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第61話『お姉ちゃんは何も考えてない様に見えて、色々な事を考えている人だと私は知っています。だからどんな行動にも意味があるんです』

歩き続けて、約五日。


私たちは商業都市ダキンに到着した。


そこは、今までに見た事が無い程大きな町であり、町全体が煌びやかに輝いている様にも見えた。


「ここがダキンですか」


「そうだ。前に来た時はあまり見ている余裕が無かったしな。少しゆっくり見て回るか?」


「そうですね。興味はあります」


私は見た事がないモノばかりの町に圧倒されながらも、リアムさん達と共に一つ一つ店やら、観光名所やらを見ていくのだった。


「へー。色々売ってるんですね」


「まぁ商業都市だからな」


「なるほど。あっ、あそこに何か綺麗な石が売ってますよ」


私はいくつか並んでいる店の中で、ひときわ大きな店に駆け寄った。


そして、店先に並べられている綺麗な石を一つずつ見て、うんうんとよく分からないけど頷く。


「む? やや! 貴女様は!! 父さん!! 父さぁーん! 聖女様だ! 聖女様がまたいらっしゃったよぉー!!」


「何ぃ!!」


不意に私を見て、店の前に立っていた少年が叫び、その声を聞いてか店の奥から一人の男性が飛び出してきた。


いや、本当に、文字通り、奥から店前に置かれた商品棚を飛び越えて、私の前に着地……出来ず、転がる。


「えと、大丈夫ですか?」


私はそんな男の人を癒しの力で癒しながら話を聞こうと近寄ったのだが、すぐさま手を握られてしまう。


な、なに!?


「お待ちしておりました!! 聖女様!! っ!?」


「おい。店主。その手を離せ」


「そうだね。離した方が良いと思うよ?」


「も、もももも、申し訳ございません! 騎士様。どうか剣をお収めくださいィィ!!」


「ちょっ、リアムさん! フィンさん! 虐めちゃ駄目ですよ。私はこの通り、何も無いですから」


「……無事なら良い」


リアムさんとフィンさんは剣を収めて、スッと店主さんから離れた。


店主さんと息子さんはすっかり腰を抜かしていたが、私はとりあえず店主さんを助け起こしながら話を聞く。


「それで、私を待っていたというのは」


「あ、あぁ、あぁ! そうです! そうです! そうでした! 以前聖女様からお預かりした物をお返ししたく!」


「私が預けたもの?」


という事はお姉ちゃんが預けた物という事なんだろうけど。


何を預けたんだろう。


と思っていると、何やらいくつかの綺麗な石を持ってきて、私の前に並べてゆく。


「こちらは、全て以前聖女様に魔力を注いでいただいた物でして、そのどれもが一級品を超える一級品という事で特級品であると鑑定を受けました。この世に二つとない物であると。こちらを店前に置かせていただいているだけで、私の店は以前よりも大きくなり、どれだけ感謝しても足りない程でございます。しかし、何も対価をお渡しせず使い続けるには申し訳ない一品。是非聖女様がこちらへいらした際には、こちら全てをお返しすると共に、何かお礼をとお待ちしておりました」


「なるほど。ちょっと私も覚えていないのですが、こちらは全て私が過去にここで魔力を注いだ物という事でしょうか?」


「はい! そうなります」


「分かりました。では全てそのまま差し上げます」


「ハハッ。ではその様に……? え、えぇー!!? い、今なんと!?」


「いえ。ですから。そのまま差し上げます」


「いやいやいやいやいやいや!! こちらの品はそれこそ値段など付けられない品ばかりですよ!?」


「あー。そうなんですね」


「はい! そうなんです! そうなんです!!」


「売れないという事でしたら、誰か欲しい人に差し上げてください」


「はぁぁああああああ!!? えぇぇぇええええええ!!?」


店主さんは頭を抱えながら、地面を転がりまわっている。


正直、ちょっと怖い。


店主さんの行動に私がちょっと引いていたら、後ろからフィンさんにそっと話しかけられた。


「良いのかい? あの魔導具。売れば結構なお金になると思うけど」


「要りません。お姉ちゃんがもしここに居ても同じ事を言ったと思います」


「それは、そうかもしれないけどさ」


「お姉ちゃんは何も考えてない様に見えて、色々な事を考えている人だと私は知っています。だからどんな行動にも意味があるんです。店主さんの店にこれを預けた事も偶然とか、思いつきだとは思いません。きっと将来何かしらで役に立つのでしょう」


「……そっか。リリィちゃんがそう言うのなら、俺はもう何も言わないよ」


「ありがとうございます」


私はフィンさんとのヒソヒソ話を終わらせてから、店主さんに話しかけた。


一つ思いついた事があったからだ。


「店主さん」


「は、はははは、はい! なんでしょうか!? 聖女様!」


「こちらの魔導具を、例えば世界中の人の為に使うとしたら、どの様に使いますか?」


「それは……そうですね。もし、もし聖女様がお許しいただけるのであれば、魔導具の開発を行っている工房に預けるのが最適だと私は考えます」


「理由をお伺いしても?」


「はい。これは私の個人的な予想になりますが、これから先、人類にとって魔術は今まで以上に必要な物となってゆくでしょう。その中で、魔術の可能性をどこまでも広げてゆくのは魔導具になります。であれば! 魔導具を研究する工房にこちらの魔導具を預ける事によって、聖女様の様にあらゆる魔術を使える様になるかもしれませんし。大規模な魔術を安全に、人の犠牲なく行う事が出来るかもしれません。その可能性が魔導具にはあります!」


「分かりました」


私はその難しい話を、何とか頭の中で理解しようと言葉を繰り返し、意味を探りながら何となくだが理解する。


そこにお姉ちゃんが望む未来の形を、重ね合わせて、答えを導いた。


「では、店主さん。一つだけ約束をしてください」


「はい!! 何なりと!!」


「こちらの魔導具で研究を行う際に、決して、争いの為の魔導具へ繋げないで下さい。憎しみをぶつけ合う様な物に、この想いを使わないで下さい」


「……聖女様」


「私は誰かの幸せを願い。誰かの平穏を喜ぶ。そんな世界を望んでいます。その為に、この願いを、この祈りを、貴方に預けます」


「その願い! 確かに私が受け取らせていただきます。そして、聖女様の望む様な世界をお返しさせて頂く事! ここに約束させていただきます!!」


「ありがとうございます」


私は店主さんの手を握りながら、頭を下げた。


少しずつ、一歩ずつ、一人ずつで良い。


私はお姉ちゃんの願いを伝えていこう。


お姉ちゃんが願った理想を、繋げてゆこう。


この旅で私がしなければならない事が、一つ、確かな形になって見えた様な気がした。


「あ、あの!! 聖女様!」


「はい。なんでしょうか」


「お名前をお聞かせ下さい!! 是非!! 工房の者にも、そして完成した魔導具の恩恵を受け取る者たちにも、これから先、生きる全ての者に、聖女様のお名前を伝えてゆきたいのです!!」


私は店主さんの言葉に、いつも練習していたお姉ちゃんの笑みを浮かべながら、微笑んだ。


優しく、温かく、見た全ての者に希望を与える。お姉ちゃんの笑顔を。


その名と共に、世界に刻みつける。


「私は、アメリア。聖女アメリアです」


「聖女アメリア様! 確かにその名。この希望と共に受け取らせていただきました! ありがとうございます!!」


これで良い。


私は胸の内を満たす満足感と共に店主さんの下を離れ、リアムさん達の元へ戻るのだった。

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