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第78話『大丈夫だよ! だって、今、この瞬間だけかもしれないけど、お姉ちゃんと一緒だもん! 何も怖くない!』

温かな光と共に現れたお姉ちゃんは私にニッコリと微笑むと、空の彼方で戦う二人の巨人を見た。


そして、また私たちに視線を戻し、笑う。


『困りましたね』


「……」


『うーん。本当に困りましたね』


「……?」


『本当に、本当に困ってしまいました』


「他に何か言う事は無いのか! アメリア!!」


『ひぇぇ。ご、ごめんなさい。リアムさん。まったく思いついてないです』


「なんか意味ありそうな感じで出てきたのに……」


「まったく。アメリアは」


「ホント、姉ちゃんは変わらないよな」


お姉ちゃんのポヤポヤとした発言に、リアムさんが怒り、フィンさんキャロンさん、カーネリアン君が笑う。


私もみんなと同じ様に笑っていた。


こんな状況でもお姉ちゃんは何も変わらない。


いつもポヤポヤしてて、でもそれが何だか安心出来て。


『でも、何も思いついてないですけど。このまま見ているだけというのもアレなので、やれるだけ、やってみましょうか』


そして、キリっとした顔でそんな事を言われてしまえば、やる気が湧き上がってしまうのだ。


私は地面から起き上がり、服を綺麗にしながらお姉ちゃんに笑う。


「そうだね。私も同意見だ」


『……リリィ。ありがとうございます』


「ううん。良いんだよ。だってお姉ちゃんと一緒なんだもん。何も怖くない」


私は魔力だけの存在であるお姉ちゃんの手を取って、額を合わせながら目を閉じた。


体温は感じない。


触れ合う手に何も感じない。


でも、ここに確かにお姉ちゃんは存在しているのだった。


「キ、キマシタワー!!!」


「うおっ! なんだ、お前ら! どっから現れた!?」


お姉ちゃんと触れ合っていた私は、不意に後ろから聞こえた叫び声に体を震わせた。


そしてお姉ちゃんのすぐ傍に逃げながらその声のした方を見る。


「陰魔さん?」


「あぁ。いかにも」


「お前たち、全員あの影の中に居たんじゃないのか?」


「いえ。私たちは姫様過激派ではありませんから。姫様だけを絶対の神として崇める事は出来ません。やはり姫様単推しには限界がありますからね。並び立つ存在は必要。カップリング妄想で無限にご飯が進みます」


「相変わらず何言ってんのか分かんねぇが、とにかくお前らは敵じゃない。そうだな?」


「えぇ。姫様の存在により、他者を排除するのを止めて丸くなった男リアムよ」


「余計な言葉を付けるな。まぁ良い。それで? お前らが協力してくれるとして、何が出来るんだ?」


「決まっています」


陰魔さんは自信満々にそう言い放つと、空に人差し指を向けた。


そして叫ぶ。


「我らは心を燃料とし、魂を力と変える者。過激派が破壊神の力を手に入れるのであれば、こちらは進化の力を与えましょう。そう! 三つの心を一つにして、世界を変えてしまう様な力を……!」


「お姉様、お姉様!」


「なんでしょうか? マーセさん」


「三つの心と言いますと、どなたを選ばれるのですか?」


「ふむ……。そうですねぇ。そうですわねぇ……そうですわね」


お姉様と言われた人は額に汗をびっしょりかきながら困っていた。


三人を選ぶことが出来ないという事だろうか。


なら。


「あの。三人で良いんですよね? であれば、お姉ちゃんとフィンさんとリアムさんで良いのでは? 一番強いですし」


「駄目ですわ!! それでは、タワーが、キマシタワーが維持できなくなってしまうっ!」


「え、と」


「最低でも、姫様、リリィさんは確定。百合を崩すわけにはいかない。百合を為す為にこの二人が必要なのは確定的に明らか。しかし、後一人、後一人が難しい。リアムさんかフィンさんを選んだ場合、何かお二人のハーレムっぽくなって、私の寿命がストレスでマッハですわ。なら、キャロンさんでは……いえ、これでは百合から仲良しグループもしくは修羅場への変遷! 最悪ネトラレなんて事態になったら私の怒りが有頂天ですわよ!? なら、カーネリアン君? 一番安全そうですが……おねショタは危険も多い。地雷の香りがしますわ。最悪は致命的に致命傷ですわね」


「お姉様。やはり三人は無謀だったのでは、ここはやはり元祖百合マシンこと、バスター……」


「いえ。あの作品百合じゃ無いですわよ。お姉様はコーチの事を愛してらっしゃいましたし。ノノリリさんもお相手の方が居ますからね。途中でお亡くなりになりますが」


「た、確かにそうでした。そうなると、やはりゴッドソード天叢雲……」


「マーセさん! 視野が狭くってよ!」


「はッ!」


「先に関係性を置いてから、そこに人を当てはめて妄想するとは、浅い! 浅いですわ! 既にある関係性に手を加えず、そこから光を見出すのです。シンクロを超えたシンクロにこそ、未来のサーキットが描かれる物ですわ!」


「お姉様! 私が甘かったです!!」


いつまでも終わりなく話が続いていく現状に、私はいい加減限界を感じていた。


何せ、二人が話している間にも、巨人たちの戦いは続いているのだ。


その衝撃で、私たちは何度も吹き飛ばされそうになっている。


何でも良いから早く何かしら結論を出して欲しいところだ。


「あの!! そろそろ限界なのですが!?」


「あら。申し訳ございません。では、穏健派の皆さん。過激派の連中を血祭りにあげますわよ!」


「「「うぉぉおおおお!!!」」」


「奴らはカップリング文化を知らぬ野蛮な者たち! 愚かにも世界中のカップリングを排し、単推しだけの世界を作ろうと企む……悪!! 悪には正義を、そして文化を知らぬ者たちには文化を叩き込んでやるだけですわ!! 文化を叩き込むのであれば、これ一択!! 行きますわよ! アメリリアタックですわ!!」


陰魔さん達が集まり私とお姉ちゃんを囲んだ状態で地面に手を付ける。


そして、合言葉の様な言葉を発した瞬間に、地面から何かが現れて、私たちを空へと連れていった。


でも、何かは私とお姉ちゃんしか乗せておらず、私は咄嗟に下へ落ちてゆく様に消えてゆく地面を見たが、どうにかリアムさん達は無事な様だった。


「リリィ。大丈夫?」


「うん。大丈夫だよ! だって、今、この瞬間だけかもしれないけど、お姉ちゃんと一緒だもん! 何も怖くない!」


私たちを空へと持ち上げていた地面は、影の巨人や大樹と同じくらいの大きさになると、大樹や影の巨人と同じ様に手と足が出来て、それでのしのしと歩き始めた。


正直振動が激しいから、まともに立っている事が出来ないけれど、それでもお姉ちゃんと手を繋ぎながら、前を見据える。


『見えているか! 姫様過激派! この光景が!』


『ま、まさか穏健派なのか。でもどうして、どうしてその様な姿を取っている! どうして!!』


『お前たちがたった一つの文化だけを神と崇める愚か者だからだ!』


『何ィ!?』


私たちが影の巨人近くまで来ると、大樹は横にさささと移動して、私たちに道を開けてくれた。


とは言っても、動かしているのは私達じゃ無いのだけれど。


私たちは見ているだけだ。


『良いか? 一つ大事な事を教えてやる!』


『や、止めろ……』


『文化という物において、この世界に優れている物も劣っている物もない!! 全ては等しく尊いものだ! 何故なら、どの様な物であっても、その者が見てきた世界、思考、感情によって違いが生まれるからだ! どんな物であろうと、誰かが生み出した時点で唯一無二!! 宝に等しい!!』


私たちを乗せた巨人は右手を大きく振りかぶる。


そしてそれを影の巨人に向けて……放った。


『見ろ、これが、新たな世界。新たな時代の始まり――!! アメリリだァァアアアアア!!』


『ぬわー!! ば、バカな……私の、私たちの理想が、夢が、消えていく……! これが新時代、かっ!』


こうして、影の巨人は討たれ、世界は再び平穏を取り戻した。

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