第74話『でも。そ、そんなの私、出来ないよ』
エルフさんとドライアードさんの争いから始まり、よく分からないまま水の精霊さんの力を借りる事が出来る様になった私は、リアムさん達と合流するべく野営の場所へ向かっていた。
手の甲にある聖人の証は、上位契約の印なのか。僅かに輝いている。
「リリィ。それ、何ともない?」
「はい。特に違和感は感じませんが」
「なら良いけど。何かあったらすぐに言いなさいよ」
「分かりました!」
私は二へへと笑い、両手を握りながら上げて大丈夫アピールをする。
しかし、キャロンさんの顔は雲ったままだった。
「心配過ぎだ。キャロン。姫様の事は別に精霊の力を集めたことが原因ではないだろう? まぁ切っ掛けではあっただろうが」
「それは、そうかもしれないけど。怖いのよ。ただ、怖いの」
「キャロンさん……」
私は隣を歩くキャロンさんの手を取って、笑う。
お姉ちゃんの様な微笑みで。
「大丈夫ですよ。キャロンさん。私は大丈夫です!」
「……何も、説得力が無いわ」
「えぇ!?」
「だから、だからね。私はアメリアを助け出すまで貴女の言葉を信じない。絶対に。だから、何かおかしいなと思ったら、すぐに相談して。何も無くても良いから。お願い」
「えと。分かりました」
お姉ちゃんスマイルが効かないなんて初めてだなと思いながら、私は小さく頷くのだった。
そして、そのキャロンさんの見せた心配は、キャロンさんだけでなく、リアムさん達も同じであった。
私の右手を見るだけで目を見開き、その手を取って大丈夫かと問う。
キャロンさんに言った時と同じ様にお姉ちゃんの様に微笑んで大丈夫だと言ったのだけれど、欠片も信用して貰えなかった。
悲しい……。
しかし、いつまでも心配はしていられないと、私たちは同行してくれたエルフの長さんやドライアードさんと一緒に、同人誌事件をリアムさん達に伝えるのだった。
「なるほどな。同人誌なる物を作ろうとした陰魔が森の大樹を切ろうとして、ドライアードとエルフが争いになった。か」
「はい」
「正直に言うと、酷くどうでも良い話ではあるな」
「えぇぇえええ!?」
「陰魔の里には嫌な思い出しか無いし、正直な所、まったく行きたくない」
「そんな! リアムさん!」
「しかしだ。お前にとっては大事な事なんだろう? リリィ」
「はい!」
「ならば、行こうか。陰魔の里へ」
「っ!! ありがとうございます!! リアムさん!」
「ただし。ただしだ。リリィ。何かあっても自分だけ犠牲になれば全員が助かる。なんて考えるんじゃないぞ。絶対にだ。良いな? 俺たちは万全の状態で、何があっても大丈夫なように準備をしてゆく。だから、絶対に一人で解決しようとするな。良いな?」
「えと。はい」
「よろしい。ならば陰魔の里へ……向かう前に、まずは麻酔毒対策の薬草を探しに行くぞ」
「そうだねぇ。今度は何もせずに終わりってのはゴメンだ」
「おー! 俺も探すぞ!」
それから私たちは十分に準備を重ねる為、リアムさん達やエルフさんやドライアードさんから話を聞いて、森の中で素材を集めるのだった。
とは言ってもだ。
植物を見極めるというのは非常に難しい。
「これですか?」
「違う。葉の形がさっき言ったのと全然違うだろう。こううにゅーんとして、にょにょーんとしているのが解毒薬に使える」
「いや、まったく分からないんですけど」
「エルフは伝え方が駄目です。解毒薬に使える植物は葉っぱがパリパリでパリっとして、パラっとしてるんです」
「同じくらい分からないです。ドライアードさん」
「えぇ!?」
なんでさっきので伝わると思ったんだろうか。
いや、というか二人とも分かっているのなら探すのを手伝って貰いたいんだけど。
何故かエルフさんは腕を組みながら私を見ているだけで、ドライアードさんは私の肩に乗って騒いでいるだけだ。
どういう姿か知っているのなら、一緒に探すのを手伝って欲しい……!
しかしお願いしている立場でそれを言うのもどうかと思うし、ここはやはり私が頑張るしか無いのだろう。
私は何とか二人の言っている事を理解しようとした。
しかし出来ない。
やはり出来ない。
頑張って出来るのであれば最初から出来ている。
頑張っても出来ないから現状なのだ。
「あの。大変申し訳ないのですが、もう少し具体的に教えていただけないでしょうか」
「具体的にか」
「難しいです。これ以上詳しくというのは」
私は二人に問うたが、答えは残念ながら否だ。
やはり難しいようであった。
私はしょうがないと諦めて、それらしい葉を探す事にした。
そして、今回の旅が終わったら、植物をまとめた資料を作ってもらおうと心に決めるのだった。
絵とかを付けて、誰が見ても分かりやすい様にしようと、私は手を握り締めた。
それから長い時間を掛けて植物を見つけ出した私は、それを持ってリアムさん達の所へ戻り、ドライアードさんとエルフさんの指示を受けながら薬へと変えてゆく。
「混ぜるときは力を入れすぎるなよ」
「カカッと混ぜながら、ググっとやるととても良いですよ」
「……なるほど」
相変わらず何を言っているか分からない。
言葉ってこんなにも相手に伝えるのが難しいんだなと、私は空を仰いだ。
何か泣きそうだ。
お姉ちゃん! 助けてー!!
「っ!」
「なっ! なんだ!?」
「この光は……!?」
私がお姉ちゃんに助けを求めた瞬間、奇跡が起こった!
私の目の前に、お姉ちゃんが現れ、私に向かってニコリと微笑んだのだ。
「お姉ちゃん!!」
「まさか、本当にアメリアか!?」
「……アメリアちゃん」
「おぉ! このお姿! まさに姫様!」
「ひめさまー!」
『リリィ。貴女の助けを呼ぶ声が確かに聞こえましたよ』
「お姉ちゃん……!」
『どうやら水の精霊が力を貸してくれているようですね。少しですが話も出来ます』
私は自分の右手を見てから、お姉ちゃんを再び見て、右手をそっと包んだ。
『麻酔毒に対する解毒薬の作成……は、正直お姉ちゃんよく分からないので、麻酔毒を回避する方法を授けましょう』
「そんなのあるの!?」
『はい。光の魔術のちょっとした応用という奴です』
「光の魔術……?」
『そう。火と水と風と土。四属性を極め、原初に到達した時に得た力です。魔王様の力と対を成す力』
「でも。そ、そんなの私、出来ないよ」
『いえ。リリィ。貴女はもう目覚めています。そう。人を癒す力。あれこそが光の魔術の一端なのです』
「……」
『リリィ。目を閉じて、心を集中させ、自分の中にある力に問いかけてください。答えはそこから見えてくる筈です』
「目を閉じて、心を集中」
お姉ちゃんの言葉を繰り返しながら、私は言われた通りに行動する。
自分の中にある光に麻酔毒から逃れる方法を問うのだ。
そして、その答えはすぐに帰ってきた。
「光よ。私を護って……っ! で、出来た! これで良いの!?」
『えぇ。それで大丈夫ですよ。リリィ』
「じゃ、じゃあ。これをリアムさん達にも使って……えい!」
お姉ちゃんから聞いた魔術をそのままリアムさん達に使うと、リアムさん達も微かな光に包まれて、私と同じ状態になった。
これで、毒とかが効かなくなったらしい。
凄い! やっぱりお姉ちゃんは凄いや!
「あ、でも……」
私は足元に置かれた先ほどまで調合しようとしていた薬草へ視線を送る。
「これ、どうしよう」
『……』
「お姉ちゃん」
『むむむ。どうやら力が足りないようです。私はまた眠りにつきますね』
「え!? お姉ちゃん!? 待って!!」
『あー。残念です。もっとリリィとお話したかったのに! 残念……ざんねーん……』
私が止める声も無視され、お姉ちゃんはそのまま初めから何も居なかったかの様に消えてしまった。
伸ばした手は空中で何も掴めないまま放置されている。
後ろからはキャロンさんの囁く様な声が私の耳に届いていたのだった。
「逃げたわね。アメリア」




