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第52話『お姉ちゃん。私はお姉ちゃんと同じ世界を見る為に、お姉ちゃんと同じ道を歩くよ』

お姉ちゃんが命を落としたとお婆ちゃんに言われた日から、私はより一層家の外を気にして生活する様になった。


しかし、どれだけ日にちが経とうと、森は静かで魔物一匹いやしない。


そんな日々が永遠に続くと思われていたが、その日は突然やってきた。


そう。家の外にお姉ちゃんを連れて行った男が現れたのだ。


結界の外で、どうすれば良いのか戸惑っている。


私は急いで家を飛び出して、その男の所へと向かった。




「おい! お前!!」


「……っ! アメリア……? いや、アメリアの妹か」


「そうだよ! 私はリリィ! お姉ちゃんの大切な妹だ!」


「っ! あぁ、そうだな。よく知ってるよ」


お姉ちゃんを連れて行った時とは違う、覇気のない様子に、私は首を傾げながらも男を観察する。


何か激しい戦闘があった様な傷はなく、少しの損傷くらいだ。


なのに、お姉ちゃんが居ないという事だけがおかしくて、私は胸の奥が痛くなるのを感じながら男へと言葉を向ける。


「何で、お前一人なんだ。お姉ちゃんは! お姉ちゃんはどうしたんだ!!」


「っ! ……アメリアは」


「……」


「アメリアは、死んだ」


「は」


私は頭がカッと熱くなって、男に向かって飛び掛かっていた。


男の服に付いていた小さなナイフを奪い取って、それを男の首元に突き付ける。


「なら、なんでお前は生きてるんだ!!! 私からお姉ちゃんを奪った癖に!! なんでお前がここに来るんだよ!!」


「そうだな」


「っ!」


私は男の反応に、両手を振り上げて、力を込めた。


そして、そのままナイフを振り下ろそうとして、お婆ちゃんに止められる。


風の魔術だ。手が少しも動かない。


「止めな。リリィ」


「っ! お婆ちゃん!」


「止めな」


私はお婆ちゃんの言葉に、動かない腕に、苦しい胸の鼓動に、涙を溢れさせて男の上で泣いた。


お姉ちゃんの名前を呼びながら、止まらない涙を流し続けた。




そして私が泣き止んでから、男をお婆ちゃんは家に招いた。


私は一歩だって家に入れて欲しくなかったけど、お姉ちゃんの事を聞かないといけないだろう? なんてお婆ちゃんに言われたら頷かない訳にはいかない。


「一応、先に聞いておこうか。何故ここに来たんだい? 聖人さん」


「責任があるからだ」


「責任?」


「そうだ。アメリアを護れなかった。死なせてしまった責任だ」


「そうかい。それで死んでも文句はないって事なんだね? アンタは」


「あぁ。好きにしてくれ」


「そうかい。なら、責任をとって、リリィにアメリアの話を最後まで全て聞かせて上げてくれ。それが終わったら、どこかに消えな。そして精一杯生きて、生きて、生き抜いて、いつか死んだ時に、アメリアに謝れ。私から言える事はそれだけだ」


「っ!? お婆ちゃん!?」


「……俺が憎くは無いのか?」


「憎いに決まっているだろう?」


「なら、何故」


「そんな当たり前の事を聞くな。アメリアはお前に生きていて欲しかった。だからこうして今生きている。それが全てだろう? それとも、アメリアは最期の瞬間に、恨み言をお前に言ったのかい?」


「……いや」


「ならそれが全てだ。リリィ。分かったね」


「なにも……! 何も分からないよ! お姉ちゃんが望んでたから何さ! そんなの関係ないよ!! コイツがここに来なければ、お姉ちゃんは今でもここで笑ってたんだ!! コイツさえ居なければ、私はお姉ちゃんとずっと一緒に居られたんだ!!」


「……リリィ」


「責任を取るって言うんなら、お姉ちゃんを連れて帰ってきてよ!! ここに連れて来てよ!! 私はお前じゃ無くて、お姉ちゃんに会いたいんだよ!!」


「あぁ、そうだろうな」


「リリィ! それくらいにしな!! アメリアの死はお前にだって責任があるんだよ!?」


「は、はぁ? わ、私には、そんなの」


私はお婆ちゃんの言葉に動揺しながら、視線をさ迷わせた。


しかし、お婆ちゃんはそんな私を真っすぐに見据えながら、ハッキリとした口調で私を責める。


「お前の右手に、何が刻まれている」


「っ」


「アメリアは聖人の証など持っては居なかった。だというのに、旅へ出る事を決めたのは誰の為だ。言ってみな!! リリィ!!」


「……ない」


私はお婆ちゃんの言葉に顔を俯かせながら、震える口を開いた。


「知らない! 知らない! 私は知らない!! だって、私はこんなの望んでなかった! こんな、こんなの、要らなかった! 私はただ、お姉ちゃんと一緒に居られれば」


「それをアメリアも願ったからこそ、あの子はリリィを置いて危険な旅へ行ったんだろう? それから目を逸らしたら、アメリアが可哀想だ」


「う、うぅ。だって、だって……!」


「落ち着いてくれ。彼女を責めるのは違うだろう。全ては俺が」


「アンタも煩いよ! ウジウジ、ウジウジと! 胸を張ったらどうだい! 世界を救ったんだろう!? 過程はどうであれ、アンタたちはそれを成し遂げた。なら、堂々としな! そうでなきゃ、アメリアは何のために命を捨てたんだい! アンタや、リリィ! そして世界に生きる者たちの為に、その命をかけたんだろう!?」


「……っ」


「偉そうに言ってもね。私だって同じなんだ。罪人さ。あの御方の事を知ろうとしなかった。分かった様なフリをしていた。その結果がこれさ」


お婆ちゃんの言葉に私は顔を上げた。


苦しそうに胸を押さえながら、息を吐くお婆ちゃんを。


「……まったく、悔しいよ。どうしてこんな事になってしまったんだろうね」


「お婆ちゃん」


「リリィ。本当はもう少しだけお前を見守ってやりたかったんだけどね。アメリア様が亡くなった以上、アメリア様に命を繋いでもらった私は、もうこの世界で生き続ける事は出来ない」


「待って、待ってよ」


「本当は、私もあの時、死ぬハズだったんだ。深い雪が降り積もりあの世界で。しかし、アメリア様に救われて、今日までその魔力で生きてくる事が出来た」


「何を言ってるの……? お婆ちゃん」


「お前は……」


「なぁ、聖人。お前には責任があると言っていたな」


「あぁ」


「なら、リリィを頼むよ。アメリア様が、こんな世界を憎まず、愛する事が出来たのはリリィのお陰だ。この子は、アメリア様の希望だ」


「分かった。今度こそ、この身に変えてでも、護ろう」


「その言葉、忘れんじゃ無いよ」


「お婆ちゃん!」


お婆ちゃんは光に包まれて、ゆっくりと空気の中に溶けていった。


私はお婆ちゃんの拘束を解こうとしたけれど、少しも動かなくて、消えていくお婆ちゃんをただ見ている事しか出来ない。


「リリィ。アメリア様の足跡を追いなさい」


「お姉ちゃんの、足跡?」


「そう。アメリア様が何を考え、どの様にして、この世界を愛したのか。その軌跡を追うんだ。その先に、きっとリリィの願う答えがある」


お婆ちゃんは最後に私の頭を軽く撫でると、笑いながら消えていった。


私に微かな温かさだけを残して。




そして、翌朝。


一晩中泣いていた私は、荷物を整理して家の外で待っていた男の元へと向かう。


お婆ちゃんが言っていた様に、お姉ちゃんの歩んできた道をたどる為に。


「お待たせしました」


「いや、待ってない」


「そうですか。では行きましょうか」


「あぁ。そうだな。っと、その前に、自己紹介をしよう」


「は? 自己紹介ですか? 何故?」


「これから一緒に旅をするからだ。名前を知っている方が色々と都合も良いだろう」


「そうですか」


「あぁ。俺はリアムという」


「私はリリィです。別によろしくしたくはないですけど、よろしくお願いします」


「よろしく頼むよ。リリィ」


私はリアムさんの言葉を無視して、家から一歩二歩と外へ向かって歩き出した。


そして振り向いて、ここには居ないお姉ちゃんとお婆ちゃんを思う。


「お姉ちゃん。私はお姉ちゃんと同じ世界を見る為に、お姉ちゃんと同じ道を歩くよ。だから、見守っていて」


私は家に向かって深く頭を下げ、リアムさんと共にお姉ちゃんの背中を追う旅を始めるのだった。

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