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第56話『しかし、それでも私は、フィンさんに生きて、幸せになって欲しいと考えています』

盛大なお祭りで、沢山のお肉と果汁水を飲みながら、ワイワイと騒ぎ、結局その日はずっとその広場で過ごしていた。


多くの人にお姉ちゃんの事でお礼を言われ、それが何だか居心地が悪かった私は、レッドリザードくんにお願いして仲間を呼んでもらい、森から沢山の仲間を連れて来て貰う。


そして、その場にいた人にレッドリザードくんに火をお願いする方法や、一緒に暮らす方法なんかを教えて、少しだけ気持ちが落ち着くのだった。




翌日。


私とリアムさんは町を出て、次なる町を目指して歩き始めた。


リアムさん曰く、次の町はそれほど遠くないとの事で、その言葉通り半日ほどで次なる町へとたどり着くのだった。


「……着いたか」


「ここが、次の町ですか」


「あぁ」


「ここでは静かに過ごせると良いですね」


なんて、私は少しだけ冗談みたいに言葉を漏らした。


しかしリアムさんはそんな私の言葉にチラリと視線を向けると、小さく息を吐いて難しいだろうなと告げる。


どうやらこの町でも大騒ぎする事は確定らしい。


何とも困った事だ。


でも、お姉ちゃんに会いたい人がそれだけ居るという事なのだから、私も気合を入れないと。


「だが、正直このまま町の中に入るべきか俺は悩んでいる」


「え? そうなのですか?」


「あぁ」


何だろう。


何かあるのだろうか。この町に。


私は町の中や歩いていく人を見ながら考えるが、その理由は分からなかった。


しかし、悩んでいる間にも、現実は私たちに向かって突き進んできている様だった。


「アメリアちゃん!!」


そう。町の外れに立っていた私に向かって一人の女の人が目に涙を浮かべながら突っ込んできたのだ。


「っ!?」


「お前は、確かリーラ。だったか?」


「えぇ、そうよ。そういう貴方はリアム、だったわね? 生きてた。生きてたんだ! 良かった。良かったよ! 早速フィンの所へ行こう! もう、フィンったら、この世の終わりみたいな顔してさ。本当に、勘違いさせるんだから!」


「落ち着けリーラ。コイツは」


「あ、ごめんね。アメリアちゃん。それにリアムも。興奮しちゃってたよ」


「いや、良い。気持ちは分るからな。だが、フィンの所へコイツを連れて行くのは、少し待ってもらえるか?」


「はぁ? なんでさ! あ。分かった! リアム。貴方警戒してるんでしょ。そりゃあ、アメリアちゃんは美少女だからね。貴方が独り占めしたくなる気持ちは分かるわ。でもフィンだって貴方とアメリアちゃんが想い合ってるなら別に邪魔は」


「そういう事じゃない!」


「っ!」


「そういう事じゃ無いんだ。リーラ」


「……は、はぁ? じゃあどういう事だって言うのよ」


段々と声が小さくなっていくリーラさんは、リアムさんから視線を外し、私の方をジッと見た。


そして、何かに気づいた様に目を見開くと、唇をわなわなと震えさせる。


「……なんで」


「リーラ。すまんが、やはり俺たちは」


「待って!! お願い。待って。お願いだから」


「……リーラ」


「フィンには、会ってあげて欲しいの。お願い」


「しかし、それがいい結果に繋がるとは思えないぞ」


「それでも! そうかもしれないけど、今のフィンには生きる希望が必要なのよ……例え、貴女がどんな存在だとしても」


先ほどまでの信頼と愛情に満ちた表情ではなく、まるで見てはいけない物を見てしまった人の様に怯えた顔をするリーラさんに、私は何も言えず、ただ黙り込んでしまった。


「分かった」


しかし、リアムさんは私の事など気にせず、リーラさんの言葉に頷くと、私の手を握ったまま町の奥へ向けて歩き始めた。


その手を振り払って逃げる事は容易い様に思う。


何故なら、リアムさんもリーラさんも、私を無理矢理連れて行こうとはしていなかったからだ。


ただ、それでも、この手を離してはいけないと思った。


この手を離してしまえば、リアムさんもリーラさんもまるで崖下に落ちて行ってしまう様な危うさを感じたからだ。


逃げてはいけないのだと、私は強く感じていた。


そして、私は永遠に終わらない様な距離を歩き、一つの店の前に立つ。


恐らくは酒場だろう。


店の中に入る人も、出て行く人も、皆明るく楽しそうな顔をしていた。


しかし、私はとてもじゃないがそんな気分にはなれず、緊張と恐怖が入り混じった気持ちで店の中へと入るのだった。




リアムさんに導かれて、入った店の中はそれほど悪い空気では無かった。


明るく楽し気な声が響いている。


しかし、そんな店の中で一点だけ重く暗く、苦しい空気の場所があった。


お店の一番奥、カウンターに座る男の人。


その周囲だけが酷く暗い。


だが、お店に居る人も、その場所はまるで何もないとでも言うように、誰も何も気にしていないようだった。


「……フィン」


「帰ってきてからずっとあぁ、なんだよ。アメリアちゃんを護れなかった俺に何の価値があるって、ずっと言ってるんだ」


「そうか」


リアムさんは私から手を離すと、お店の奥に向かって歩き出した。


そして、フィンさんと言われた男の人の傍に立つと、話しかける。


「フィン」


「……その声、リアムか」


「あぁ。そうだ」


「へっ、またお前に会う事になるとはな」


「そうだな」


二人が会話を始めてから、あれほど賑やかだったお店の中が、まるで誰も居なくなったかの様に静かになった。


静寂に包まれた店の中で二人の会話だけが響く。


「情けない奴だな。そうやって酒に溺れているのか」


「なんとでも言ってくれよ。笑うなら笑え。所詮俺はこんな人間だったんだ」


「フン。そんなんじゃアメリアがお前を見た時、どう思うんだろうな」


「っ」


「こんなどうしようもない奴を救う為に命をかけたのか。アメリアも無駄な事をしたもんだ!」


「なんだと!!?」


フィンさんがリアムさんの言葉に椅子から立ち上がり、怒りの声を上げた。


そして、リアムさんの服を掴みながら、リアムさんを睨みつける。


「お前だって同じだろうが!! お前だって、アメリアちゃんに何も出来なかっただろう!?」


「だからなんだ!! こうやって腐ってるのをアメリアが望んでるっていうのか!?」


「なら、俺に何が出来る! 今更だ! 世界から闇の力は消え去って、俺に出来る事なんて何もない! 何も!」


「未来を見て生きろ!!」


「っ」


「アメリアは、お前がそうやって腐って、さっさと死んで、会いに行く事を望んでいたのか? お前はアメリアになんて言った。お前はアイツにどんな約束をした」


「……っ、俺は、だが、俺は、もう俺に出来る事なんて!!」


「ある」


「……?」


「まだお前にも出来る事はある」


「なんだ、それは」


リアムさんはフィンさんと話しながら、チラリと視線を私に向けた。


それに合わせてフィンさんに私に視線を向ける。


そして、フィンさんの瞳がゆっくりと開かれていくのを私は見た。


「……あぁ」


「お前は覚えているか。『リリィ』という名を」


「……覚えている。アメリアちゃんの妹だ。そうか。君が、そうなのか」


フィンさんはフラフラと怪しい足取りで私の所へ来ると、涙を浮かべ、唇を震わせながら私を抱きしめた。


強く、強く。


息が出来ない程に、強く。


「……ごめん。リリィちゃん。俺は、本当に、どうしようもない男だ」


私は締め付けられる苦しさを感じながら、私よりも苦しそうな声を上げる人の背を撫でた。


そして、お姉ちゃんを強く意識しながら、笑う。


「フィンさん」


「……! アメリア、ちゃん」


「『私』がフィンさんを傷つけてしまった事は、申し訳なく思います。しかし、それでも私は、フィンさんに生きて、幸せになって欲しいと考えています」


きっとお姉ちゃんならそう言うだろうと、考えた言葉をただ静かに届けるのだった。

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