第7話『たのもー!』
フィンさんの衝撃的な発言を聞いてすぐ、リアムさんは私をお姉さんから奪い取ると、そのまま酒場を出て外に向かう。
そして、ズンズンと町の外に向かって進むのだった。
「リ、リアムさん!?」
「あの男は連れていくに値しない。居るだけ害悪だ。他を当たる」
「でも!」
「なんだ。俺の決定に何か文句があるのか? それともあの男の方が良いのか!? 闇の力を封印なんて危険な旅をするより、安全な場所にいた方が良いからな!!」
「いえ、それは無いですけど。この町に居てもこの町の人しか癒せませんし。世界だって救えませんから」
「……」
私の反応に、何故かリアムさんは呆れたような顔をして、そして大きく溜息を吐いた。
「そういえばお前はそういう人間だったな」
「え? そうですね」
「はぁ。なら余計にだ。俺とお前が居れば良い。どうせ聖人を集めたって全員が全員役に立つって訳じゃ無いんだ。二人か三人で封印したなんて例はいくらでもある。あの男は捨てていこう」
「あの! 我儘を言っても良いですか?」
「……駄目だと言ったら諦めるのか?」
「頑張ってリアムさんを説得します」
「だろうな。なら聞くだけ無駄だ。言え」
「フィンさんを説得しましょう!」
「……一応聞くが、何故だ」
「フィンさんも居た方がより確実だと思ったからです! 闇の力の封印は絶対に失敗出来ませんから」
「まぁ確かにな。言わんとする事は分かる。だが、どうやって説得する?」
「正面から、お願いします!」
「無駄だと思うがな。まぁ、とりあえずやってみろ」
「はい!」
という訳で、私とリアムさんは再び酒場の中に入る事にした。
「たのもー!」
「ん? なんだ。アメリアちゃんじゃないか。もう戻ってこないかと思ったぜ。で? やっぱり俺の傍が良いのか?」
「いえ! まったく!」
「そ、そうか」
「しかし、フィンさんの力が必要です! 一緒に闇の力を封印しに行きましょう!」
「断る」
「はい。って、えぇえぇえええ!?」
「驚きすぎだろう。そんなに驚く事か?」
「いえ、だって、え?」
「大分驚いてるな。まぁ、君みたいな『いい子』には分からんかもしれんが、俺は世界を救うとか、そういう事に興味ねぇんだよ」
「……」
「英雄とか聖人なんてのにも興味ねぇしな。やりたい奴にやらせておけば良いって感じだ。俺がやらなくても誰かがやるだろうしな」
「では、フィンさんの大切な人は誰が守るんですか?」
「ん? なんて?」
「一緒にいるお姉さんたちの事は大切なんですよね? その人たちは誰が守るんですか?」
「そりゃ、俺が守るが」
「でも、闇の力を封印しないと、みんな大変な事になりますよ。もし闇の力が暴走したら、また神話で語られている暗闇の世界に逆戻りですから」
「確かに、そりゃそうだが」
「そうならない為にも、フィンさんの力が必要なんです」
「しかし、あの男が居るだろう! 君だっている」
「でも、私たちが闇の力の封印に失敗したら、おしまいですよ。誰も助からない」
「……」
「だから私たちが失敗して死んでしまった時、フィンさんに代わりをお願いしたいんです」
「君は、自分が何を言っているのか理解しているのか?」
「え? はい。理解していますが」
「本当に理解しているのか? 死ぬかもしれないんだぞ。闇の力の封印は危険な旅だ。それをちゃんと理解しているのか!?」
「しています」
「いいや! してないね!! 分かってない。子供の遊びじゃ無いんだ。命がけなんだぞ!」
「だから、私は分かってます! 死ぬという事の意味も。失敗した時、どうなるかも、だから必死になっているんです」
「……アメリアちゃん」
「私には妹が居ます。お婆ちゃんが居ます。二人とも大切な人です。私が何もせず逃げ出せば二人は命を落とす、苦しみの中で明日を迎える事が出来なくなる。それが私は嫌なんです! だから私は、どんなに苦しい旅であっても諦めません。この目に映る全てを救って、世界を守ります!!」
「そんな事」
「フィン」
私の言葉にフィンさんが一歩後ずさり、もう少しだと意気込んでいた私の後ろから柔らかい手が伸びて来て、私の肩を掴んだ。
そして、フィンさんの名を呼ぶ。
「リーラ! お前、大丈夫か!?」
「えぇ。とてもよくなったわ。この子のお陰でね」
「アメリアちゃんの、おかげ?」
「そう。この子は道端で蹲っている私を気にして癒しの力を使ってくれたのよ」
「……そうか」
「ねぇ、フィン。私たちは貴方に守られてばかりの弱い女じゃないわ。自分の身くらい自分で守れる。でも、この世界を救えるのは貴方しかいない。そうでしょう?」
「しかし!」
「それにね。私、心配なのよ。この猪突猛進な女の子が、先の危険も考えないで酷い目にあうんじゃないかって不安なの。ずっと抱えていた苦しみから、解放してくれた子が」
「っ! お前、傷が」
「えぇ。消してくれた。多分私の中に染みついた嫌な記憶と一緒にね」
「そうか」
なんだろうか。よく分からない話が展開されている。
しかし、この話が終わったらまた説得をしないといけない!
そう考えてどう説得するべきか頭で考えていた。
だが、そんな私の考えとは裏腹に事態はよく分からないまま良い方向へと転び始めた。
「……アメリアちゃん」
「はい! なんでしょうか!」
「例えば、君が命を掛ければ世界を救えるとして、君はどうする?」
「無論、救います!!」
「……なるほどな」
「はい!」
「なら、分かった。よし。俺も君と一緒に行こう」
「え!? 本当ですか!?」
「あぁ。ただし、一つ約束してくれ」
「はい。なんでしょうか!?」
正直約束を守るのは苦手なのだが、ここはとりあえず頷いておく。
駄目な時は謝れば良いし。
「絶対に危ない事はしない事。何かしたい時は、必ず俺かあのいけ好かない男に相談する事。良いかい?」
「はい! 大丈夫です!!」
多分!!
「よし。なら俺も誓おう。この旅で君をあらゆる脅威から護ってみせると! 良いかな。アメリアちゃん」
「はい!」
「決まりだ。じゃあ俺も一緒に行こう。闇の力の封印とやらにな」
「ありがとうございます!!」
「ま。大船に乗ったつもりでいろよ。この俺が居れば闇の力だって余裕だぜ」
「心強いです! これからよろしくお願いいたします!」
こうしてフィンさんも仲間に加わり、私たちの旅はさらに先へと進む事になるのだった。
多くの人に見送られながら町を出たフィンさんは、町を出てすぐに私の左手を握って、歩き出した。
しかし、それと同時に何故か右手をリアムさんも握り、それぞれが別々のペースで歩き始める。
「え? あえ? ちょっと、あの!? わ、わ、転んじゃいます!」
「おい。危ないだろ。離せ」
「お前が離せば良いだろう? アメリアちゃんは俺が守るからさ」
「ふざけるな。お前に何が出来る。さっさとその汚い手を離せ」
「ハッ! 俺より弱いくせに吠えるなよ。女の子に歩幅も合わせられない奴がよ」
「この旅はデートじゃねぇんだ。男だとか女だとかどうでも良いんだよ。くだらない事を言ってないで、さっさとその手を離せ」
「やだやだ独占欲が強い男は。アメリアちゃんも可哀想に。こんな小うるさい男と一緒に旅をしていたなんて、同情するぜ」
「おい。あまり調子に乗るなよ? 別に俺はお前が居なくても良いんだ。それともここで行方不明になりたいか?」
「どっちが行方不明になるか、試してみるか?」
「あー!! もう!! 二人とも喧嘩は辞めて下さい! はい。二人とも手を離してください。私は一人でも歩けますから」
私は二人から手を振りほどいて、両手を自由にする。
そして、小走りに先の道で休んでいる人の所へ向かうのだった。
「あの。大丈夫ですか?」
「アメリアぁああああ!!」




