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第46話『冒険したいお年頃でしょうか』

思えば、随分と遠くへ来たような気がする。


リリィと共に過ごしていた日々が大昔の事の様だ。


しかし、その旅もようやく終わる。


私たちは世界の果て。


闇の力が増え続けているという古代の森へとやってきたのだった。




森は暗く、今までの旅とは明らかに雰囲気が違う事を私たちに教えてくれていた。


「では行きますか」


「待てい!」


「ぐぇ」


私は両手を振りながら、そのおどろおどろしい森へと足を踏み入れようとしたのだけれど、服を掴まれて後ろに引っ張られてしまう。


犯人は勿論リアムさんだ。


「もう! 何をするんですかっ!」


「いきなり飛び込もうとするな。少しは慎重さを持て」


「はぁーい」


私が足を止めると、リアムさんは私から手を離して、地面に落とした。


そして、リアムさんがフィンさんやキャロンさんと話しているのを見ながら唇を尖らせる。


「ぷー。普段はさっさとしろ。早くしろって言うのに。こんな時ばっかり」


「何か言ったか? アメリア」


「何でもありません!」


「そうか。なら良いがな!」


リアムさんは私の頭を乱暴に撫でると、フンといつも通り鼻を鳴らして相変わらず三人で話し合いを続ける。


私は一人で待っているのが寂しくなり、カー君と一緒にお話でもしてようと思って、カー君の姿を探したのだが……どこにも居ない。


あれ? と思い、姿を探すと、どうやら一人で森の中へ足を踏み入れている様だった。


「リアムさん。大変です」


「なんだ。アメリア。少しは待つという事をだな」


「いえ。カー君が一人で森の中へ」


「あァ!? あのクソガキ! 一人で行ったのか! アメリアじゃねぇんだぞ!」


「冒険したいお年頃でしょうか」


「アホな事言ってる場合か! 追いかけるぞ!!」


私はリアムさんの言葉を合図として風の魔術で空を飛びながら、カー君を追いかけた。


地上ではリアムさん達が走って、カー君を追いかけているが、どうも様子がおかしい。


何故かキャロンさんが突然立ち止まり、座り込んでしまったのだ。


しかもリアムさんもフィンさんも同じ様に立ち止まり、空や地面を見ながらボーっとしている様だった。


なんだ……?


リアムさん達が気になりつつも、私はカー君の所へと飛び込み、カー君を止めるべく後ろから抱き着いた。


「カー君!」


「……きゃ。……きゃ」


「カー君? どうしたんですか!? カー君! カー君!!」


私は地面に押し倒したカー君に呼びかけるが、返事はなく、ただブツブツと何かを呟いている様に見える。


その様子に、私はかつて私たちが住んでいた森を襲ってきた人間さん達の事を思い出し、四つの精霊にお願いして、魔王様と同じ闇の魔力を借りる。


これで人の心の中に入り込むのだ。


「えーい!!」




勢いよくカー君の中に飛び込んだ私は、暗い水の中の様な世界を泳ぎ、恐らくは夢を見ているであろうカー君を探した。


そう。闇の力は人の精神に強く作用するのだ。


この世界に生きる生物の憎しみや恨み、恐怖などの感情を集めて強くなる闇の力は、その根底に希望や願いがある為、この力に触れた人間は自分の中にある願いと向き合う事になる。


どうやっても手が届かない願いと。


『父ちゃん!!』


「む!」


私は水の中を反響して聞こえてきたカー君の声に、泳ぎながらカー君の心が今向き合っている願いへと向かうのだった。




暗い水の世界を抜けて、たどり着いた場所はかつてカー君と少しの時間を過ごしたあの家だった。


風が通り抜け、世界には穏やかな光が満ちている。


この光は希望の光だろうか。


『父ちゃん! 帰ってきたんだな!』


『あぁ。今回の獲物は凄いぞ』


『うぉー! デッケェ! こんなの倒したのか!?』


『ワッハッハ。まぁな! どうだ。カーネリアン。父ちゃんは凄いだろう!』


『うん! 凄い! 最高だ!!』


無邪気に、子供らしく笑うカー君を見て、私は目を細めた。


ここには純粋な願いがある。


子供が子供らしく愛する父親と共に過ごしたいという、何も贅沢ではないごく普通の願いだ。


しかし、この世界ではそれが叶わない。


それがただ悲しかった。


『おかえりなさい。あなた』


『あぁ。ただいま』


『あら。随分と大きな魔物を捕まえてきたんですね。料理できるかしら』


『君なら出来るさ!』


『そんな風に言われては頑張らないといけないですね』


恐らくはカー君のお母さんだろうか。


美しく、微笑むその女性はカー君を抱き上げながら父親に向かって楽しそうに話しかける。


これが幸せだ。


これが、幸せだったのだ。


カー君の、幸せ。


だが、それは奪われてしまった。


闇の力が世界に影響を強めて、それによって魔物が狂暴化し、それがカー君の家族を奪った。


それが全ての真実だ。


私は、これ以上カー君の幸せを邪魔する気にはなれず、静かにカー君の世界から外へ出た。


そして、闇の力ではなく、希望へ繋がる力でカー君に幸せな夢を見せる。


目を覚ました時に、悲しい気持ちではなく、嬉しかった気持ちが残る様にと。




カー君を森の外へと運び、私は次にキャロンさんの所へと向かった。


三人とも止まってしまった以上、誰から目覚めさせれば良いか分からないが、とりあえず地面に蹲ってしまったキャロンさんから優先する事にする。


そして、先ほどのカー君と同じ様に力を使ってキャロンさんの中に飛び込むのだった。


カー君と同じ水の世界へ落ちて、そして遠くから聞こえるキャロンさんの声に私は泳ぎ、キャロンさんの世界を見る。


キャロンさんが、これから闇と戦う事が出来るのか、判断する為に。


『おねえーちゃーん』


『あら。どうしたの? 今日は随分と甘えん坊さんね! サリー』


『えへへ。あのね。あのね。きょうは、とってもきれいなお花を見つけたの。それでね』


『うんうん』


『おねえーちゃんに、ぷれぜんと!』


『本当に!? 嬉しい!!』


キャロンさんは恐らくは妹さんであろうその子を抱き上げて、笑う。


そして、キャロンさんはそのまま妹さんと共に、平和な村の中を歩いて、様々な人と話をして、笑い合って、日常を過ごしていた。


あぁ……。


これが、キャロンさんの願いか。


闇の力はその人の願いを見せる。


しかも、本人には決して叶わない絶望的に遠い願いをだ。


つまり、この願いは、キャロンさんにとって決して叶わない夢なのだ。


ただ、愛する妹と笑い合って。


ただ、同じ場所で生きる人たちと何でもない会話をして。


ただ、愛する両親と共に過ごして。


ただ、想い合う子と幼い恋心を向けあう。


そんな幸せが、キャロンさんの遠い夢なのだろう。


……本当に、嫌になる。


これが私の罪だと言うのなら、何故世界は私に罰を与えなかったのだろうか。


どうして関係のない人に呪いを振りまくのだろうか。


それが何も生み出さないと既に知っているハズなのに。




私はキャロンさんから外に出て、カー君と同じ様に、せめて幸せな夢で終わる事が出来る様にと願いをかけた。


こんな事しか私には出来ないけれど、せめてこのくらいはと、優しい夢を見続ける事が出来る様に祈る。


そして、キャロンさんも同じ様にカー君の隣に眠らせて、そのまま再び森へと戻った。


空を見上げているリアムさんと、地面に見つめているフィンさん。


私は大きく息を吐いて、フィンさんに触れるのだった。

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