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第72話『こんな風に傷つけあって何が生まれるって言うんですか。何も生まれませんよ。そうでしょう?』

永遠に続くかと思われたエルフさんとドライアードさんの戦いは、キャロンさんが二種族の間に火の魔術を打ち込んだ事で、停戦となった。


そして、私たちは魔術の影響で汚れたエルフさんとドライアードさんと共に水浴びをしながら二種族の事情を聞く事になったのである。


「森の汚れ!」


「やかましいチビ!」


「あの。互いに争いは止めてください。良くないですよ。そういうの」


「「だってコイツ等が!」」


「何真似してるですか!」


「何を真似してるんだ!」


争いは止まったというのに、互いに睨み合いながらまだ争いを続けている。


どうも困ったものだ。


「いい加減争うのは止めなさいよ」


「そうですよ。こんな風に傷つけあって何が生まれるって言うんですか。何も生まれませんよ。そうでしょう?」


「それは」


「そうですけど」


「とりあえずお話を聞かせてください。ドライアードさんとエルフさんは何を争っていたのですか?」


「まったく分からん。ある日から突然ドライアードたちが私たちを見ると襲ってくる様になったんだ」


「そうなのですか? ドライアードさん」


「違います! 最初はエルフから仕掛けてきたのです!」


「はぁ!? そんな無駄な事する訳無いだろう! こちとらズッコンバッコンするのに忙しいんだぞ!」


「ずっこん?」


「あー。リリィ。ソイツらの言う事は気にしなくて良いから」


「え? はい。分かりました」


エルフさんの言葉を流しながら、私は何となくすれ違っている二種族に何があったのか考えつつ、話をさらに聞く事にした。


「えと。ドライアードさん。エルフさんが仕掛けてきたというのは具体的にどういう事なのでしょうか?」


「エルフの奴が、森の木を勝手に切ったのです! そんな必要もないのに! 木は私たちドライアードの住処だという事はエルフも知っている筈です!」


「そうなんですか? エルフさん」


「まぁ、ドライアードが大樹を住処にしてるのは知ってる。しかし、だからこそ我らは誰も大樹に触れん筈だがな。誰か最近大樹を切った奴は居るか?」


エルフの長さんは一緒にいたエルフの方々に聞くが、誰も頷く事は無かった。


嘘を吐いている様には見えない。


「嘘です! コイツ等は嘘を吐いているのです! 大樹がその大きさになるのに、どれだけの時間が掛かるかエルフは考えないのです! 七百年前だって! ホテル? というのを作るのに、ちょうど良いからと言って大樹を倒そうとしたです!」


「あれは酔った勢いでやらかしただけだし。ちゃんとお前らにも許可を取ろうとしただろう? 戦争になったが」


「大樹を切るなんて言われたら冷静でいられる訳無いです!!」


「相変わらず言葉の通じない連中だ」


エルフさんは困ったとでも言うように両手を上げて、溜息を吐く。


私はその様子に何かやっぱり誤解があると考えて、ドライアードさんに話をもっと聞くことにした。


「ドライアードさん」


「はい。なんでしょうか。人間さん!」


「前にエルフさんはホテルを造ろうとして大樹を倒そうとしたんですよね? 今回は何か理由を言っていなかったのですか?」


「理由? 誰か聞いてるですか?」


「うーん」


「どうでしたか」


「あ。私、聞いたですよ!」


「本当ですか? エルフさんはなんと言っていましたか?」


「はい! エルフはどーじんしなる物を作ると言っていました。その為に大量の紙が必要だと」


「どーじんし?」


私は首を傾げながら後ろへ振り向いた。


しかし、エルフさんもキャロンさんも誰も知らない。


そして当然だが、ドライアードさんも知らないようだった。


「そのどーじんしなる物の正体が分かれば、もしかしたら木を倒そうとした人が分かるかもしれません」


「なるほど。ではその犯人捜し。私たちも協力させて貰おうか」


「良いんですか!? エルフさん!」


「あぁ。知らん連中に罪を被せられそうになったんだ。許せるはずもない」


「ありがとうございます! では、ドライアードさん! どうか木を切ろうとした人が見つかるまで、エルフさんと争う事は止めて貰えませんか?」


「そんなの待てないです!! 私たちは気が短いんです!!」


「そこを何とか!」


「出来ない相談です!! こっちは命の危機だったんですよ!?」


どうにも折れてくれないドライアードさんにどうしようかと私が悩んでいると、エルフさんが助け舟を出してくれた。


「おい。ドライアード。少しくらい話を聞いてやっても良いだろう。この子はアメリア姫の妹さんだぞ」


「え!? そうなのですか!?」


「あぁ。間違いない。外見が酷く似ている。それほど近い場所に居たのだろう。ほれ、お前たちも触れれば分かるはずだ」


エルフさんの言葉にドライアードさん達が私に触れようと泳いできて、そして、触れた瞬間に私の中から光が溢れる。


それはお姉ちゃんにお願いして癒しの力を使う時の光によく似ていた。


「これは」


「あぁ……姫様」


「本当に姫様の妹さんだったんですね」


「でも、ひめさま……」


「かなしい。ひめさま」


「もう一度、お会いしたかった」


光が溢れた瞬間に、ドライアードさん達は皆、ポロポロと涙を流しながら水の上に浮かんで流れてゆく。


その様子にあわあわとしてしまうが、どうやら沈んだりする心配は無いようだった。


「そうか。姫様は空の向こうへ逝ってしまったのか。別れとは、苦しい物だな」


「エルフさん」


「あぁ。リリィと言ったか。すまぬ。涙など、生まれてからずっと流した事は無かったが、そうか。止まらぬ物だな。苦しさも、消えぬ」


エルフの長さんも、そして近くにいたエルフさんも皆、涙を流しながら空を見たり、ドライアードさんの様に水に流れて行ったりと様々だった。


ただ、この場に居る人達が、皆お姉ちゃんが居なくなった事を悲しんでいるという事だけは確かだった。


「我らエルフは永遠の存在だ。故に我らは喪失の痛みを知らぬ。唯一知る事が出来るのは運命の相手を失ってしまった時だけだ。しかし、その痛みは強すぎて、我らは耐えられずに消えてしまう。ならば、消える事も出来ず、苦しみも抑えられないこの現状は、かつて神の世界にあったという地獄なる世界と同じだな」


「エルフさん……」


「しかし、リリィ。この事を伝えてくれた事に感謝するぞ。何も知らずにいれば、哀しみも無かったかもしれんが、知る事で、弔う事が出来る。そうだな。ドライアード」


「……そうですね」


「今だけは争いを止め、天に祈ろう」


「永き時を我らと共に生きた、魔法使いの姫に祝福を」


エルフさんはそれぞれ手を繋ぎ合いながら、大きな円を造り、それぞれのエルフさんの肩にドライアードさんが乗る。


そして、彼らは中心に向かって手を伸ばしながら、何かの言葉を呟き始めた。


何となく、それは祈りの言葉なのでは無いだろうかと私は考える。


天に還ってしまったお姉ちゃんへの祈りの言葉だ。


「キャロンさん、あれ」


「すごいわね」


エルフさんとドライアードさんは力を合わせて、湖の中央に大きな大きな木を生やした。


私などは、枝の一本程度にしかなれない大きな木だ。


エルフさんとドライアードさんの力で成長し続ける木は、やがて天まで伸びて、柔らかい陽だまりを湖に作り出す。


温かい空気の中に、穏やかな風が吹いて、心地よい空間が広がっていた。


そう。それは、まるでお姉ちゃんの様で。


これがエルフさんとドライアードさんから見たお姉ちゃんなんだと思って、何だか少し涙が流れてしまうのだった。

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