第3話『あなたはいったい何のために、世界を救うんですか!?』
リアムさんと歩き始めた私は、とりあえずリアムさんともっと仲良くなろうと話しかける事にした。
「本日はお待たせしてしまい、申し訳ございません」
「いや。もっと時間が掛かるかと思っていたが、予想より早かったくらいだ」
「そうですか?」
「あぁ、占い師にはまだ十二の小娘だって聞いていたからな。親が嫌がるかと思っていたんだ」
「まぁウチは両親が居ませんからね。お婆ちゃんは既に説得していましたし」
「そうか」
「事情とか聞かないんですね」
「聞いて欲しいのか?」
「いいえ。話すなら暗くならないでくださいって言わないといけないので、あまり話したくは無いですね」
「そうか。まぁ俺も聞きたくはない。人の事情なんて聞くだけ面倒だ」
「ふふっ、そうですか」
「……」
隣を歩いていたリアムさんが急に立ち止まり、私は何かあったかなと後ろを振り向くとリアムさんは変な物を見る様な目で私を見ていた。
「どうかしましたか?」
「お前は、おかしな奴だな」
「そうですか?」
「あぁ、おかしな奴だ」
「そうですか……」
少しだけショックを受ける。
でもまたリアムさんが歩き出した事で、私も同じ様に急ぎ足でリアムさんの隣を駆けた。
リアムさんとの旅は私にとって新鮮な事も多く、思っていたよりも楽しい事が沢山あった。
「あ! リアムさん! 見てください! 綺麗な鳥が居ますよ!」
「あぁ、そうだな」
「あっ! こっちには格好いい犬さんが!」
「あぁ、そうだな」
「ふふっ、外の世界はこんなにも素晴らしい物がいっぱいあるんですね。リリィにもこの楽しい気持ちを送りましょう!」
私は両手を握り合わせ、遠くに居るリリィに今のこの楽しい気持ちを具体的により多く送った。
しかし、リリィから帰ってきたのは、嬉しいという感情と、少しの怒りだった。
何故、怒り……?
あっ、そうか。私だけ楽しい思いをしているから、リリィが怒っているのかもしれない。
なんだか申し訳ない事をしてしまった。
あ、でも、すぐにリリィから焦ったような気持ちと、嬉しいという気持ちが送られてきた。
気を遣われてしまったのだろうか。
もしくは、何か別の事があった……?
うーん。
「さっきからお前は何一人で悩んでるんだ」
「いえ。そのリリィが……あ、妹がですね」
私はリアムさんに事情を説明し、折角なのでアドバイスを聞く事にした。
すると、リアムさんは呆れたように溜息を吐くと、私を指さして上から見下ろす様に言葉を放つ。
「くだらない。こんなどうでも良い事で悩むな!」
「ふぇ!?」
「良いか? お前の妹はどこからどう見てもお前にだけ全力で好意が向いている。そんなお前が、妹以外と一緒に居て楽しんでいるって知ったから面白くないんだろ!?」
「な、なるほど」
「だから気にすんな! どうせ旅が終われば直接話も出来るし、いくらでも一緒に過ごせるだろ。そこで好きなだけ話せ。分かったか!?」
「は、はい!」
「よし。分かったらくだらん事で悩むな。俺はさっさと使命を終わらせて金貰って、解放されたいんだ。無駄な事に時間を使わせるなよ」
「はい!」
真面目に使命をこなそうとしているリアムさんに、私は背筋を伸ばしながら返事をした。
私なんて、ただ付いていくだけの人だけれど、せめて邪魔をしない様にしようと心に誓う。
しかし、それはそれとして、道端に綺麗な花が咲いていたら気になって思わず足を止めてしまうのだった。
「リアムさん! リアムさん! 見てください! 綺麗な花だと思いませんか?」
「だーかーらー! 少しは無駄を無くす努力をしろと言ってるんだ俺は!!」
「あーん! ごめんなさーい!」
私は右手を振り上げながら走って来るリアムさんから逃れ、頭を両手で護りながら道の先へ走ってゆくのだった。
しかし、途中リアムさんが追いかけるのを止めた為、私も立ち止まる。
「ったく! 大体な、こんなもん、どこにでもある花だろうが!」
「それは、そうかもしれませんが、それでもリアムさんと見た綺麗な花はこれが最初ですよ! 一緒に素敵な物を見て楽しむ。それが旅の楽しみでは無いでしょうか?」
「そうかい」
そんなこんなでリアムさんとの二人旅が始まり、約一日。
既に私たちが住んでいた村を大きく離れ、隣村の近くまで来ていた。
そろそろ日が落ちそうではあるが、リアムさんは野宿でも良いから早く先に行きたいという様な雰囲気だった。
しかし、そんな私たちの耳に何か悲鳴の様な声が届く。
「これは……?」
「魔物の襲撃かもな」
「では行きましょう! おそらくあの方向ですと隣村が危ないかと!」
「……駄目だ」
「え!? な、何故」
「俺たちの目的はあくまで聖なる刻印を持つ者を集め、世界の果てに向かい、闇を封印する事だ。魔物退治なんて俺たちの仕事じゃない」
「そんな……」
「分かったらさっさと行くぞ」
リアムさんは、そう言うとさっさと先を目指して歩き始めた。
しかし、私は悩み、迷った後、覚悟を決めて頷く。
そして、隣村の方へ足を向け駆けだそうとした……が、リアムさんに捕まってしまう。
「っ!? アメリア!? 何をやってる!!」
「リアムさん! 私、ちょっと隣村に行きます!」
「はぁ!? お前、話、聞いてたのか!?」
「聞いてました! なので、リアムさんは先を急いでください! 私も隣村が大丈夫になったのを確認してから後を追います!」
「バカを言うな! 言っただろう!? 聖なる刻印を持つ奴らを全員集めて、世界を救う必要があるんだ!」
「分かってます! なので、私も必ず後から追いつきます!」
「そうじゃない! 分かってるのか!? 俺たちは、世界を!」
「リアムさんは! あなたはいったい何のために、世界を救うんですか!?」
「は!? 何のために、って」
「私は、この世界に住む人を助ける為に、世界を救うんだと思います。だから、隣村の人が襲われているのなら、その人たちを助ける事だって、世界を救うって事と同じ事なのでは無いでしょうか!?」
私はとにかく先を急ぎたくて、リアムさんの腕の中で暴れていたのだが、リアムさんが力を抜いた事で地面に落ちてしまう。
しかし、これはチャンスだとそのまま走り出そうとした。
けれど、またすぐにリアムさんに捕まってしまう。
また離して欲しいと訴えようとした……が、リアムさんは溜息を一つ吐くと、そのまま私を抱えて凄い勢いで隣村に向かって走り出すのだった。
「お前の足じゃ遅くなる。行くなら最速だ。最速で行って最速で終わらせる。良いな?」
「リアムさん……! ありがとうございます!」
「フン。礼なんて要らん。お前を説得するより、こうした方が速いと思っただけだ」
「ふふ、ありがとうございます」
「チッ」
風の様な速さで木々の間を駆け抜けたリアムさんと私は、視界の先で魔物に襲われている人を見つけた。
私は急いで風の魔術でその人を護り、私を空に投げたリアムさんがすれ違いに魔物を腰の剣で両断する。
「リアムさん。私はこのまま空から村の人を護ります!」
「分かった。なら、俺は……奴らを全て倒すだけだな!」
私は空に浮遊魔術を使い、目に見える村の人たちを護る為に風の魔術を使いながら、魔物を風の魔術を使って拘束し、リアムさんをサポートした。
しかし、そんな事をしなくてもリアムさんの強さは圧倒的で、あっという間に魔物は全て倒されるのだった。
魔物が全て倒され、村の人たちも大小怪我はあれど、無事である事を確認した私はとりあえず癒しの力を使い村の人を重傷な人から順番に癒してゆく事にした。
「おい。アメリア。何をやってるんだ」
「え? 癒しの力を使っていますが」
「は? 何故」
「何故って、私が癒しの力を使えるからですね」
「……もう村人は救っただろう。先を目指すぞ」
「いいえリアムさん! ただ魔物を倒しただけでは救ったとは言いません。このまま放置すれば村の人たちは助からないかもしれない。ならば、癒しの力を使える私が癒すことで全員無事に助ける事が出来るんです!」
「……」
「むむむ」
私は道の途中でリアムさんとやった睨み合いをまたする。
そして、私は引かないぞとアピールすると、リアムさんはそれはそれは大きな溜息を吐いて、分かったとだけ言うのだった。
許可が下りた事に私は嬉しくなり、一人一人癒しの力で丁寧に癒し、全員を癒す頃にはすっかり日も落ちていた。
「終わったか? 今から急げば町まで行けるからな。お前を担いで……って、何をやってる」
「え? 魔物が壊した柵を直す手伝いをしています」
「んなモン!! 村の奴にやらせれば良いだろうが!」
「そ、そうですよ。聖人様。助けて下さり、癒してもいただいた。これ以上は」
「何を言いますか! 村の方! リアムさん! 今、ここに手を動かせる人間がいるというのに、それを使わず、村を危険に晒し続けるなんて駄目です! 私は一人だって見捨てるつもりは無いですよ!」
「……っ! こんの」
「聖人様……!」
「分かった。よぉーく分かった。なら最速だ。最速で終わらせる。良いな!? これが終わったら、先を急ぐぞ!! 良いな!?」
「はい!」
「おら! 貸せ! ババァ! お前は向こうで座ってろ! これ以上怪我人を増やして足止めなんて御免だからな!!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
リアムさんは悪態をつきながらも、次々と重い木材を持って、柵の復旧を手伝ってくれるのだった。
それから病気だという人を治し、大鍋で村の人たち全員の夕食を作るのを手伝って、夜を過ごした。
結局、村を出るのは朝になってしまったが、十分にやり切ったと思う。
「うん。良い朝ですね! リアムさん!」
「……そうだな。まったく、本当に、良い朝だよ」
「ふふっ、じゃあ次の町を目指して、いきましょう!」
「へいへい」
私はリアムさんと一緒に歩き出そうとして、後ろから大きな声を出しながら走って来る気配に一瞬リアムさんを見た後、振り返った。
リアムさんは諦めた様に手を振りながら、さっさと対応しろと言ってくれる。
「はい。なにかありましたか?」
私たちの所に駆けてきたのは、昨日病気のお母さんを助けて欲しいと言ってきた女の子だった。
「あのね。あのね。聖女さま! これ!」
「これは……」
「お守り! アルマ様が助けてくれるお守り!」
「……良いんですか? この様な大事な物を」
「うん。お母さんを助けてくれたお礼! ありがとう! 聖女さま! じゃあ、またね!」
「はい。またいずれ!」
私は満面の笑みを浮かべ、小さなお守りを渡してくれた少女にお礼を言いながら、リアムさんと共に先を目指して歩き出した。
まだ、旅は始まったばかりだ。