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第71話『はい。そうですね。私が聖女アメリアと呼ばれる事で、世界が平和になるのなら』

聖都での争いが終わり、大教会の大改革が行われる様になったという話を、私は先の争いで怪我した人を癒しながら聞いた。


フェイムークと親である大司教は裁かれ、次の大司教には民衆に慕われている人がなるらしい。


そして私は、その次なる大司教という人に困ったお願いをされていた。


「どうか、お願いいたします」


「いえ、その頭を上げてください」


「聖女様が正式にお受けくだされば、この頭を上に上げましょう」


「でも……」


「諦めろアメリア。コイツは、口では下手に出ているが、自分の意見は絶対に曲げん男だ」


「リアム君。援護するならばもっと良い言い方があるだろう?」


「正当な評価だ。受け入れろ。それにな。コイツに頼むなら、理屈を並べて頼む方が良いぞ。頭は動く方だ」


「そうなのか。聞いていた話とは違うな。もっと感情的な方かと思ったのだが、ふむ。そういう事であれば攻め方を変えよう」


ガスパルさんはリアムさんの言葉に頷きながら姿勢を正した。


近くにある椅子に座りながら、私を真っすぐに見据える。


「これからの時代。世界は大きくその姿を変えてゆくだろう。かつて闇の時代がそうであった様に、大きな都市は国へと変わり、人々の生活圏は広がっていく。かつてよりも聖剣の輝きが増している事がその証拠だ。闇によって止められていた発展が始まろうとしている」


「はい」


「この聖都も聖国と名を変え、その在り方を変えていく事になるだろう。古き悪習は捨て、新たな未来へ進む必要がある。しかし、その為には分かりやすい象徴が必要なのだ」


「それが聖女ですか」


「そうだ。世界を救った聖女アメリア。君の噂は世界中に広まっているからね。それを利用させてくれという厚かましいお願いさ」


「そう言う事でしたら。分かりました。どうぞご自由にお使いください」


「……良いのか?」


「はい。そうですね。私が聖女アメリアと呼ばれる事で、世界が平和になるのなら。それをするべきだと思います。お姉ちゃんもきっと同じ事を思うでしょう」


「そうか。分かった」


「うむ。助かる。ではその様に進めさせてもらうよ。とは言っても準備があるからな。また全てが終わってから聖都に来てくれ」


「はい」


私は大きく頷いて、リアムさん達と共に聖都を後にした。


お姉ちゃんには本当に何の相談もせず決めちゃったけど、お姉ちゃんが勝手に消えちゃったのが悪いし、これは仕方のない事だろう。


でも、お姉ちゃん一人じゃ大変なら、私もお姉ちゃんと一緒に働こうかな。なんて。


まだまだ先の未来を想って笑うのだった。




こうして聖都での最後の仕事も終わり、私たちは再び旅に出る事にしたのだが。


やはりというか一つの問題が起こった。


「水浴びしたいわ」


聖都から出て数日。キャロンさんが思い立った様に言ったのが、私も同意見である。


正直水浴びできない生活は最悪以外の何物でもない。


ご飯を食べられない事よりも最悪だ。


「あー。分かった分かった。行ってこい」


「あら。今回は聞きわけが良いのね」


「お前と言い争っても無駄だと思ってるだけだ」


「そう。何でもいいけど」


私は既に聖都で聞いていた湖を目指して進もうとしたのだけれど、キャロンさんが私の手を引っ張りながら別方向に歩き始めてしまった


「えと? キャロンさん?」


「リリィ。湖まで少し離れているけれど、良いかしら」


「はい。それは構いませんが。この辺りにも湖があるって聖都の人が」


「駄目よ。リリィ。この辺りはね。リリィの教育上良くない連中が湖を使ってるから、近づかない方が良いの」


「そうなんですか?」


「えぇ。本当に。絶対に近づいちゃ駄目よ」


「えと。分かりました」


怖い顔でそう言うキャロンさんに、私は頷いて、そのやや離れているという湖へやってきた。


やってきたのだが……どうにもキャロンさんの様子がおかしい。


「チッ! わざわざ離れた場所に来たって言うのに! なんでアイツらがいるのよ!!」


「アイツら?」


「この世界の害悪。エロフ共よ」


「エロフ。ですか」


私は初めて聞いた名前だなと思いながら、草むらに隠れて水浴びをする人たちを見る。


長い耳に、白い肌。


輝く様な金色の髪と、酷く整った容姿。


いや、エルフじゃない?


「あの、キャロンさん」


「なに? リリィ」


「あの方々ってエルフさんじゃないですか? 森の民とも言われていて、深い森の奥に住むと言われる種族の」


「確かにそうとも言われているわね。でも、あれはエロフ。良い? 覚えておきなさい。リリィ。湖にいるエルフは全てエルフではなく、エロフよ」


キッパリとそう言い放つキャロンさんに私はそうなのかぁ。と頷きながらエロフの人たちを見た。


楽しそうに水浴びをする姿は、とても気持ちよさそうである。


「なるほど。では、そろそろ私たちもお邪魔させてもらいましょうか。湖は広いですし。少しくらいなら」


「駄目よ! やっぱりさっきの湖にしましょう。もしかしたら向こうなら誰も居ないかもしれないわ」


「えぇ!? でも、折角ここまで来ましたのに」


「良いから! ここよりずっと良いから!」


「大丈夫ですって! エルフの人たちは森を汚そうとする者以外には紳士的だとお姉ちゃんも言ってましたから!」


「アメリアの知ってるエルフとアイツらは違うの! 良いから向こうへ行くわよ!」


私の手を引っ張るキャロンさんと、すぐにでも水浴びしたい私が、それぞれ体重を掛けながら思い思いの方向へと向かおうとするが、私の方が力が弱く、私はそのまま引っ張られてしまう。


あぁー! 目の前に湖があるのに!!


私は抵抗も虚しく、湖から離れて行ってしまうのだった。


「もし。そこの御方」


「っ!? なに!?」


しかし、キャロンさんはどこからか聞こえてきた声に足を止めると、私を背中に庇って、魔術を展開する。


「私です」


そして、警戒するキャロンさんの前に現れたのは薄緑色の服を着た手のひらサイズの小人であった。


とても可愛らしい見た目をしている。


「あなたは」


「私はドライアード。樹木の精霊です」


「へぇ。精霊なんだ。それで? 精霊がアタシたちに何の用?」


「実は、助けて欲しいのです!」


「助け、ですか?」


私はキャロンさんの背中から前に出て、小さな精霊さんの前にしゃがみ込んだ。


そして、精霊さんの話に耳を傾けた。


「はい。人間さん。私たちを助けてください。邪悪な侵略者から」


「邪悪な?」


「侵略者?」


それは一体誰なの? と聞こうとした瞬間、私たちの背後から声が掛かった。


「いつまで待っても来ないと思ったら、お前が邪魔をしていたのか! ドライアード!」


「エルフ!! 森の侵略者め! 覚悟!」


そして、背後から聞こえた声の主と、目の前で涙を流しながら訴えていたドライアードが空中でぶつかり合い、火花を散らす。


「っ!?」


「リリィ! 離れて!!」


「森を汚す、呪われた種族め!」


「森の守護者面して、言いたい放題言ってくれるじゃないか!」


ドライアードとエルフの衝突は激しい突風を巻き起こし、私はキャロンさんに抱きしめられたまま湖の方へと飛んでいった。


そして、その勢いのまま水の中に頭から突っ込んでしまう。


「っ!」


「リリィ! 大丈夫!? リリィ!」


「は、はい」


水に浮かびながら、先ほどまで居た場所を見ると、幾多のエルフさんとドライアードさんが集まり、互いに魔力を纏いながら殴り合っている様だった。


「いったい何なんですか……」

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