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第32話『上ばっかり見てて、首痛くないですか?』

空を飛ぶオークさんが居るという噂を聞き、草原へ来た私たちだったが、生憎と草原にはその様なオークさんは存在しなかった。


というよりも、そもそもオークさんの姿を見ない。


見るのは魔物と、魔物と、魔物ばかりだ。


歩けど、歩けど、オークさんどころか誰かが生活している様な気配すらないのだ。


「んー。こうも何もないとは思わなかったわね」


「空はずっと見てるけど、何も飛んでないぜ?」


「上ばっかり見てて、首痛くないですか? カー君」


「おう! 俺は大丈夫だ! 姉ちゃん!」


「それは良かったです。でも夜にはまた癒しますね」


「ありがとな!」


カー君に笑いかけつつ、私もまた広い草原の周囲に目を向けた。


とは言っても、代わり映えのない景色ばかりで、どこにも空を飛ぶ何かは無いのだけれど。


どうしたものか……。


「ん!? なんだ!? あれ!」


「どうした。何か見つけたか!?」


「あぁ、あっちの方。なんか煙が上がってる」


カー君が指さす方向を全員で見ると、確かに何かが動いているのが見えた。


微かにしか見えないけど、カー君には煙が上がっている様に見えるらしい。


私たちは互いに視線を交わし合って、その煙が上がっているという場所を目指して進む事にした。




どれほど歩いただろうか。


草原の真ん中に、何やら大がかりな魔術で隠された壁の様な物がある事に気づき、私とキャロンさんはその壁に触れる。


どうやら魔術は常に草原を鏡の様に映しており、目で見ているだけではひたすらに草原が続いている様に見えているという訳だ。


実に上手く出来ている。


「魔術を解除すると、多分この中に居る人に迷惑よね? どうする?」


「何とか中に入る事は出来ないのか? 話の出来る奴が居るなら、話がしたい」


「それは……確かにそうだけど。どう説明するの?」


「世界の危機に旅をしていると言えば分かるだろ。別に何か物を寄こせと言っている訳じゃ無いんだ」


「それはそうだけどさ」


私は言い合いをするキャロンさんとリアムさんを見ながら、壁の周りをテクテクと歩き、何か無いかなと探す。


後ろには警戒しているのか、フィンさんとカー君も付いて来ていた。


そして当然左手はレーニちゃんと結ばれている。


「向こうは放置しちゃって大丈夫ですか?」


「まぁ大丈夫だろ。リアムもキャロンも大人だしな。自分で何とかするさ。俺は子供三人のおもりってワケだ」


「なるほど」


「ん? おい! 三人って俺の事も子供扱いしてるのか!?」


「当然だろう。カー君。何なら君が一番心配な子供だぞ。何せレーニちゃんとアメリアちゃんは互いにお手手繋いでるからな。あー。そういう事なら、カー君もアメリアちゃんと手を繋いだらどうだ? お姉ちゃんと一緒に行動出来るのは嬉しいだろう」


「バカにすんなよ! こんな場所くらい俺一人でも……!」


「カー君!!」


「下がれ!! カーネリアン!!」


「へ?」


カー君が後ろにある魔術の壁に向かって飛んだ瞬間、カー君の後ろから黒く大きな影が出てくるのが見えた。


私とフィンさんは同時に手を伸ばすが、カー君には届かない。


そして、カー君はその黒い影にぶつかってしまった。


「うわっ!」


「んー? なんだ。お前は」


飛んできたカー君を容易く受け止めた、その黒い大きな影はカー君を地面にゆっくりと下ろすと、そのまま体をやや丸めて私たちを見下ろす。


「人間か? 珍しいな。こんな所で」


「貴方はオークさん。でしょうか?」


「おぉ。そうだ。良く知ってるな。俺はオークのウィルバーってモンだ。ここに住んでるオークだよ」


「ウィルバーさん。初めまして。私はアメリアと申します」


「アメリア……おぉ。我らが女神と同じ名前だな。うん。良い名前だ。ううん? よく見れば女神様とよく似ているな」


「そうですか? 女神様。なんだか恐れ多いですね」


「よく似ているよ。まぁ、俺たちには人間の姿はみんな同じに見えるがな! 女神様も人型だったし。違いが分からんよ! ガッハッハッハ」


「ふふ。そうなんですね。女神様に似ているなんて言われてビックリしてしまいました」


「おーおー。それは悪い事をしたな。いや、しかし、人間はみんな同じに見えると言ったが、アメリアは……どこか違うな。輝いて見える」


「あら。それは嬉しいですね」


「こんな別嬪さんなら嫁に貰いたいくらいだな。どうだ? 悪いようにはしないぞ?」


「駄目! アメリアはレーニとずっと一緒!」


「おーおー。これは残念だ。もう既に相手が居たか。では友人として君を我が家に招待しようと思うんだが、どうかな。旅の話なんかを聞かせてくれないか? 旅人さん」


「えぇ。大丈夫で「ちょっ! ちょっと! アメリアちゃん!」はい? 何でしょうか?」


「危ないよ! こんな何も分からない状態で家の中に入るなんて。食われちゃうかもしれないぞ!」


「ガッハッハッハ。人間。大丈夫だ。俺たちは人間なんか喰いやしない。そう。俺たちはオーク。グルメなんだ。人間より旨いモンなら何でも知ってるよ」


「なら、何で会ったばかりのアメリアちゃんを家の中に誘う!」


「ふーむ。そうさな。簡単に言えば……そう。嬉しかったからさ」


「嬉しい?」


「そう。俺たちオークはな。見た目が魔物と殆ど変わらねぇせいで、人間どもに何度も襲われてきた。話をしようと言っても、向けてくるのは武器だ。そんな中、いきなり現れた俺をアメリアは恐れもせず、怒りもせず、憎みもせず、ただ対等の相手として話してくれた。この嬉しさは、お前には分かるまいよ。世界にどれだけ居るかも分からん、友になれるかもしれん相手だ。喰うだなんて勿体ない。そう俺は考えるのさ」


理知的に話すウィルバーさんにフィンさんは動揺した様に一歩下がる。


私はフィンさんの手を握ると、視線と意識をこちらに向けて、話しかけた。


「フィンさん。リアムさんとキャロンさんを呼んで貰えますか? 私は……あの! ウィルバーさん。先に私とカー君とレーニちゃんの三人で家にお邪魔しても良いですか?」


「あぁ。構わんよ」


「後でここに居るフィンさんと、他二人大人の人が居るのですが、家の中にお邪魔しても良いでしょうか?」


「あぁ。アメリアの友達なんだろう? なら、大丈夫だ。ただ、俺と違って弟たちは気が短いからな。あんまり、あんまりな事は言わんでくれ。俺も折角出来た友を失いたくないもんでな」


「分かりました! では、そういう事ですので、フィンさん。事情を話して貰えますか?」


「あ、あぁ。分かった。もし、何かあっても無茶はするなよ」


「はい。分かりました」


そして、私はフィンさんと別れて、ウィルバーさんに案内されるまま家の中に入った。


オークさんと言えば、かつては洞窟の中で生活していた様に思うが、草原に家を作ったということでどの様に変わったのか非常に興味がある。


「おーおー。では案内するぜ。アメリア……と」


「カー君とレーニちゃんです」


「カーネリアンな!」


「カーネリアンとレーニだな。うし。じゃあここから中に入ってくれ」


私たちはウィルバーさんの指示に従って、草原の姿を映している壁に向かって足を踏み出した。


そして家の中に入った瞬間に、思わず声を上げる。


「おぉー!! 何だこれ!? すっげー!!」


「あー。カーネリアン。繊細な魔導具なんだ。触らないでくれ」


「あぁ、分かったぜ!! でも、見るだけなら良いか!?」


「当然だ。コレの良さが分かるなんて、お前センスあるぜ。是非満足するまで見てってくれ」


「……凄い」


家の中に入ってすぐに私たちが見つけた物。


それは遥かな昔。まだ世界が暗黒に支配されていた頃、人々が暗い雲の向こう側を目指して作っていた魔導具であり、失われたと思っていた技術の結晶だった。


「飛行機。まだ残っていたんですね」

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