第70話『この世界の果てまで光を届け、空の果てから大切な人を助け出す! それが私のやりたい事です!』
夢の世界から目覚めた私は、眠る前と同じ薄暗い部屋のベッドの上で目覚めた。
しかし、眠る前とは違い、何だか妙に明るい。
外から光が漏れているのだ。
「……外から光?」
私は自分の頭で考えていた事をそのまま口に出して疑問を明確にした。
そしてその疑問のままに光が差す方を見てみれば、何やら壁が壊れている様に見える。
「リリィ! 無事か!?」
「リアムさん! 助けに来てくれたんですか!?」
「当たり前だ。まったく。大人しくしていればいい物を。無茶をしたな」
「……ごめんなさい」
「いや、良い。カーネリアンから話は聞いた。苦しんでいる奴を助けたかったんだろ? なら気にするな。お前のその想いが誰かに利用されても、俺が助けてやる」
「リアムさん……!」
「おいおい。リアム。一人で先に行って、自分ばっかり格好つけるなよ」
「そういう所ばっかり抜け目ないのよね。この男は」
「リリィの危機を伝えたのは俺だぞ!」
「分かった分かった。お前らも来たんなら、さっさと脱出するぞ。こんな所に居てもしょうがない」
「フィンさん。キャロンさん。カーネリアン君! ありがとうございます!」
「良いって事よ」
「そうそう。アタシら仲間でしょ」
「~~! はい!!」
私は皆さんの言葉に大きく頷き、脱出の準備をしようとした。
しかし、部屋から出ようと崩れた壁から外へ一歩踏み出した瞬間に、部屋の扉が開き、フェイムークと沢山の人たちが部屋になだれ込んでくるのだった。
「こ、これは、どういうつもりだ! リアム!!」
「どうもこうもねぇよ。俺の仲間に手を出して、この程度で済んで逆に感謝して欲しいくらいだ」
「ふざけるな!! 折角聖都に住む権利を与えてやろうというのに、それを!」
「ハッ! くだらねぇ! こんな腐った場所に住みたい奴なんかいねぇよ!! お前たちの玩具になって、怯えて生きていくなんてごめんだ!」
「貴様!!」
「それにな。俺たちには、やる事がある。そして行くところもな。そうだろ? 『アメリア』」
「はい!」
私はリアムさんに呼ばれ大きく頷いた。
そして、腕を広げるリアムさんに飛び込んで、部屋から離れつつ、大きな声を出す。
「やりたい事だと!? 待て! 聖女。私の聖女!」
「そうです! この世界の果てまで光を届け、空の果てから大切な人を助け出す! それが私のやりたい事です!」
「待て!!」
リアムさんが大きくジャンプして、大教会の屋根に飛び移り、そのまま屋根を伝って聖都の外へと向かう。
屋根の上から聖都を見ると、色々な場所で煙が上がっており、何やら怒声の様なものも響いている様だった。
「あれは……?」
「あぁ。都市の連中さ。お前が店主を庇って大教会へ連れ去られたってんで、みんな怒ってるのさ」
「……止められないでしょうか?」
「出来なくはないが、どの道奴らは止まらんぞ。長く苦しめられてきた怒りも、行動する理由の一つだからな」
「それでも。私を理由にして戦いを始めている人が居るのであれば、その人達は止めたいです」
「分かった」
リアムさんは私の我儘を聞いて、大教会の正面に降りてくれた。
争いのまさに中心にだ。
「聞け!! 怒れる民衆!! 聖女アメリアは俺が救い出した!!」
リアムさんの声に戦っていた人たちは皆、戦いを止め、私たちをジッと見据える。
そして、私はリアムさんに抱きかかえられたまま、視線を向ける人たちに言葉を向けるのだった。
「あの! 皆さん! 私は皆さんが傷つく姿は見たくありません! ですから、私を理由にして争いを起こしている人はもう戦わなくて良いのです! 私はこれからまた旅に出ます。病や怪我で苦しんでいる人を一人でも多く癒す為に。だから……!」
私の声を聞いて、何人かの人は武器を手放してくれた。
しかし、それでも武器を手放すことなく大教会を睨みつけている人はいた。
おそらくはこの人たちが、リアムさんの言っていた私以外に戦う理由を持つ人たちなのだろう。
そして、リアムさんは私を地面に下ろすと、ならばと言って腰の剣を抜き、近くにいた教会側の騎士さんから剣を奪って、大教会の正面にある扉にその剣を突き刺した。
「キャロン!」
「あぁ、準備は出来てるよ! 火と水の複合魔術!! ふっとびな!!」
リアムさんの突き刺した剣にキャロンさんの魔術がぶつかり、それが大爆発を起こす。
もくもくと煙が上がり、それが晴れた頃には大きな扉はすっかり崩れ落ちていて、瓦礫が周囲に飛び散っていた。
「道は開いた!! 怒りに震える民衆よ!! 今こそ、悪しき者たちからお前たちの聖都を取り戻せ!!」
「「「うぉぉおおおおおおお!!!」」」
私はリアムさんに抱えられ、近くの高台へ移動し、そのまま高台を伝って、民衆の後ろへと降り立った。
そして、私の姿を見て駆け寄ってくる人たちの傷を癒してゆく。
大教会へと向かった人たちは既に大教会の中へ入っているらしく、中は大変な事になっているだろう。
「……」
「そう心配そうな顔をするな。彼らの狙いはあくまで大司教たちだ。民衆を苦しめず、世界の平和を祈っていた者たちには手を出さんさ」
私はそれでも、なるべく多くの人が傷つかぬ様にと両手を合わせて祈る。
その行為に意味は無いだろうが、それでもだ。
「やれやれ。厄介な事をしてくれたね。リアム」
「お前か。ネイサン。何の用だ」
「そう邪見にしないでくれよ。僕はただ謝罪をしに来ただけなんだからさ」
「謝罪だと?」
「そう。謝罪だ」
ネイサンさんは私の前に来ると、姿勢を正して真っすぐに頭を下げた、
深く、深く頭を下げている。
なんだろうか? 謝られる様な記憶など私には無い。
しかし、ネイサンさんは謝罪しながら、涙も流している様で、地面が濡れている。
「え? あの」
「君の!」
「……」
「君のお姉さんに、僕はとても失礼な事をした。謝っても許されぬ事をした」
「……っ、お姉、ちゃん?」
「そうだ。名は言えぬ。言えぬが。確かに君の姉であった人だ。血は繋がっていなくとも、確かに君の姉であった人だ」
「そうですか」
「彼女の命が消えた時から、ずっと考えていた。他に方法は無かったのかと、僕達が彼女を受け入れて、全面的に協力していれば、結末は変わったのではないかと。考えずにはいられない。しかし、答えは出なかった」
「……」
「もはやこの命に意味はない。君に彼女が授けられた命の花だけを渡し、この命で君に償いたい」
私はネイサンさんからガラスの花を受け取り、それを抱きしめる。
暗く何の光も放っていないそのガラスの花は、おそらくお姉ちゃんの物なのだろう。
触れるだけでお姉ちゃんの優しい気持ちが伝わってくる。
だから、私はネイサンさんに言わなければいけない。
お姉ちゃんが望む事を。
「ネイサンさん」
「なんだろうか」
「お姉ちゃんは貴女を恨んでいましたか?」
「いや」
「では憎んでいましたか?」
「……そんな事する様な人では無かった」
「ならば、それが答えです。私の答え」
私は深く息を吐いて、ネイサンさんを見つめた。
「お姉ちゃんは人の幸せを願う人でした。だからその命をかけたのも、大切な人が生きているこの世界を護りたかった。ただそれだけなのでしょう」
私はガラスの花を握りながらネイサンさんの手を取った。
そして最近は自然と出てくる様になったお姉ちゃんの笑顔を浮かべる。
「生きてください。ネイサンさん。お姉ちゃんが望んだ様に」
再び涙を溢れさせるネイサンさんに言葉を続ける。
「幸せになって下さい。それがお姉ちゃんと私の望みです」




