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第27話『私にしか出来ない事があります!』

暴走する陰魔の里に圧倒されていた私たちだったが、ある程度騒いで落ち着いたのか、冷静になった陰魔さん達と話が出来る様になった。


「いやー。お恥ずかしい。種族特有のアレでして。こう……良い感じのカップルを見ると暴走してしまうんですよ」


「えっと、確か陰魔さん達は恋や愛の話を読み、自分の中で生まれた感情を食べているんですよね」


「よくご存じですね。姫様」


「あ、いえ。それほどでも無いです。昔、陰魔さんのお知り合いの方が居ましたので」


「なるほどです」


簡易的に用意されたテーブルに、私とリアムさんは並んで座り、正面には先ほど陰魔さん達に説明をしていた男の人の姿をした陰魔さんと、お姉様と呼ばれていた女の人の姿をした陰魔さんが並んで座る。


「しっかし淫魔って言っても、イメージとは大分違うんだな。最初なんて道を聞いただけで怯えてたからな」


「リアムさんが怖い顔してたからじゃないですか?」


「あァ!?」


「ほら。すぐに怖い顔するじゃないですか」


「チッ」


リアムさんが怖い顔で威嚇すると、テーブルの向こうにいる陰魔さん達がビクビクと震えていた。


可哀想に。


「ほら。また怖がらせているじゃないですか。ちゃんとごめんなさい。しましょう」


「ガキじゃねぇんだ。誰がそんな事するか」


「もう!」


「ひ、姫様はリアム氏が怖くないんですね」


「え? えぇ。昔は私も凄く怖かったですが、今ではすっかり慣れてしまいました」


お茶の入ったカップを手に取り、飲みながらそう言うと、陰魔さんは安心した様に笑っていた。


そう。リアムさんは勘違いされがちだが、よく話せば良い人なのだ。


「おぉ……」


「やはり愛」


「へっ、よく言うぜ。会った時から我儘放題だった癖によ」


「えー? そうですか?」


「あぁ。村を助けてからじゃないと先に行くのは嫌だって駄々こねてただろ」


「当たり前です! 人助けの為の旅ですよ。困っている人が居るのであれば、行かねば」


「お前はやり過ぎだって言ってんだよ。適度に救って、適度に見捨てろ」


「むー! リアムさん。そうやって切り捨てるのは良くないですよ。良いじゃないですか。助けられる人が居るなら助ければ」


「そういうのは騎士共にやらせろって言ってんだよ」


「私にしか出来ない事があります!」


「ない!!」


「あります!!」


「ない!!!」


何となく始まった会話が、いつもの様な言い争いになってしまった。


マズい。失敗した。と思いながらチラっとテーブルの向こう側に居る陰魔さん達を見ると、何故か満面の笑みを浮かべていた。


「良い」


「良い」


「信頼とはこう形になって表れるものだな。同士イシュラ」


「えぇ。その通りね。同士ロージ」


「えと、あの……」


「あー。我々の事は気にせず続きをどうぞ!」


「えぇ。えぇ。我々は塵も同じ。見ているだけ。見ているだけですから」


「やはりアレか。同士イシュラ。姫様はお優しい故、全ての民を救いたいが、リアム氏は姫様を傷つけたくない故に、姫様を危険から遠ざけようとしている」


「そうでしょうね。同士ロージ。それを素直に言えない所もポイントが高いわ」


「「ん~。美味」」


「……チッ」


リアムさんは不機嫌そうに体を正面に戻すと、カップを乱暴に掴んでお茶を飲んだ。


「リアムさん」


「分かってる。お前も余計な事を言うな」


「……はい」


「見たか? 見たか? 同士イシュラ」


「えぇ。この目でしかと。『俺たちの間には余計な言葉なんて要らねぇ。そうだろ?』」


「くぅー。たまりませんなぁ。それを姫様も分かっているからこそ、あぁやって多くを語らない」


「「ん~。美味」」


リアムさんは苦い物を食べた後の様に、微妙な顔をしていたが、大きく息を吐くとカップをやや乱雑に置いた。


多分相当苛立ちが溜まっているのだと思う。


「俺たちの要件はただ一つ。さっさとここから俺たちを解放しろ」


「……え?」


「アメリア。お前は気づいてなかったんだろうがな。俺たちはコイツ等淫魔の里に囚われてる」


私はハッとなって陰魔さん達を見るが、リアムさん達の言葉にも動揺せず、ニコニコと笑っていた。


「よくよく考えてみれば、お前が一人で霧の方へ向かった時からおかしかったのかもしれねぇ。気が付いたらお前の姿も見えなくなって、俺たちも霧に飲み込まれた。それで今ここに居る」


「それは」


「やはり気づかれていましたか。流石は姫様の騎士」


「ふふ。素晴らしい感覚ですね。我ら陰魔の策に気づくとは」


「お前たちの目的は何だ。やはり俺たちの精を奪い尽くすつもりか?」


「エルフじゃあるまいし。その様な野蛮な事はしませんよ」


「そう。私たちはただ神話の様な物語を見たいだけ」


「永遠に続く、物語を」


「……ん、だと?」


「リアムさん? リアムさん!!」


「ようやく薬が効いてきた様ですね」


「お茶に毒を入れていると思っていたのでしょう。飲んでいなかったようですが、その分呼吸の回数が多かったですね。麻酔毒を多く吸い込んでいたようだ」


『さぁ、幸せな夢の中へ行きましょう。そこで永遠に姫様と愛を確かめ合うのです』


『さぁ』


『さぁ』


気が付けば、テーブルの向こう側に居た陰魔さん達の姿は消えていて、広がっていく霧の中から陰魔さん達の声が響く。


リアムさんはすっかり立っている事も難しくなってしまったようで、ぐったりとしていた。


「どうしましょうか」


『ふふ。姫様はいつ頃お休みになるのかしら』


『さぁ。深い夢の世界へ行きましょう姫様。眠りに落ちた貴女は一つの完成された美となる。それは多くの物語を我々に授けて下さるでしょう。神話の様に』


「……」


『向こうをご覧下さい。姫様』


「っ! アレは、フィンさん! カー君! キャロンさん!!」


『皆さま姫様のお仲間なのでしょう? 大丈夫。寝ているだけですよ』


『そう。そして、これから永遠に夢の中で共に在り続けるのです』


『遊び人、勝気な少年、影のあるお姉さん。さぁ、姫様の相手はどなたが良いでしょうか』


霧が一気に濃くなり、私は風の魔術も使いつつ、自分の手でも引っ張って、何とかリアムさんをフィンさん達の所へ連れて来る事に成功した。


しかし、全員リアムさんと同じ様に寝ているし、霧は動いた私たちを囲むように更に濃くなった。


流石にこうも霧が濃いとどうにも出来ない。


何か打開策は無いか……。


私も意識を保つのがだんだんと厳しくなってきた。


『私としてはやはり王道はリアム様からですね』


『いやいやおねショタも捨てがたい』


『それを言うなら、おねロリも良いのでは?』


『姫様がロリかどうかは議論の余地がありますけれども』


『こちらのお姉さんからしたらロリみたいなモンでしょ!』


『ロリとは相対評価ではなく、絶対評価で考えるべきだ!!』


理由は分からないが、霧が荒れ、一瞬だが、森と空が見えた。


そして方角も何となくだが分かる。


私は風の魔術を爆発させて全員の体を、陰魔さん達が住む森の近くにあった大きな湖へと飛ばした。


『っ!? な、何を!』


『姫様は逃がしませんよ!』


しかし、私の体が霧に絡めとられてしまい、そのまま一気に麻酔毒を吸い込んで瞼が重くなった。


そして何か柔らかい物に受け止められながら、指の一つも動かなくなる。


『残念。リアム氏たちは逃がしてしまいましたな』


『まぁ良いでしょう。元より私たちの目的は姫様ですから』


『そうですな。それに……』


『ふふ。そうね』


『もしかしたら、姫様を取り返そうと彼らが来るかもしれませんからな』


『ふふ、アハハ。アハハハハ!!』


消えていく意識の中で、私は遠くへ飛ばした希望に後の事を託すのだった。

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