第38話『命令では無く、お願いですよ。私たちはお友達でしょう?』
山に入ってから二日。
私たちは山の中をさ迷いながら、ドワーフさん達を探していたが、どうにも見つからずに時間ばかりが過ぎていたのだった。
「っ、暑ィ。どうなってんだこの山は」
「どうやらこの山は火山の様ですね。地面の底に火の塊があり、そこで精霊たちが元気に活動しているのが見えます」
「ゲ。火山かよ」
「火山って何だよ。フィン。姉ちゃん」
「火山というのはとーっても熱い火の水がこう地面の下に眠っている場所の事なんですよ。これに触ると人間は大怪我をしてしまうので、気を付けましょうね」
「う、うん」
緊張した様に頷くカー君に、私も頷きながら山の上を見た。
噴火する様な気配は見えないけれど、山全体がかなり活発に活動しているのは確かだ。
ドラゴンさんが生息しているからだろうか?
ん? ドラゴン?
あ! ドラゴン! そう言えばこの山にはドラゴンさんが居るんだった!
私は雷の如く閃いた名案に早速それを実行する事にした。
「ドラゴンさーん!!!」
「っ!? アメリア!? 何をやってるんだ!!」
「え? ドラゴンさんを呼ぼうと思いまして。良い考えでしょう?」
「ドラゴンを呼ぶゥ!? 何を考えてるの! アメリア!!」
「そうだぜ。ドラゴンなんて、俺たちごと山が全部吹き飛ばされるぞ!!」
「そんな大げさな」
私は空の向こう。山脈の彼方から飛んできているドラゴンさんに手を振った。
そして、向こうも気づいたのだろう。こちらへ降りてきている。
「馬鹿! 止めろ! ドラゴンなんぞ呼ぶな!」
「え? え? 何が来るんだ!?」
「伏せてろカーネリアン! 災厄が来るぞ!!」
何故か動揺するリアムさん達を放置して、私は風の魔術を使って浮かび上がり、こちらへ向かってくるドラゴンさんの鼻先に移動した。
「お久しぶりです!」
『おぉ。随分と懐かしい声がするなと思ったら、アメリアじゃ無いか。どうした』
「実はですね。闇の力を封印する旅を始めまして!」
『フハハハ。なんだ。遂に魔王の奴に従うのを止めたのか。それは愉快だな!! なら次は我に付き従うと良い! 子を為す事は出来んが、我らの一族と共に生きる事を許可する』
「あー。いえ。実は封印するのは力だけでして。魔王様自身は助け出すつもりなんです。その後は魔王様と共に世界を巡ろうかと!」
『何ィ。それは面白くないな。うむ。実に面白くない。力を失った魔王など何の価値も無いだろう。そんなモノは捨ててしまえ。アメリアが捨てられぬというのであれば、我が喰ってやっても良いぞ』
「駄目ですよ! 魔王様にそんな酷い事しちゃあ」
『ふん。我に命令するな』
「命令では無く、お願いですよ。私たちはお友達でしょう?」
『お願いというのなら、以前にやり方を教えただろう?』
「はぁ。アレで。良いんですか?」
『そうだ。早くしろ』
「分かりました」
何だかんだと文句を言いつつも協力はしてくれるらしい。
ならばと私はドラゴンさんの口に、自身の口を重ねて、魔力を私からドラゴンさんへ流した。
『ふむ。ふむ! まぁ良いだろう。では願いを言え。アメリア』
「はい。ではこの山に住むというドワーフさんに会わせて下さい」
『どわーふ? あぁ、あのモグラか。分かった。良いだろう。一匹で良いか?』
「はい。お願いします!」
『分かった。ではしばし待て』
ドラゴンさんは大きく頷くと、山の上の方へ飛んで行き、しばらくしてからドワーフさんを一人連れて来てくれたのであった。
そして、私はドワーフさんと一緒にリアムさん達の所へ降りる。
「ドラゴンさん! ありがとうございます!」
『構わん。だが、魔王の奴が復活したらまた来い。正式に奴からお前をもらい受ける』
「それは、まぁ、はい。その時のご相談という事で!」
私は適当に返事を濁しながらドラゴンさんに別れを告げ、呆然としているドワーフさんに語り掛けた。
「突然乱暴なやり方でお呼び出しして申し訳ございません。少しだけお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「うぉっ!? あ、あぁ。あぁ? お前は」
「私はアメリアと申します。ドワーフさん」
「俺の事はアーノルド、もしくは大佐と呼べ。それで、お前さんは何で俺を呼んだんだ?」
「大佐さん。実はですね。私たちは世界の果てにある闇の力を封印する為に旅をしているのですが、封印には精霊さんの力を借りる必要があるんです。それで、この山には火の強い精霊が居ると聞いてきました」
「なるほどな。それはご苦労な事だ。分かった。ならとりあえず俺たちの家に案内しよう」
「ありがとうございます!」
私たちが歩いていた道から外れ、険しい山道をスイスイと登っていく大佐の背を何とか追いかけて、どんどん見た事のない道へと進んでゆく。
本当はもっと早く進めるだろうに、私たちが遅くても大佐さんは何も文句を言わず待っていてくれるのだった。
「も、申し訳、ございません。遅くて」
「いや、構わない。お前たちには筋肉が足りないからな。もっと筋肉があればこの程度、何も苦労は無いだろうが。その辺りは仕方ないだろう」
「筋肉ですか……ふーん! どうでしょう!」
私は手に力を入れて握り、筋肉のアピールをする。
しかし、大佐は私の腕を触り、首を横に振るのだった。
そして両腕を曲げて力を込める。
瞬間、上半身の服が弾け飛び、ムキムキの筋肉が現れるのだった。
「と、まぁ。この程度は出来る様にならないとな」
「おぉー! 凄いです!」
「……ま、まぁ。当然だ。よし。休憩がてら面白い話をしてやろう」
「はいー! ぱちぱちぱち!」
私はもう足がガクガクで動かない為、大佐さんの近くにある石に座りながら、話を聞いて体を休めるべく手を叩いた。
「俺には娘が居るんだがな」
「はい。娘さんですね」
「そう。可愛い娘だ。きっとアメリアも好きになるだろう。ちなみに妻は居ない」
「誰も聞いてねぇよ」
「そうか。しかし気になると思ってな。一応言っておこう。妻は大分前に死別した。今は娘と俺の二人暮らしだ。ちなみに娘は可愛い」
「いつまでも本題に入らないな。このドワーフ」
「……まぁ、ここからが本題だ。その娘がな。ある日、とんでもない悪党に攫われたのだ。その敵は良い筋肉を持っていた。どいつもこいつもだ。皆、良い筋肉をもっていた。しかし悪党だ。それだけの筋肉を持ちながら、悪事を働くなど許せる事ではない。筋肉とは常に正義の為にあるべきだ」
「な、なるほど」
「アメリア。分からないなら頷かなくて良いんだぞ」
「ここまで情報が筋肉モリモリマッチョマンの悪党に娘を攫われたしか無いからな」
リアムさんとフィンさんは呆れた様な声を出し、カー君は私と同じくワクワクしているのか、楽しそうな顔をしていた。
キャロンさんは……ゼェゼェ言ってて話を聞くどころでは無いらしい。
「俺は奪われた娘を取り戻す為に、敵を一人、また一人と筋肉で倒し! 俺と同じ特殊部隊出身の奴も倒した! そして連中は籠城しやすい深い山の奥に隠れたが、俺は単身その場所へ潜入し、敵を全て倒して娘を無事奪還したのだった!」
「おぉー! パチパチパチパチ!」
「敵にはベネットという元部下が居たのだが、コイツは卑劣にも娘を人質にしたのだがな、筋肉の前には全て無意味だ。奴は人質を解放し、武器も手放して、俺と一騎打ちをして敗北した」
「いや、なんで人質離したんだよ」
「武器もなんで捨ててるんだ……」
「全ては筋肉の力だ」
大佐さんの言葉に意味が分からないというリアムさんとフィンさんが呻くが、答えは無かった。