第64話『そうですね! そういう事なら私はキャロンさんとお姉ちゃんと三人で旅をしますよ!!』
キャロンさんが旅の準備をしている間に、私たちは再び酒場へ降りて来て、キャロンさんと一緒に旅をすると店主さんに告げた。
「そうか! そうか!! それは良かった。じゃあ今度はゆっくりと世界を見てくると良い」
「そうですね。私もそれが良いと思います」
「よぉーし! そうと決まれば今日は宴会だ!! 飲んでいけ!」
店主さんは目尻に涙を浮かばせながらも、勢いよくテーブルを叩き、ワハハと笑う。
そしてあれよあれよという間に準備は進んでゆき、気が付けば大勢の人に囲まれて宴会が始まっていたのである。
しかし、町の入り口であった様な事にはならず、私はリアムさん達と一緒に端っこの席に座りながらチビチビ果汁水を飲み、お店の中央で大勢の人に囲まれているキャロンさんを見ていた。
「世界平和に!!」
「キャロンちゃんの旅立ちに!!」
「「「「カンパーイ!!!」」」」
嬉しそうに、楽しそうに騒ぐ人たちに囲まれて、キャロンさんも嬉しそうに微笑んでいた。
先ほどまで上で泣いて怒っていた姿とは大違いだ。
多分、本来のキャロンさんはこんな姿だったのではないか。
しかし、そうなると気になるのは、多くの人に囲まれて、魅力的な笑顔を浮かべているキャロンさんと一緒に旅をしていて、男性が何も感じない筈がない。という所である。
「……実際のところ」
「ん? どうしたの? リリィちゃん」
私たちの周りには人が居ない為、フィンさんは私の事を本当の名前で呼んでくれる。
ここまで旅をしている間も、フィンさんはずっと私の事を気遣ってくれた。
そしてそれは、私がお姉ちゃんの妹だから。という事ではなく、彼がそういう事を自然と出来る人間だからだ。
彼と出会った町で、彼が町を出るときに多くの女性が悲しんでいたのを、私は見た!
モテる人だったのだろう。
モテる人だったに違いない。
だとするならば、フィンさんにキャロンさんが惚れてもおかしくないし。
フィンさんだって魅力的なキャロンさんに惹かれるのもおかしくはないだろう。
そう思い、私はフィンさんに聞く事にした。
「フィンさんはこの旅が終わったらキャロンさんの事をどうするつもりなのですか?」
「キャロンをどうする……? それはどういう事だい?」
「そのままの意味です! フィンさんはキャロンさんの事を魅力的だと感じているでしょう?」
「……」
フィンさんは何処かポカーンとした顔をしながら私の顔をマジマジと見た。
それはもう穴が開いてしまうと思う程に。
「どうしたんですか?」
「いや、何がどうなってそういう結論に至ったのかが気になって」
「だって、キャロンさんって素敵な女性じゃないですか」
「まぁ、確かにそういう風に見える時もあるよね」
「魅力的な女性じゃないですか」
「あー。うん。そうだね。リリィちゃんの言う通りだ」
「はい。それに、フィンさんも素敵な男性ですよね?」
「おい。フィン!」
「待て待て。俺は何も言ってないだろう! そんなに殺気をぶつけないでくれ! リアム!」
「お前、アメリアだけじゃ飽き足らず、その妹まで手を出すつもりか!」
「そんなつもりはないって! いや、そもそもアメリアちゃんにも手は出してないからな!?」
「まさか、そんな……! お姉ちゃんも狙ってた……!?」
「狙ってない! 狙って無いからね!! 勘違いしないでリリィちゃん!!」
「あ。でも姉ちゃんたちが水浴びに行ってた時、フィン兄ちゃんが水浴びしてる方に行こうって言ってたことがあったような?」
「うぉおおおおい!! カーネリアン!! なんて事を言うんだ! お前は! そんな誤解を招く様な言い方をするんじゃない!!」
「言い方って事は、そう言った事は事実なんですか? フィンさん」
「いや、それは確かに言ったんだけど、違うんだよ。その時は大きな悲鳴と、凄い水柱が立ったから、何かあったんじゃないかって心配になってだな」
「おい。リリィ。気を付けろ。フィンの奴はアメリアに数年経ったら、俺の女にしてやる的な事を言っていたからな」
「えぇ……」
「タイミング!! 明らかに悪意があるだろ!! リアム!!」
「自分が言った事だ。自分で責任を取れ。フィン」
私はフィンさんに向けていた目を、尊敬から汚らわしい生き物を見るものに切り替えた。
この人はお姉ちゃんに近づけちゃいけない人だ。
「そもそもだな。そんな事を言うなら、リアム! お前だってアメリアちゃんをロープで縛って歩かせていただろう! あれのせいで道行く人に人攫いだなんだと勘違いされる事になったんだぞ!!」
「おい! 言い方には気を付けろ。そんな酷い扱いをした覚えはない」
「ハン! どうだか!」
「まぁ、そうだね。俺はあの時、姉ちゃんを助けに入ったけど、姉ちゃんが攫われていく人に見えたよ」
なんて事だ。
リアムさんもとんでもない人であった。
お姉ちゃんをロープで縛って、歩かせる!?
なんという事だろう。人間のやる事じゃない。
「おい! カーネリアン。お前だってアメリアを連れて行った後、家に閉じ込めていた癖に偉そうに言うんじゃない」
「そうだぞ。三日間も二人きりとは、とんだ悪ガキだな。カーネリアン」
「なっ! 俺は何も変な事なんてしてないぞ!! ただ、アメリア姉ちゃんに姉ちゃんになって貰ってただけで!」
「どうだかな」
「まぁ、真実は分からないし。アメリアちゃんは優しいからね」
「そういう言い方するなよ!!!」
なんて事だ。
なんという事だろう!!
ここに居る人達はみんな、みんなケダモノである。
まぁ、お姉ちゃんはあんなに可愛かったのだから当然と言えば当然だが、それにしたって酷い扱いだ。
「まさかこんな危険な人達だっただなんて」
「いや、誤解なんだって」
「何が誤解ですか! いえ、そうですね。私、皆さんの事を誤解していました。こんなにも怖い人たちだったなんて! そうですね! そういう事なら私はキャロンさんとお姉ちゃんと三人で旅をしますよ!!」
私は恐怖のままに叫び、心の中でお姉ちゃんタスケテー! と叫んだ。
しかし、心の中でお姉ちゃんは困った様に笑うばかりであり、まだ騙されてると驚いた。
やはり、お姉ちゃんは私が護らないといけないんだ!!
もうこれは間違えてはいけない、絶対の決まり事である。
そうだ。お姉ちゃんは私が護る!!
空の向こうからお姉ちゃんを連れて帰って、それでまた二人で生活するまで、私は戦うぞ!
「おい。リリィがとんでもない勘違いをしてるぞ! 何とかしろ!」
「何とかって言われてもな」
「リリィ。二人はともかく俺は誤解なんだ。俺はアメリア姉ちゃんに何も変な事をしてないんだって。二人とは違って」
「余計な事ばかり言うな! カーネリアン!!」
「そうやって自分だけ逃れようとするのは良くない精神だぞ! カーネリアン!」
「もう! カーネリアン君だけ大丈夫とか、そんなの信じられません! みんな、みんな! お姉ちゃんを狙う私の敵です!」
私は三人を拒絶する様に叫び、椅子をテーブルからサッと話した。
もしかしたら私の中に眠るお姉ちゃんに手を出そうとしているかもしれないと考えたからだ。
しかし、宴会が終わってからキャロンさんに先ほどの話は全部嘘だという事を聞き、私は三人に頭を下げるのだった。
まさか嘘だったとは! お姉ちゃんが騙されやすいなんて言っている場合では無い。
反省しなくては!!




