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第26話『いえ。それが私にもサッパリ。何も分からないですね』

陰魔とは実に不思議な存在だ。


獣が人の様な知恵と言葉を手に入れたものが獣人。


魔物が新たなる種族として変化したものを魔族。


そして世界に溶け込んだ魔力が自然界の存在と結びつく事で意思を持ったものを精霊。


では、陰魔とは何者なのか。


その答えを私は知らない。


何故なら、陰魔の元となった存在を私は知らないからだ。


一応昔聞いた話では、陰魔は神の世界で語られる神話とその神話に繋がる人の想いに魔力が結びついて形となったと言っていたけれど、その神話というのがそもそも謎だ。


魔力が結びついたという事は精霊に近い存在なのかとも考えたが、存在しない物に結びついて形となる事が出来るのか。


その正確な答えを私は持っていない。


そもそも、神話とその神話に繋がる人とは何なのか。


神の世界に人が居たのか。


分からない事だらけだ。


もしその答えを知る事が出来れば、この世界にある最も大きな秘密に迫れるのかもしれない。


なんて……魔王様じゃないのだから、変な事を考えるのは止めよう。


この世界は神様が作り出して、そして私たちはその世界に生まれて今を生きている。


ただそれだけで良いじゃないか。




という訳で、私はマーセさんとマーセさんのお姉様に連れられて、陰魔の村の長が住まう家に来ていた。


旅立ちの許可を貰う為。との事なのだが……いや、本当に付いてくるのだろうか。


「アメリア!!」


「ん。この声は、リアムさん?」


「お前、ようやく見つけたぞ。ったく。一人でフラフラどこかへ行きやがって」


「ごめんなさい」


「いや、良い」


リアムさんは私をグッと引き寄せると抱きしめながら溜息を吐いた。


どうやら大分心配させてしまったらしい。


申し訳ない気持ちだ。


「ひゃー。お、お姉様、あれ。アレは伝説の」


「えぇ。ワルとお姫様よ! 本来は相容れないハズの二人が、愛によって強く結ばれる! 普段は人を寄せ付けないタイプの彼が、お姫様に出会う事でその閉ざされた心をお姫様にだけ開いて、甘々な生活を送るのよ! もう俺にはお前しか見えねぇみたいな感じだわ!」


「出会いはやはり、捨てられた子犬をワルが拾っている所をお姫様が目撃したからでしょうか!?」


「いえ。もしかしたら別のワルにお姫様が絡まれている所をワルが助けたのかもしれないわ。それで! 『別にお前を助けたかったワケじゃねぇぜ』とか言うのよ!」


「キャー!!」


私はリアムさんから離れ、リアムさんを見上げる。


リアムさんは様々な事に詳しいし、あの陰魔さん達が言っている事も理解出来るのではないかと思ったからだ。


しかし眉をひそめて、奇妙な物でも見るような目で陰魔さん達を見ているリアムさんにも、恐らく彼女たちが言っている事は理解出来ないだろう。


こうなってくると陰魔さん特有の会話である可能性が高そうだ。


「おい。アメリア」


「はい」


「アレは何を言ってるんだ?」


「いえ。それが私にもサッパリ。何も分からないですね。陰魔さんが楽しそう。というのは伝わるのですが。それ以上は何も分からないです」


「そうか……ったく。陰魔の里ってのはあんな連中ばっかりなのか?」


「ばっかり、というのは」


「俺が出会った連中も似たような奴だったからな」


「似たような……」


リアムさんが吐き捨てる様に言いながら、視線を後ろに向ける。


私もその行動に合わせる様に視線を後ろに向けて、木の影に隠れている複数の陰魔さん達を見つけた。


「っ!? ぁっ、かっ! め、目がー!」


「なんだあの美少女は! これが現実なのか!」


「起動戦士ガソダムのヘラウより可愛い!!」


「いや、それは諸説ありだろ」


「ヘラウちゃんの可愛さは素朴な可愛さだから。いつも傍にいて、時に支え、時に叱咤してくれる優しさと強さを兼ね備えた、その美しい精神性がだな」


「だが、見ろ! あの輝かんばかりの美しさを! あどけない表情を! リアム氏と並ぶとかなり危険な絵面だが、単体なら非常に完成された造形であると言える」


「隠しきれないオーラを感じますね。えぇ」


「つまり姫様は世界の危機に立ち上がった、どこかの村か国の姫の可能性があるというワケだな? そしてリアム氏はそんな姫様の護衛に抜擢された戦士!」


「やはりトーナメントか? トーナメントで勝ち残ったのか?」


「きっと決勝戦は姫様の近衛騎士とかで、酷く嫌味な奴だぞ。しかもその嫌味な奴はトーナメントで優勝すると、姫様と結婚してしまうんだ」


「はい。クソ展開ー」


「なめてんじゃねーぞ」


「純愛してる二人の間に入るな」


「魔物の餌になれば良いのに」


「お前とかマジで呼んでないからな?」


「まぁまぁ落ち着け諸君」


木の向こう側では盛り上がっているのか、かなり多くの陰魔さんの声が聞こえ、私はリアムさんと一緒にコッソリと覗き見る事にした。


すると、何やら木に平らで大きな板を釣るし、そこに魔力で文字を書き込んでいる様だった。


「こうやって明確に分かりやすい敵を用意する事で、神話を見ている我々にリアム氏への感情移入をしやすくしているという訳だな。まさに神の御業という訳だ」


「「「おぉー!!」」」


「順調に勝利を重ねるリアム氏。目と目。心と心で通じ合う二人……! だが、決勝戦にはあの憎き嫌味な男! 姫様との僅かな時間もその男に邪魔されてしまう。そしてここでリアム氏と姫様の身分差が明かされる。そう、何を隠そう。リアム氏は貧民の出なのだ。そして少年時代に姫様に救われた経験があり、姫様の為に仕える事を決意した訳だな」


「盛り上がってきた!!」


「そして決勝戦の前の夜。姫様と二人だけの時間を過ごす事が出来たリアム氏は、そこで姫様からお別れを告げられる。決勝戦を棄権して欲しいと」


「何故だ!!」


「愛し合っていたのではないのか!?」


「愛し合っていたからだ! 愛していたからこそ、決勝戦で当たる危険な男とリアム氏が戦ってほしくなかったのだ。おそらくこの辺りで、姫様の回想が挟まり、嫌味な男が姫様にリアム氏の命を奪う的な事を言っているシーンが挟まるだろう」


「ハァー! コイツ!」


「クソ野郎ってすぐこういう事するよな」


「しかし、そんな姫様の愛に気づいたリアム氏は、こう返すんだ。『明日の決勝戦は見ててください』と! しかし姫様は首を振る。そんな姫様に……! リアム氏は!! ただ笑ってその場を立ち去るのだ。決して負けぬと、姫様を護るという覚悟を心に決めながら!!」


「かぁー! これこれ!」


「男とはやはりペラペラと言葉で語らぬ生物。背中で語るのだ」


「それで、それでどうなるんだ!!」


「今、ここにリアム氏が姫様と共に居る。それが全ての答えだろう」


「「「うぉおぉおおおおお!!!」」」


「どんな戦いだったんだ」


「気になるか?」


「あぁ! 気になる!」


「ならば、いつも通り、ペンを手に取れ! そして自らの手で描くのだ!! 理想とするシーンを! 理想とするエンディングを!!」


「うぉぉおおお!!」


「これは、我らが神話の続きを描くという行為だ。では背信行為だろうか? 否。否だ。これは信仰なのだ。神の御意思に、より近づく為に、その足元へ跪く為に! 我らは神の頂を目指そう!!」


「うぉぉぉおおお!!!」


「やるぞやるぞー!!」


「やってやる! やってやるぞー!!」


「俺は今日こそ神の居る場所へ行くんだ!!」


凄い熱狂だった。


それに圧倒された私は、すぐ傍に居たリアムさんと目を合わせながら訳も分からず頷くのだった。


陰魔の里は、私が考えているよりも凄い場所なのかもしれない。

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