんと同じ様に別れの言葉を交わしているケンタウルスさん達とリアムさん達を見ている。


「ユ、ユニコーンさん」


「っ!」


私の声に、ユニコーンさんがビクッと震えたのを感じた。


そして、ユニコーンさんは怯えたまま私から目を逸らす。


「お別れ……しないと、駄目ですか?」


『……リリィ』


「私、まだ……! もう少しだけ、お姉ちゃん。後もう少しだけ。駄目かな」


「リリィ」


縋りつく様に言葉を紡ぐ私を言葉で制したのはアシナーガヒコさんだった。


睨むでもなく、ただ見るでもなく、静かに私とユニコーンさんを見据えている。


「別れとは、終わりでは無い」


「……」


「無論、此度の別れで私と姫様の道はもはや二度と交わらぬだろう。これが今生の別れとなる。だが、それでも終わりでは無いのだ」


「意味が、分からないです」


「今はまだ分からずとも良い。いずれ知る時が来るだろう。何故なら、君は姫様の妹君だからだ。同じ種族でなくとも、生まれが違えども、君は間違いなく姫様の妹君。いずれ答えにたどり着く」


「……」


私は答えも見えず分からないまま、それでもアシナーガヒコさんの語る正しさは何となく理解する。


この先の未来がどうなるとしても、これが生涯の別れだとしても、ユニコーンさんを連れて行く事は、ただユニコーンさんを危険に晒すだけだという事は、分かる。


だから、ここで別れるべきなのだ。


しかし、私にはその言葉を発する事が出来ない。


「……」


故に、私は何も言わぬまま静かに地面へ降りた。


ユニコーンさんは降りようとする私を降ろさぬ様にと、体を動かしていたが、それでもそれを無視して地面に落ちながら、ユニコーンさんから落ちる様にして降りる。


痛い。


地面に落ちたのだ。


痛いに決まってる。


涙が流れるのだって、当然だ。


痛いのだから。


こんなにも、心が痛いのだから。


「……っ」


私の服を口で咥え、引っ張るユニコーンさんに私は決して振り向かず、首を振った。


そして、いつの間にかアシナーガヒコさんから降りて、私の傍に立っていたお姉ちゃんの手を握る。


「……さよならをしましょう。ここで、お別れです。これ以上一緒に居ても、辛くなるだけだから」


精一杯。歯を食いしばって、それでもちゃんと言う。


お姉ちゃんの手を離して、私は服を咥えているユニコーンさんの顔に触れて、笑った。


涙でぐしゃぐしゃの顔だろうけど、それでも、笑う。


「私、楽しかったです。だから、また、いつか、会いましょう」


ユニコーンさんの額に自分の額を付けて、目を閉じる。


いつしか、ユニコーンさんの口から私の服は離れていた……。

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