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第45話『この行為には愛がありません!!』

土の精霊に導かれるまま、獣人さんの森から東の果てへ移動し、オーガさんの住処へ来た私だったが、私は今オーガさんの近くであっちだこっちだと走り回っていた。


「はい。種! こっちも種! こっちにも種! そして、雨、行きますよー!」


私はオーガさんに抱き上げられ、ちょっと高い場所から水の魔術を応用して小さな雨を降らせる。


これを私はずっと繰り返していた。


確かに効率が良い。


土を掘るのはオーガさんの方が速いし、私の方がオーガさんより器用だから種をまく。


そして魔術が使えるから水の魔術で全体の水まきが出来る。


それは分かる。凄く分かる。


でも、こうじゃない。これじゃない。こんなのは楽しくない。


「ストップ! ストップ!! ストーップ!!」


私の声に反応してオーガさん達がみんな動きを止めた。


最大限効率化していた動きが、私を見るという行動に変わる。


「これでは駄目です!!」


「何が駄目なんだ。アメリア」


私の訴えに反応したのは一番大きなオーガさんだった。


全身が傷だらけで、いかにも強そうな雰囲気の漂うオーガさんである。


しかし、だからどうしたという話だ。


「この行為には愛がありません!! 愛ではなく作業の様です!」


「愛?」


「そう。愛です! 皆さんは何故お花を育てたいんですか!? 食べる為ですか!? 違いますよね!」


私は周囲を見渡しながら、オーガさんに言い放つ。


大切な事を。


決して忘れてはいけない事を。


「愛でる為でしょう! 大切にする為でしょう。より速く、より簡単に、より的確に。それはそれで確かに良い事なのかもしれません。しかし、忘れてはいけません。今私たちがやっている事は何ですか!? そう! これは好きでやっている事でしょう! であるならば、楽しくやらねば駄目じゃないですか!?」


「楽しく。と言われてもな。どうやれば良い」


「今まで通りやればよろしい!!」


「……だが、それでは花が咲かない。意味が無いだろう」


「確かに頑張ったのに結果が出ないというのは辛い物です。分かります。ですが、本当に意味がないですか!?」


「っ」


「私が来た時、皆さんは既に試行錯誤をしていた後でした。柔らかい土を選び、そこまで深くない穴を掘って種を埋める。そして水を適量かけて後はゆっくりと待つ。どうしてそんな行動をしたんですか!? 皆さんが挑戦していたからでしょう!? 諦めずに努力し続けていたからでしょう。何故それを捨てるんですか!? 結果だけ得られればそれで良いんですか!?」


「……それは、違う」


「そうでしょう。私もそう思います。ですから、断言しましょう!! ハッキリと。私は言います。不器用でも良い。不格好でも良い。ただ己のやれる事をやって、得た成果は! どんな綺麗な物よりも、どんな素晴らしい物よりも、皆さんの心に響くでしょう! それが大切な思い出になる!」


私は拳を握り締めながらそう断言した。


それがどれだけオーガさんに届いたかは分からない。


分からないが、私のすぐ横に居たオーガさんは、しゃがみ込むと先ほどよりも慎重な手つきで土を掘り、そこにゆっくりと種を置いた。


優しく、潰さず押し込まず、壊れない様に、そっと。


そしてまた優しく土をかけると、私を見た。


まぁ、それくらいは良いか。


「水の精霊さん。祝福を!」


私は水の魔術を使い、その辺りの地面を湿らせた。


「どうか! 綺麗なお花が咲きます様に!」


「どーか」


そして、私はオーガさんと一緒に手を握り、お祈りをするのだった。


今度こそ、オーガさんの苦労が花になって咲きます様にと。


それを見ていたオーガさん達がノソノソと違う場所に散って、それぞれに種を埋め始めた。


しかし、それ以降も最後の水まきとお祈りは私の仕事となった。


本当はそれぞれがやる感じでイメージしてたんだけど、この状態がオーガさんの望むものなら、これが一番だ。


私はあちらこちらへと走りながら水まきを続けるのだった。




オーガさんの所でお花を育てる生活を始めて一ヵ月ほど経った頃。


遂にというか、リアムさん達が現れた。


その姿を見た瞬間に私はお花畑予定地から外れ逃げ出したのだが、あっさりとフィンさんに捕まってしまうのだった。


「さぁ。ようやく見つけたぞ」


「あぅー。ごめんなさい」


「謝ったらそれで、はい終わりって訳じゃねぇぞ。家出娘」


「あのですね。これはそういうソレではなく、こういうアレでして」


「意味わからん言い訳してないで、来い! ったく。イチイチ何かある度に一人でどっかに飛び出しやがって。少しは頭を働かせてだな!」


「申し訳ございません!」


「チッ! 謝れば良いと思ってるだろ? お前」


「はい!」


リアムさんは空を仰ぎながら手で顔を覆って、大きなため息を吐く。


その様子に、申し訳ないなと思いつつも、私はこの行動が無駄では無かったとリアムさん達に訴える事にしたのだった。


「ご心配させてしまった事は大変申し訳ないのですが、実はですね。既に土の精霊さんと最上位契約をしておりまして! この行動にも意味があったのです!」


「そうかい」


「ですので、これでようやく世界の果てへ行けますよ! やりましたね!」


「あぁ、そうだな。本当にな。だが、一つ。たった一つだけだ。絶対に約束しろ。アメリア」


「はい。なんでしょうか」


「闇を封印しに行くときは、絶対に単独行動をするな。絶対にだ。必ず全員で現地に行って、全員で帰る。良いな!?」


「はい!」


「今度はなるべく。じゃねぇぞ。絶対にだ。分かったか?」


「はい。絶対に私は一人で行動しません」


「……なんだ。今回は珍しく素直じゃないか」


「それはもう。これで世界がようやく平和になりますからね。寄り道をする事は出来ません!」


「……」


「リアムさん?」


「いや、何か」


私は首を傾げながら奇妙な顔をしているリアムさんを見上げる。


しかしリアムさんはそれ以上何も言わず、ただ小さく分かったとだけ言うのだった。


なんだろうか。


リアムさんの言葉に妙な物を感じながらも、私はリアムさん達に断って、オーガさん達にお別れをいう為に、少し離れた所に立って、こちらを見ていたオーガさんたちの所へ向かう。


「オーガさん!」


「……行くのか。アメリア」


「はい。申し訳ございませんが」


「いや、良い。いつかこんな日が来る事は分かっていた。お前は旅をしているのだものな」


「はい」


「そうだな。うん。そうだ。あー。一つだけ確認させてくれ。アメリア」


「なんでしょうか?」


「また、ここへ来てくれるか? 是非、この場所が花でいっぱいになった光景をお前に見せたい」


「はい! それでしたら是非! 私も妹にこの場所を案内したいですから」


「そうか。ふふ。そうだな。あー。だが来る時期には気を付けろよ。どうやらこの花は一定の時期にしか花を咲かせないらしい」


「そうなんですか!? むむむ。それは困りましたね」


私は腕を組みながら考えて、アッと思いついた事をオーガさん達に聞く。


「実はですね。私って結構我儘なんですよ」


「それは知ってるが、今更どうした」


「ふふっ。なので、一足先に花を見ても良いですか!? あっ! 先に言っておきますが、これは土の精霊さんにお願いして、ここから先に最高の環境が与えられ続けた場合に見る事が出来る景色なので、あしからず!」


「よく分からんが、構わんぞ」


オーガさん達にに許可を取って、私は土の精霊さんにお願いしてこの周辺の状況を未来の姿にした。


薄いピンク色の花が咲き乱れる綺麗なお花畑に!!


「わぁー! 凄い凄い! 凄いですよ! ね! 見て下さい!!」


呆然としているオーガさん達の前で私はお花畑に向かって駆けだした。


両手を広げて、風に舞い上がる花びらの中で笑う。


「あぁ……綺麗だ」


オーガさん達の嬉しそうな声を聞きながら、私は最大の満足の中でオーガさん達の住処を後にするのだった。

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