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第40話『私はただ状況に流され、人に流され、それが嫌になり逃げて、今、こうしてここにいるだけですから』

大佐さん達に誘われるまま始まった大宴会で、私はリアムさん達と離れてドワーフさん達の武勇伝を聞いていた。


「そうそこで俺は、妻を助ける為にあらゆる困難をくぐり抜けて、走り続けたのだ!!」


「おぉー!!」


「悪を許す事は出来ないからな」


「やはりマクレーンの話はいつ聞いても面白いな」


「確かに。どうやったらそこまで運が悪くなれるのかも疑問だ」


「やかましい。これが俺だ。そしてどんな不運が俺に迫って来ようとも、生き残る! それが俺でもある!」


「格好いいです!」


「うむ!」


満足そうに語り終わったマクレーンさんに続いて、次は俺だ、俺だとドワーフさんが手を挙げる。


誰の話から聞いても良いのだけれど、私が選ぶ方が良いとの事だったので、僭越ながら次の人を選ばせて貰った。


「えっとでは、次はイーサンさん。お願いします」


「ついに来たか」


「おぉ。伝説の話がまた聞けるのか」


「酒が進むな!!」


イーサンさんは、息を軽く吐きながら緩やかに語り始めた。


彼が持っている伝説を。


「そう。あれはどれくらい前の事だっただろうか。俺はドワーフの長からある一つの指令を受けた。それはこのドワーフの村に悪意ある接触をしようとしている者たちの発見と撃退。しかし敵は見た目をドワーフにする事の出来る存在だった。そして、ソイツの策略により、俺は裏切者として同胞たちに追われる事となってしまう。しかし、俺はドワーフの村を護るために、敵と戦う事を決意したのだった。そう。これは誰もが不可能だと言った作戦の話……!」


イーサンさんの息も出来ない様な、凄い伝説の話を聞き。


「そこで私は噛みつかれる事で感染する、狂暴化する病気を止めるべく、その大元に向かって飛び込んだ! しかし、そこには狂暴化病によって狂暴化したドワーフ達が! 私は暗黒時代より発掘した銃と呼ばれる魔導具を使って、彼らを狂暴化病から解放していったのよ!」


アバーナシーさんの手に汗握る様なギリギリの戦いを聞き。


「この世界には世界が闇に包まれていた時代の遺産があらゆる場所に隠されている。その世界中に隠されたお宝を見つける為に、俺はこの帽子と鞭を持って、あらゆる遺跡に挑戦し、宝を発見してきた! 向かう先には伝説のお宝! しかし待ち受けるのは数々の困難! 俺はあらゆる危機をくぐり抜けて、前へ前へと突き進んでいったのさ!」


インディアナさんの心が躍る様な冒険譚を聞き……。


いつの間にか私はすっかり夢の世界へと旅立っていた。




深い深い眠りの中から目覚めた私は、突っ伏していたテーブルから上半身を起こし周囲を見渡した。


死屍累々という言葉が一番似合いそうな惨状が目の前に広がっている。


誰も彼もが、寝息を立てながら床に転がり、テーブルに突っ伏し、壁に寄りかかりながら眠っていた。


リアムさん達も同じな様で、少し離れた所で固まって眠っている様だった。


「起きたか」


「……大佐さん。おはようございます」


「あぁ。おはようアメリア」


「はい」


誰も彼もが夢の世界へと旅立っている中、大佐さんだけは未だにご飯を食べながらお酒を飲んでいた。


「皆。随分と楽しんでいたようだ。久しぶりに来た客人が、楽しそうに自分たちの話を聞いてくれるんだからな。これ以上の幸福は無いだろう」


「……」


「それに、その相手が暗黒時代を終わらせた魔法使いの姫君だというのなら、その喜びもひとしおというものだ」


「っ! 気づいていたんですね」


「当然だ。俺たちは精霊だぜ? 魔力の流れには敏感なのさ。お前さんが普通の人間とは違うという事はすぐに気づいた。そしてどういう存在か探ってみれば、やはりというか魔法使いだ。そして魔法使いでありながら人と共に生き、強力な癒しの力を持っていた存在はアメリア姫。お前さんだけだ。名前も同じだしな」


「素晴らしい洞察力です」


「それでだ。お前さんがアメリア姫だというのなら、一つ頼みがある」


「頼みですか?」


私は首を傾げながら大佐さんを見据えた。


「アメリア姫。俺にお前さんの武勇伝を聞かせちゃくれねぇか?」


「武勇伝、ですか」


「あぁ。そうさ。全てが混沌とした暗黒時代から世界の中心にいた存在! そんなお前さんがどんな世界で生きてきたのか興味があるのさ。駄目かい?」


「いえ。お話しする事は構いませんが、私には人に話せる様な武勇伝はありませんよ」


「……! そうなのか」


「はい。私はただ状況に流され、人に流され、それが嫌になり逃げて、今、こうしてここにいるだけですから」


「例のアルマの奇跡についてはどうだ。アレはお前さんがやったんだろう? あの時、あの国に俺たちの同胞も居て、確かにお前が光の剣を地面に突き刺し、終わらない光を世界に広げたのを知っているぞ」


「あれは、アルマを、魔法使いのみんなを、家族を助けたくてやっただけです。でも、結局あれが切っ掛けとなり、アルマもみんなも命を落としました」


「……そうか。そうだったな。じゃあ、シャーラペトラの件は」


「あの子に元々才能があっただけですよ。私はあの子を拾って育てただけ。ただ、それだけです。せめてもの贈り物とあの子の前を去る時に精霊の力を借りる術を授けましたが、それが切っ掛けとなり、シャーラも亡くなったそうです。私が矢面に立っていれば悪意ある人々からシャーラを護る事出来たのに、それも出来ず、ただあの子が失われてから気づいた様な愚か者です」


「辛い事を聞いたな」


「いえ。これは全て私の罪ですから」


そう。全ては私の罪だ。


逃げてばかりだった私の罪。


だからこそ、今回だけは逃げたくない。


今度こそ。


私を慕うリリィを護る。


それを成す事で、過去の罪が消えるとは思わないが。


それでも、あの子達が光を求めたこの世界に少しでも多くの安寧をと、私は願ってしまうのだ。


「ではアメリア姫はこれから何を望むんだ?」


「世界により大きな光を。と今は考えています。世界の果てにある闇を封印するだけでそれが出来るのかはまだ分かりませんが、今の私に出来る事はそれくらいしかありませんから」


「そうか……」


大佐さんは少しの間何かを考えていたが、不意に顔を上げて私についてきて欲しいと言った。


そして私はそんな大佐の言葉に頷いて、ドワーフさん達の住処の奥へと進んでゆく。




どれほど歩いただろうか。


それほど遠い距離では無かったと思う。


しかし、ここがどの辺りなのだろうという様な考えは、それを見た瞬間に全て消え去った。


「これはな。光を生み出す力だ」


「……爆弾、ですか」


「そうだ。世界に光が溢れてから、魔術が人間にとって当たり前になる前、アルマの様な光の力を欲した人類が造っちまった最悪の発明であり。世界に決して存在していてはいけないものだ」


「はい。その通りだと思います」


「アメリア姫。俺は、俺たちはコイツを世界に解き放たない為に、この山に住んでいる」


「……」


「コイツは確かに大きな光を生み出すが、それと同時に大きすぎる哀しみも生み出す。悪魔の発明だ」


「……はい」


「俺は今の人間が恐ろしい。確かに暗黒時代は最悪の時代だった。しかし、あの時生きていた俺たちは、人間たちは、戦う為だけにこんなモノを造り出す様な化け物じゃなかった筈だ。命を奪うのではなく、繋ぐ為に、希望の為に生きていたハズだ」


大佐さんは涙ぐみながら、爆弾から近くにある灯りに目を向けた。


やや大きな箱の、中に魔力が流れる事で光を発する暗黒時代に造られた魔道具を。


「コイツは人々が共に生きる者の笑顔が見たいという事で、造り出した物だ。コイツを見た時、洞窟は外よりも暗いだろうと人間が俺たちに渡してくれた時、なんて素晴らしい生き物なのだろうと感動した。彼らの様に、誰かの為に生きたいと願う程に。しかし、今はもう違う。今、外に居る連中は化け物だ。何かを殺す為に、その理由を探している。挙句の果てに人同士で殺し合い、奪い合っている。なぁ、アメリア姫。長く世界を見つめてきた魔法使いの姫。何か無いだろうか。人類を止める術は。俺たちはもう、これ以上人類を嫌いたくないんだ」


私は大佐さんの必死な訴えを受けながら目を閉じた。


そして、ずっと考えていた一つの考えを口にする。


「今も人類はおそらく闇の中に居ます。だからこそ、脅威となるかもしれない物に怯えている」


「……」


「もしかしたら今の人に必要なのは、世界そのものではなく、心を照らす光なのかもしれませんね」


その為に何が必要なのかはまだ見えていない。


だが、やらなければいけない事は、分かった様な気がした。


私にしか出来ない。私のやりたい事が、そこにある気がした。


そして、その決意を精霊が感じたのか。


私の内側で熱い力が宿るのを感じる。


それは火の精霊が私と最上位契約をしたという証だった。

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